■「アメリカアメリカ/America America」(1964年・アメリカ)
監督=エリア・カザン
主演= スタティス・ヒアレリス フランク・ウォルフ ハリー・デイヴィス グレゴリー・ロザキス ルー・アントニオ
この「アメリカアメリカ」という映画、1964年の日本初公開からリバイバルもDVD化もない。
多くの映画関係書籍で名作として記述はあるものの、なかなか観る機会がなかった。
僕は映画雑誌の付録だった名作映画を紹介する小冊子で、そのタイトルを見たことがあるだけ。
それだけにNHK BSプレミアムが今回「アメリカアメリカ」を放送してくれたのは貴重な機会だった。
映画はエリア・カザン監督自身のナレーションで始まり、
ギリシャ移民である自分が親族から伝え聞いた出来事をベースにした物語である、と語られる。
主人公スタヴロスが暮らす20世紀初めのギリシャは、オスマントルコの圧政下にあった。
アルメニア人の友人からアメリカに渡れば自由になれると聞き、憧れを抱いていた。
父と家族は全財産をスタヴロスに託して首都アンカラに送り出す。
成功したら家族を呼び寄せると約束をして。
ところが道中で知り合った旅人に金づるにされ、財産を失ってしまう。
やっとの思いでたどり着いた伯父、港の荷運び仲間、彼を気に入った豪商とその娘。
様々な出会いを経て、アメリカ行きの客船に乗ることができたスタヴロスだが・・・。
この当時のアメリカが、移民たちにとって人生をリセットできる国だったことが、
この映画を観るとよくわかる。
どんな思いで自由の女神を見上げたのか。
しかしそこに至る道程が簡単なことではないのが、3時間近い上映時間にこれでもかと描かれる。
お人好しだったスタヴロスは、旅を続ける中で人を信用することができなくなり、
自分の野心の為なら手段を選ばない人間になっていく。
ギラギラした眼差しが何よりも心に残る。
それでも人間性を失わずにいられたのは、故郷ギリシャで彼の成功を信じている家族あってのことだ。
結果として人を利用し、愛情や信頼を寄せてくれた人々を裏切ることにもなった。
特にスタヴロスに心を許すアメリカ人富豪の夫人のエピソード、
旅で知り合った男が送還の危機に陥る彼を救うラストは涙を誘う。
人生は誰しもが自分の力だけで生きていける訳じゃない。
アメリカの地にキスをする主人公。
それはハッピーエンドのように見えるけれど、映画の後味は決して爽快なものではない。
むしろ重みを感じるものだ。
エンドクレジットでは、エリア・カザン監督がスタッフの名前を読み上げる。
みんな移民なのである。
今のアメリカがこの映画で描かれたような人々によって成り立ってきた歴史を感じさせる。
公開当時に観た批評家センセイたちが名作と推すだけのことはある。
今、厳しい移民政策を掲げるトランプ大統領がもしこの映画を観たら何を思うだろう。