Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

張込み

2019-10-28 | 映画(は行)


◼︎「張込み」(1958年・日本)

監督=野村芳太郎
主演=大木実 宮口精二 高峰秀子 田村高廣 高千穂ひづる

映画評論家の西村雄一郎先生の映画製作にまつわる講座を聴いたことがある。西村先生のご実家は佐賀で旅館をやっており、先生が幼かった頃に映画の撮影隊がやってきて、その旅館を舞台に撮影をした。その映画がこの「張込み」である。映画ができあがる舞台裏を目の当たりにした少年が、後に映画の語り部となった。素敵なことだ。

銃を所持して逃亡中の犯人が、九州に嫁いでいる元恋人に会いに行く可能性が浮上。勤続20年の大ベテランと若い刑事がその女性が住む自宅を張り込む為に酷暑の佐賀にやって来る。映画はその家の向かいにある旅館から女性の毎日を見続け、出かければ尾行する。その様子を淡々と映し出していく。映画オープニングからタイトルが出るまで10分以上かかり、東京から佐賀まで列車で移動する様子が延々と映される。気が短い人なら投げ出してしまいかねない長さ。しかも、女性が出かけたらただの買い物だったり、家に近づく男がいるという思ったら立ち小便して去ってしまったり、映画後半に差し掛かっても肩透かしが続く。そして張込み最終日。ついに動きが。

夫と子供を送り出し、掃除、洗濯、炊事、裁縫、風呂の湯沸かしを黙々と、ニコリともせずにこなす。日常を刑事は見つめ続ける。子供たちにとっては継母だけに、やりとりは距離を感じる。夫は彼女を召使いのように扱う。若い刑事は結婚に踏み切るかどうかまさに迷っていただけに、張込みする視線の先にいる女性を見ながら、自分の恋人、持ちかけられている縁談のことも考えてしまう。こんな退屈な日々を送る女性に、凶悪犯が接するはずがあるまい。ところが、張込み最終日。ついに逃げている男が現れる。山間の温泉宿へ向かう二人を追う刑事。そこで彼は、女性がそれまで見せたことのない幸福そうな表情や男を抱きしめる激しい姿を見ることになる。延々と僕ら観る側も焦らされ続けるので、クライマックスが迫るにつれて緊張感が高まり、ドラマも一気に動きを見せる。

張込みする旅館から見下ろす家庭の風景は、ヒッチコックの「裏窓」を思わせる舞台装置だが、この映画では会話までしっかり聞こえるから舞台劇的でもある。またラジオ番組を楽しむ姿や、市場で聞こえてくる「港町十三番地」、混んだ列車の様子など当時の風俗も興味深い。サスペンス描写の中に人間模様が色濃く描かれるのは松本清張作品の魅力だが、犯人を追う刑事が歩く山里の遠い道のりや祭りの雑踏で焦る様子は映画だからこそ強く伝わる。感情を抑えた前半と元恋人と再会する後半を演じ分ける高峰秀子が素晴らしかった。




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狂った果実

2019-10-22 | 映画(か行)


◼️「狂った果実」(1956年・日本)

監督=中平康
主演=石原裕次郎 北原三枝 津川雅彦 岡田真澄

裕次郎の主演映画なんて親世代が観るもんさー、とこれまで見向きもしなかったのだが、日本映画クラシックの知識が弱いことを近頃感じたので、あれこれ観ようという気になった。フランソワ・トリュフォーがこの映画を絶賛したという話を聞き、「なんぼのもんじゃい」(「極妻」の世良公則風に読んでね)と思いつつ挑んでみたのだ。…反省 <(_ _)>。わたくし、甘く見ておりました。

富裕層の坊っちゃまたちのチャラチャラした様子がまずはしばらく続く。兄夏久(石原裕次郎)とその友人たちに時々付き合いながらも、弟春次(津川雅彦)は馴染めずにいた。「兄貴たちみたいなのを太陽族って言うんだ」と言って距離を置こうとする。兄弟はある日美しい女性恵梨(北原三枝)と出会う。女性に積極的でなかった春次が恵梨をパーティに誘ったことで、夏久と友人たちは驚きを隠せなかった。ある晩、夏久はナイトクラブで中年男性と踊る恵梨の姿を見かけて、声をかける。そこから兄弟と恵梨の三角関係が始まり、いつしか夏久は恵梨に強い思いを抱くようになっていく…。

古い日本映画は台詞が聞き取りにくいことがあるから集中力が必要になる。映画が始まってしばらくは夏久と友人たちの早口なやりとりにやっとついていく感じだったのが、物語が進むにつれて目が離せない緊張感に支配されていく。恵梨との関係を明かさない夏久、春次に素性を明かさない恵梨、二人の間で何も知らない春次。その緊張感を高めるのが編集だ。二人が会話するシーンは話す人物だけで画面が構成されて、常にカットが変わる。カメラ据えっぱなしで全体を捉えるのは3人以上の場面だけで、二人が向き合って喋る場面を舞台劇のようには決して写さない。このテンポに観ている側は乗せられていく。そしてカメラは彼らの表情を追い続けるから黙っている場面からも、感情がジワジワとにじみ出てくる。確かにヌーヴェルヴァーグ時代のフランス映画みたいだ。親世代が観ていたチャラい青春歌謡映画だと誤解していた自分を恥じる。そして衝撃のラスト。

「新しい髪型いいだろ?凄みがあるだろ?」
と言っても「お前に凄みなんてねえよ。」と兄にあしらわれていた春次がみせる、クライマックスの凄みある形相。「10代でしたかった恋愛を春次さんとやってるだけ」と言う恵梨も罪作りなファム・ファタールだが、若くして外国人に嫁がされた彼女なりの事情があるのだろうな。そして常にギラギラした夏久の視線や言葉。兄が女性を巡って弟に嫉妬する。脚本の石原慎太郎も、弟石原裕次郎のカッコよさに嫉妬したからこそ、こんな結末にしたのかもしれない。岡田真澄の異様なカッコよさ、鎌倉や逗子の風景と見どころはたくさん。わたくし、甘くみておりました。

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イエスタデイ

2019-10-15 | 映画(あ行)



◾️「イエスタデイ/Yesterday」(2019年・イギリス)

監督=ダニー・ボイル
主演=ヒメーシュ・バテル リリー・ジェームズ ケイト・マッキノン アナ・デ・アルマス エド・シーラン

主人公ジャックは自作の曲を書いては細々とライブ活動を続けていた。幼なじみのエリーがマネージャーとして支えてくれるが、彼は半ば夢を諦めかけていた。ある日、全世界で12秒間電力が失われるブラックアウトが起きた。その間に交通事故に遭ったジャック。昏睡から目覚めた彼は、次第に世界の異変に気付く。彼以外の誰もビートルズを知らないのだ。やがて彼はビートルズの楽曲を自作として演奏することを思いつく…。

ビートルズに思い入れが強い人はたくさんいる。僕もその一人。幼稚園の頃、訳もわからず家にあった日本盤Meet The Beatlesをひたすら聴き続けたのがそもそもの始まり。中学時代に友人からポール・マッカートニー&ウイングスのLPを譲り受け、Let It Beが弾きたくてピアノを自己流で始めた。高校時代には、ポールのバイオリンベースをわざと左手で弾く強者ベーシストや「ビートルズを聴かないヤツは非国民」と豪語するクラスメートの影響で、さらにディープに聴くことになる。大学時代はCome Togetherを演奏すると言い出した後輩バンドに、「ビリー・プレストンを弾ける鍵盤弾きはこのサークルじゃ俺しかいねえぜ」と言って強引に参加した(笑)。あ、自分の話はこれくらいに。

今回この映画について聞いた時、コミック「僕はビートルズ」を思い浮かべた方も多かろう。ビートルズ誕生前の世界に行って彼らの曲を演奏するなんて許せん!「戦国自衛隊」みたいに皆殺しになればいい、とおっしゃった著名人もいる。映画「イエスタデイ」の話を聞いて、僕もほぼ同じことを思った。観る前はね。

映画が始まって、次々に流れるビートルズナンバーは確かに楽しい。脚本書きながら次に何を流そう?とリチャード・カーティス先生が考えている様子を思うだけで楽しい。When I'm 64の話題が通じない場面、Back In The U.S.S.R.を歌うライブ、じつは盗作という罪の意識と重圧が迫り始める場面のCarry That Weight、レコーディング場面のI Saw Her Standing There、成功と葛藤と恋心が狂おしいまでにも高まって絶叫するHelp!。楽しさとは裏腹にだんだんと切なさが見ている僕らにも募っていく。あー、このままだとジャックはマジで「戦国自衛隊」だよ。

ところが、ここからがリチャード・カーティス先生のうまさ。二段構えの感涙ポイントを経て、「大事なのは嘘をつかないことと、愛してるって伝えることだ」のひと言を聞いたジャックは決心する。この展開ズルい!でも何かが失われたパラレルワールドの話なんだもの、逆にこれはアリでしょ。いやアリです。そして怒涛のクライマックスへ。ビートルズの偉大さを、こんなにストレートに表現されたら僕らは黙ってうなづくしかない。

リリー・ジェームズの好助演。アーティストの意向を無視する音楽ビジネスの可笑しさ。でも今この時代にビートルズがいたら、こんな売られ方してたのかも…と思うとゾッとする。こういう映画が製作されることが、若い世代がビートルズに触れる機会になってくれたら嬉しい。黙っていたら音楽は忘れられていく。既にロックってジャンルは過去のものになりかけている。誰かのカバーでもタイアップでもいい。語り継ぐことの大切さを改めて思う。話題になったハートのStairway To HeavenでZepを、桑田佳祐のカバーでDeep PurpleやCCRを聴くようになった人もいるだろう。ビートルズも「なんでも鑑定団」でHelp!を毎週聴くだけじゃ足りないよ。

リチャード・カーティスが監督した「パレイーツロック」を愛する僕としては、大満足でございました。「ジョーカー」でどんよりしていた気分に、最高の口直しでございました。
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恐怖の報酬

2019-10-14 | 映画(か行)



◼️「恐怖の報酬 オリジナル完全版/Sorcer er」(1977年・アメリカ)

監督=ウィリアム・フリードキン
主演=ロイ・シャイダー ブリュノ・クレメール フランシスコ・ザバル アミドウ

アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督が1953年に製作した「恐怖の報酬」を、ウィリアム・フリードキンがリメイクした作品。日本では地上波で放送されたのが初公開で、劇場未公開の隠れた傑作とされる。TSUTAYAの発掘良品で完全版!と聞いてリリースを待っていた。オリジナルのフランス映画をテレビで観たのは大昔。とにかく緊張しながら観たことと結末に驚いた印象が強く残っている。

それぞれ訳ありの4人の男が南米のある国にやってくる。マフィアが仕切る賭場荒らしで追われる男、不正融資発覚で逃亡した銀行家、中東で爆破テロをやっていた男、ナチ残党狩りの殺し屋。彼らがいる村に近い米国資本の油田で大規模な火災が発生する。会社は爆風で火を消すことを決断、ニトログリセリンの運搬という危険な任務に腕のいいドライバーを雇おうとする。そして4人が選ばれる。ただでさえ危険な荷を運ぶのに、ジャングル、朽ちかけた吊り橋、ゲリラなど数々の困難が立ちはだかる。果たして火災現場にニトロを届けることはできるのか…。

1970年代のフリードキン監督は絶好調だった時代。「フレンチコネクション」でオスカーを獲得し、オカルト映画の傑作「エクソシスト」で僕らを震え上がらせた。この「恐怖の報酬」も、その2作品と同じく、何が起こるかわからない不安と目が離せない展開が魅力だ。決して相入れない4人が道なき道を進む極限状態で、衝突し、エゴをむき出しにし、理解を示しながら進んでいく様子は実にスリリング。吊り橋を渡る場面の緊張感は特に見どころだ。ロープがきしみ、タイヤが板を踏みつけ、車体は大きく傾く。引き込まれる場面だ。

ただでさえ横顔が特徴的なロイ・シャイダーとブリュノ・クレメール。運転してる絵面だけにますますあの鼻筋に目がいく。ブリュノ・クレメールは、フランソワ・オゾンの「まぼろし」や、小悪魔バネッサ・パラディに溺れていく教師を演じた「白い婚礼」、秀作「蘭の肉体」など昔からいい仕事をしている。「恐怖の報酬」では、逃げてきながらもフランスに残してきた者を思う姿が印象的で、単にハラハラさせるだけの映画に終わらせない。そして、台詞を排した見事な結末に言葉を失う。
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ゴスフォードパーク

2019-10-11 | 映画(か行)



■「ゴスフォード・パーク/Gosford Park」
(2001年・アメリカ)

監督=ロバート・アルトマン
出演=クリスティン・スコット・トーマス マイケル・ガンボン マギー・スミス

ロバート・アルトマン監督お得意の群衆劇。カメラが追いかけるのは、1930年代のイギリス貴族のパーティの様子。「上の階」の貴族(と呼ばれる人々)と、「下の階」の人々の対比が面白い。「上」の人々は人を見下すのに対して、「下」の人々は「上」に従いながらも人間的に敬っては決していない。それは、ヘレン・ミレン扮するメイド頭が言うようにあくまでプロとしての”職業”なのだ。キジ撃ちとおしゃべりに終始する「上」の人々は基本的に退屈している。故にゴシップが欲しくて仕方ない。それでメイドたちから噂話を収集するのだけれど、一方で我が身を守ることも忘れない。「主人以外のことは自由に話してもいい」なんて言って。

 やがてマイケル・ガンボン扮する主人は殺される。でもそれはミステリーというよりも人間関係をより際だたせるための物語のひとつに他ならない。ここでは謎解きは二の次なのだ。だから証拠も見逃すような迷探偵しか出てこない。真実に気づくのはケリー・マクドナルド演ずる新人のメイドという、「上」と「下」の関係にどっぷり浸かっていない人物。クリスティばりのカントリーハウスミステリー的物語でありながら、監督の視点はあくまでも人間関係の醜さ・それ故の面白さにある。始まってからしばらくは、あまりの登場人物の数に圧倒されて、顔と名前が一致しないまま見続けることになる。けれどもキーとなる人物が絞られてくればあとは大丈夫。これからご覧になる方々は、これを理由に敬遠などされぬよう。これらをさばくオスカー受賞脚本の見事さ!。

 閑話休題、英国のソングライター対象の音楽賞にアイヴァ・ノヴェロ賞というのがある。人名だとは思っていたけど、劇中ジェレミー・ノーザムが演ずる人物がそれなのね。実在の俳優兼作曲家。ああいう人だとは今回初めて知った。いやお勉強になりました。
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晩春

2019-10-09 | 映画(は行)


◼️「晩春」(1949年・日本)

監督=小津安二郎
主演=笠智衆 原節子 月丘夢路 杉村春子

小津安二郎監督作を実はあんまり観ていない。友達に聞いたら「まずはこれやろ」と勧めてくれたのが、この「晩春」である。いわゆる紀子三部作と呼ばれる最初の作品(こういう知識だけはある・恥)で、父娘ものの傑作とされる映画。挑んでみた。

戦争終結からまだそれ程経ってない頃の鎌倉が舞台。嫁にいかない娘を心配する父親と、周囲から出る結婚の話題をかわし続けてきた娘。彼女が結婚に踏み切るまでの物語。これだけ親族や友人から結婚結婚、結婚結婚と言われたらウンザリするだろうな。だか紀子が結婚に気が乗らないのは、父親が心配だから、父親といることに幸せを感じているから。淡々としたタッチで描かれる日常風景から、彼女がいわゆるファザコン?と簡単に読み取ることはいけない。戦時中に娘は健康を害していたような台詞もあったから、きっとこの親子にもいろんなことがあったんだろう。

再婚した叔父を「不潔だ」と罵ったり、父親も再婚の話がある?と知ったときの原節子の表情。それまでカメラは真正面から笑顔でよくしゃべる原節子を撮っていたのが、黙って文字通り斜に構えて睨むような目つきに変わる。男性は簡単に(でもないのだろうが)「奥さんをおもらいになる」ことができても、女性は結婚しか選択肢がないような時代。離婚を経験した友人も、紀子の理解者になるどころか、結婚をけしかける。古い映画って、時代の空気を切り取って見せてくれる貴重なもの。当時の男女観、結婚観が感じられる。

笠智衆がなんとか娘にを嫁に出そうと懸命になるのだが、うまく言葉にできない感じが切ない。
「相手の人に会いなさい。行ってくれるね。頼んだよ。」
「幸せになるんだよ。なりなさい。なれるよ。なりなさい。」
いやあとにかく不器用。結婚のいいところを説いて、娘をその気にさせることもできない。いざ結婚が決まって、父親で京都に旅行する場面。
「お父さんといるのが幸せなの。」
と言い出す娘をなんとか諭そうとする言葉。突き放しているようで、無理をしてるのがひしひしと伝わる。笠智衆お父さんの年齢に近付きつつある僕だけに、男親って結局これくらいしか言えないんだろうな、とも思えてしまった。結婚前の娘に穏やかに冷静に話ができる人なんて、しずかちゃんのお父さんくらいなんじゃないのかな(「のび太の結婚前夜」)。一人黙ってりんごの皮を剥くラスト。その無言の寂しさが心に残る。

あー、鎌倉に行きたい。

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青い性(妖精たちのプレリュード)

2019-10-07 | 映画(あ行)



◼️「青い性(妖精たちのプレリュード)/Premiery Desirs」(1983年・フランス)

監督=デヴィッド・ハミルトン
主演=モニカ・ブルーク インゲ・マリア・グランゾウ エマニュエル・べアール パトリック・ボーショー

写真家デヴィッド・ハミルトンの作品をご存知だろうか。薄布の向こうから写したようなソフトフォーカスで女のコを撮る雰囲気のある作品たち。風吹ジュンや美保純、渡辺美奈代の写真集にも彼の作品がある。そのハミルトン氏は映画も何本か手掛けている。この「青い性」(旧ビデオ邦題は「妖精たちのプレリュード」)は少女たちのひと夏の経験めいたお話だ。

キャンプにやって来た女の子御一行。うち3人がボートで対岸に見える島へ行こうとするが、途中で嵐に遭ってボートは大破。ヒロインのキャロリーヌは気がつくと浜辺の小屋に裸で寝かされていた。他の二人と共に助けを求めようと訪ねた豪邸で、ピアノ奏者の女性と中年男性が愛し合っているのを目撃する。キャロリーヌは、自分を助けてくれたのはその男性だと信じ込む。やがて3人は島の男のコたちと仲良くなり、恋も芽生えていくのだが、キャロリーヌの関心はあくまでもあの中年男性だった…。

クライマックスは中年男性とキャロリーヌが二人きりになる展開となるのだが、本当は悲しみの底にいるはずの彼がキャロリーヌと…。いや男の行動なんてそんなもんと思えばそれまでだけど、ともかく筋書きはどうでもいい。とにかく映像を愛でる為にこの映画はある。だって女性をどう撮ったら美しく見えるかを知り尽くしたデヴィッド・ハミルトンですよ。なんでもなさそうな場面がすごく絵になる。フィリップ・サルドの美しい音楽と海辺の風景、そして綺麗な女の子たち。他に何がいるのさ。ヒロインのモニカ・ブルークは、デビッド・ハミルトン作品しか出てないようだ。ヒロインを支える優しい友人を演ずるのは、まだ10代だったエマニュエル・べアール。この頃から輝きが違う。

ハミルトンが撮った美保純の写真集、高値がついてるんだろうなぁ。



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ジョーカー

2019-10-05 | 映画(さ行)


◼️「ジョーカー/Joker」(2019年・アメリカ)

監督=トッド・フィリップス
主演=ホアキン・フェニックス ロバート・デ・ニーロ サジ・ビーツ フランセス・コンロイ

軽々しい気持ちで観る映画ではない。どんな物語だろうと受け止める覚悟でスクリーンに向かうことが必要だ。観終わってどよーんとした気持ちでいる。物語に引き込まれたし、この映画が近年ない凄さをもっていることは十分わかるし、説得力もある。でもとにかく救いがないし、観るのが辛い。なんで金払って映画館でこんな辛い思いをしなきゃいけないのか、と何度も思った。でもDVD鑑賞ならきっと投げ出してる。

監督がマーチン・スコセッシの「キング・オブ・コメディ」を意識したと発言したらしい。あれは笑いと狂気が表裏一体になって、笑いながら薄ら寒い怖さを感じる映画だった。エンドロールを迎えた後の気持ちは、敢えて言えば「時計じかけのオレンジ」の時の感覚に近い。どちらもカリスマ的な悪役の物語である。多くの暴動参加者にジョーカーが讃えられるラストは、己の狂気を解き放った結果として、誰からも認められなかった青年が拍手に包まれた瞬間。徒党を組んで悪事に手を染めるアレックスの姿とも重なる。

またミュージカルナンバーが印象的に使われていることも共通点と言えるだろう。「時計じかけのオレンジ」では「雨に唄えば」を歌いながら暴行する。あのシーンに感じた強い嫌悪感。さらにエンドクレジットで再びジーン・ケリーの歌で聴かせるから、あれ程好きだった「雨に唄えば」がしばらく聴けなくなった。「ジョーカー」では、地下鉄で起こる殺人事件で殺される男の一人が、ピエロ姿の主人公アーサーをからかって、ミュージカル「A Little Night Music」のナンバーSend In The Clowns(道化をよこして)を歌う。歌が下手だったから殺した、という台詞もあった上でエンドクレジットではフランク・シナトラの(上手な)歌で聴かせる。ウン十年前に「時計じかけのオレンジ」で感じた嫌悪感と疲労感は確かに似ている。

でも二つの映画は決定的に違う。映画「時計じかけのオレンジ」のラストも確かに救いはないけど、常識を吹っ飛ばすようなどこか痛快な感じすらあった。だから二度と観ねえ!と思いながら映画館を出たけれど、どうしても惹かれずにいられなかった。「ジョーカー」のクライマックス、アーサーが尊敬するコメディアンの前で主張する世間への疑問と考えは確かに胸に響くところはある。そこに至るまでの彼の生い立ちというプロセスがあってこその言葉だからだ。

だがそこに散りばめられたエピソードはあまりにも辛い。しかも今の日本、いや世界で起こっている様々なの出来事に重なってくる。無理解による差別、偏見、笑いのネタが欲しいだけのメディア。福祉の打ち切りで主人公が追い詰められるところなんて、増税と福祉のあり方が騒がれる今の日本がチラつくし、ネグレクトが描かれる場面も昨今の痛ましい事件がどうしても頭をよぎる。みんながピエロの面でデモに集まる場面も、マスクを着用して抗議を続ける香港のデモという現実が重なって見える。ジョーカーの成り立ちには僕らの現実が重なるのだ。

「ダークナイト」でヒース・レジャーのジョーカーは人間不信を煽って僕らの心を揺るがした。ホアキン・フェニックスのジョーカーの言葉は、スクリーンのこっち側で起こってる現実の不安や出来事と、それらに僕らは怒りや煮え切らない気持ちに訴えかけて揺さぶりをかけてくる。決して犯罪者賛美の映画ではないし、彼の言葉に頷く訳にはいかない。しかし、ジョーカー誕生までのこの物語を観たら、そうなるに至ったことを納得させられてしまう。そんな危うさを持っている映画だ。ジョーカーの理屈を認めたくないのに。決して認めてはいけないのに。「ダークナイト」はまさに葛藤のドラマだったが、「ジョーカー」で葛藤させられるのは鑑賞者である僕らなのだ

チャップリンの「モダンタイムス」を観る場面が出てくる。むかーし、「モダンタイムス」を若い子に見せた時に、「社会にうまく適応できない人を笑いのネタにしている。不快だ。」という感想をもらったことがある。「ジョーカー」での使われ方は、上流階級の人々がせせら笑っててそんな目線を感じさせる場面だった。もちろん、ジョーカーの微笑みと、「モダンタイムス」の名曲SMILEをかけてるんだろうけど。

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ヤマトよ永遠に

2019-10-03 | 映画(や行)


◼️「ヤマトよ永遠に」(1980年・日本)

監督=舛田利雄 松本零士
声の出演=富山敬 麻上洋子 仲村秀生 潘恵子 野沢那智

「宇宙戦艦ヤマト」劇場版第3作。テレビシリーズ「ヤマトll」「新たなる旅立ち」の続編という位置付けで製作された作品で、まだ著作者の争いが起こる遥か前の作品だけに、松本零士の名前が前面に出ているのが、今の目線だとなんか感慨深い。実は「永遠に」を観るのはこれが初めて。「完結編」もテレビシリーズもちゃんと観てるのに。

地球脱出の際に離れ離れになってしまう古代進と森雪を軸に、古代守とスターシャの娘サーシャ、暗黒星団帝国のアルフォン少尉が絡んできて、遠く離れても思い合う古代と雪それぞれに言い寄ってくる。
「私を受け入れて欲しい」
「待って、時間をください」
「おじさまの心には雪さんがいるのね」
…な、なんだ。もはや昼ドラのようなドロドロ感。

公開当時に観なかったのはイスカンダル人であるサーシャがわずかな期間で大人に成長するという設定を聞いて、中坊だった僕は「ありえん。ヤマトよ何処へ行くのだ?」と生意気にも思い、当時観るのをためらったのだ。でも高畑勲センセイも「かぐや姫の物語」で、地球上の人間ではないかぐや姫の成長の早さ(ぐんぐん大きくなるから"たけのこ"って呼ばれる場面ね)を描いてるし、もはやツッコミどころではないのかも。

大人になって観てよかったかも。あの年頃じゃこのドロドロ感の面白さは分からんだったろう。特に森雪がアルフォン少尉から、爆弾解除の秘密を引き出せるかがストーリーのカギとなる。しかしその為には、愛する古代進を裏切ることになる。
「地獄に堕ちてもいい。」
と、超重量級の台詞まで口にして泣き崩れる雪。オレは「ヤマト」を観てるんだよな、フジテレビ系の昼ドラ見てるんじゃないよな、と自分を問いただすww。

連続ワープが可能になったり、主砲がやたらパワーアップしてたり、と戦闘シーンも見どころ。暗黒星団帝国の本星にたどり着いてからの展開には唖然。しかしこの年齢で観たせいなのか、健気なサーシャの捨て身の活躍に、なーんかこの呆れた展開を許せている自分がいる。潘恵子の名演に萌え萌え。
サーシャ「おじさま」
tak (//∇//) …なぜお前が照れている?(爆)

壮大なSFメロドラマを堪能されたし。




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