■「ミックマック/Micmacs A Tire-Larigot」(2009年・フランス)
監督=ジャン・ピエール・ジュネ
主演=ダニー・ブーン アンドレ・デュソリエ ドミニク・ピノン ジュリー・フェリエ ジャン・ピエール・マリエル
ジャン・ピエール・ジュネ監督が「デリカテッセン」で初めて日本に紹介されたとき、風変わりな作風の監督が出てきたなぁと思ったものだ。彼の作品には世間からどこかズレたはぐれ者たちが登場する。でも彼らを見つめる監督の視線は常に愛情を感じるし、どれも観ていて元気をくれる映画なのだ。世間からズレた者を描く監督というと筆頭はティム・バートンだろう。しかしバートン監督の近頃の作品はハリウッド映画の枠に強引にハメられている印象がぬぐえない。「エド・ウッド」や「シザーハンズ」のような斬新で自由な発想から生まれた映画ではなくなってきている。ジュネ監督もハリウッドで一度だけ「エイリアン4」を監督している。ロン・パールマンを始めお気に入りの俳優こそ起用していたが、ジュネ監督らしさはちっとも感じられない映画でしかなかった。以来、監督は祖国フランスでメガホンを撮り続けている。ヨーロッパでしか撮れなくて、しかもジュネらしさを十分に発揮できる映画たち。この「ミックマック」を観て思うのは、この人本当に好きな題材を好きなように撮っているんだろうな、ということだ。
映画ファンが唸るような冒頭のプレタイトルが素晴らしい。ビデオショップに勤める主人公(ダニー・ブーン)は、発砲事件に巻き込まれてしまう。ここで彼がテレビで観ている映画がハンフリー・ボガードとローレン・バコール主演の「三つ数えろ」ってところがいい。しかも台詞を画面にあわせて喋ってる熱の入りよう。そして銃弾を受けて倒れたところからタイトルが始まるのだが、これが往年のハリウッドスタイル!モノクロ画面に雲が流れてやたら装飾された文字が俳優やスタッフの名を記していく。ここまででクラシック映画好きはもう嬉しくなる。入院中に家も職場も失った彼は、廃品回収で生活しているホームレスのような集団と暮らし始める。ある日、彼は自分が受けた銃弾の製造メーカーと、父親が爆死することになった地雷を製造した武器メーカーを見つける。そして彼は仲間の助けを借りて、武器商人たちに復讐を企てる・・・。
人間大砲や計算機、軟体女など特殊なキャラばかりのメンバーがそれぞれの得意を活かして、ふたつの企業を罠にかける様は奇想天外で実に面白い。武器メーカーの悪役二人もやたら人間くさい人物で、どこか憎めないのも観ていて楽しいところ。二人の社長の拉致に成功して、これまた面白い復讐を成し遂げる。結末は観てのお楽しみとして、これまでのジュネ作品の中でも娯楽に徹した印象をもつ本作。痛快で、それでいて幸せな気持ちにしてくれる佳作だと思うのだ。
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