Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

トラック野郎 度胸一番星

2024-12-21 | 映画(た行)


◼️「トラック野郎 度胸一番星」(1977年・日本)

監督=鈴木則文
主演=菅原文太 愛川欽也 片平なぎさ 千葉真一 八代亜紀

八代亜紀が亡くなったのは2023年、大晦日を翌日に控えた12月30日だった。大瀧詠一の時もそうだったけど、紅白歌合戦の放送直前に、歌で世間を励ましてくれた人の訃報を聞くのは辛かった。八代亜紀が亡くなって1年になる。カラオケで「舟唄」をどっちが歌うか親父と奪い合い、「おんな港町」が十八番だった時期のある僕だもの。追悼鑑賞で在りし日を偲んでみようかと。

今回僕がセレクトしたのは、「トラック野郎度胸一番星」。八代亜紀はトラックドライバー紅弁天役で出演。桃次郎のよき協力者として華を添えた。劇中、喧嘩騒ぎの後のドライブインで屈強な男たちを前に「恋歌」を歌う。その歌詞が傷ついた千葉真一に寄り添う夏樹陽子に重なるいい場面。クライマックスでは、疾走する桃次郎を助ける活躍も見せる。トラック野郎の女神と呼ばれた演歌歌手がハンドルを握る姿は、当時の人気をうかがわせる。

公開当時小学生だった僕は、これを映画館で観ている。スーパーカーブームに乗って製作された実写版「サーキットの狼」と二本立ての上映。華麗な外国車たち目当てで映画館に行ったのに、帰る時には「御意見無用」のサインが光るデコトラに魅せられていたww。お子ちゃまって単純。2024年12月。ウン十年ぶりに配信で鑑賞。

本作で桃次郎が惚れるマドンナは片平なぎさ。佐渡ヶ島の分校で働く小学校教師役で、インテリぶって空回りする桃次郎をクスクス笑いながらも次第に心を許していく様子が素敵だ。海での水泳場面ではビキニ姿で登場。桃次郎がバタ足を教えてと迫って抱きつこうとするのはなんとも見苦しいが、恋する男なんてこんなもんよね🤣。

それにしても親が顔をしかめそうなシーンもあれこれ。特殊浴場の場面とかあったのか。覚えてなかった。小学生男子だった僕がこの映画で印象深かったのは、豪雨の中で砂金取りの道具を集めようとする片平なぎさと、一番星トラックの装飾が破壊されるスローモーション。そして水色のビキニねw。そういやぁ中坊の僕は片平なぎさ主演の時代劇「雪姫隠密道中記」を毎週見ていたな。この映画が原因か?

今の目線で響くのは"ふるさと"という言葉がつなぐ人間模様。千葉真一率いるジョーズ軍団が故郷を失った寂しい奴らの集まりだと知って、桃次郎が彼らに説くふるさと。家族への思いを取り戻したジョナサンに桃次郎が説くふるさと。荒っぽい人情喜劇、久々に観たけど悪くない😊



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ときめきサイエンス

2024-11-09 | 映画(た行)


◼️「ときめきサイエンス(エレクトリック・ビーナス)/Weird Science」(1986年・アメリカ)

監督=ジョン・ヒューズ
主演=アンソニー・マイケル・ホール イラン・ミッチェル・スミス レナード・ルブロック

80年代の青春映画は大人になってから観たものがちらほら。リアルタイムだった大学生の頃はクラシックとミニシアター系映画に狂ってたから、お気楽なハリウッド映画からは距離を置いていた。たまに観ても「こんなんが観たいんじゃない」と一蹴(生意気なw)。トム・クルーズがええカッコしいするだけの青春ものなんてもう目の敵(笑)。特に親の留守中にお綺麗なコールガール呼んでよろしくやっちゃうイケメンボンボンの話(「卒業白書」のことね)なんてその筆頭だった。

一方で80年代の洋楽コンピ系サントラ盤が大好きなので、本作はちょっと気になっていた。ダニー・エルフマンが当時在籍したバンド、オインゴボインゴが主題歌を担当している。サントラ未収録だがヴァン・ヘイレンやOMD、ラット、マイク・オールドフィールドがどんな使われ方をしてるのか。本編のあらすじもよく知らず今回挑んでみた。

さて本編。冴えない15歳男子2人が「フランケンシュタイン」の映画を観て、モテないなら自分で理想の女性を作ればいい!と思いつく。コンピューターに理想像を読み込ませ、バービー人形をプラグでつなぐ。すると嵐が巻き起こり、目の前にセクシーな女性が現れた。リサと名付けられた彼女が。創造主たる冴えない少年たちを自信ある男にするために大暴走するお話。

…😟うわっ。
「卒業白書」と同じく、親のいぬ間に大人の女性とあんなことやこんなことするヤンキーボーイの話じゃねえか!確かに性にまつわる乱れたお話ではあるのだが、不思議と「卒業白書」で(あの頃)感じた嫌悪感とは全く違った。いやむしろ好印象。

他のジョン・ヒューズ監督作と同じく、たった1日(又はわずか数日)の出来事が主人公を一歩成長させるお話。さらに親のいない一夜の話だから、「ホームアローン」に代表される90年代の作風にもつながる。確かに軽くって、話も浅くって、親世代の言い分なんかどうでもよくって、都合もよくって。大学生当時の硬派な映画ファンを気取っていた僕なら、この映画を毛嫌いするに違いない。でも、あれこれ観てきた今だとむしろ痛快に感じる要素が見えてきた。

いわゆるオタク集団がモテ男や優等生に逆襲する映画の系譜。本作の2人はコンピューターに詳しくて性への関心が人一倍強い。PLAYBOY誌やお気に入りの雑誌たちがトランクに入れて保管されてるのが妙に微笑ましくって😆。そんなオタクな2人が、一夜のハチャメチャなパーティを通じて少しだけ自分に自信を持つようになる。ダメ男が頑張る話が好きな今の自分にとっては、問答無用のお気楽さは抜きにして、まぁ悪くない印象が残った。2人がそれぞれのハッピーを手にするラストはいいじゃん♡

リサが駆使する魔法のような能力。どピンクのオープンカーやポルシェ928、フェラーリのガブリオレを出現させ、意地悪をする兄貴(若きビル・パクストン!)をジャバ・ザ・ハットみたいなクリーチャーに変える。ラストには一夜の大騒ぎを何事もなかったようにしてしまう。理屈なんてどーでもいい。都合がいいにも程があるww。まぁ、そこはお気楽な80年代ハリウッドの産物と言うことで。

2人をいじめるモテ男の片方は、ロバート・ダウニーJr.。そして主人公2人が創造した理想の美女リサは、本作の前年「ウーマン・イン・レッド」でタイトルの赤いドレスの女を演じたケリー・ルブロック。



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チャイナ・シンドローム

2024-10-12 | 映画(た行)


◼️「チャイン・シンドローム/The China Syndrome」(1979年・アメリカ)

監督=ジェームズ・ブリッジス
主演=ジェーン・フォンダ ジャック・レモン マイケル・ダグラス ダニエル・ヴァルデス

原子炉に欠陥が見つかった原子力発電所で、いくつかの事故が続いた。ジャック・レモン演ずる所長は停止を提案するが、会社と政府は発電を続けさせようとする。テレビレポーターの力を借りてこの事態を告発するのだが、国家という権力がその前に立ちはだかる。

1986年5月。僕は映画鑑賞のメモにこの映画のプチ感想と共に次のような文章を書いている。

-ー先月29日から30日にかけて、ソビエトで原子力発電所の大事故があったらしい。かなりの大惨事になっている。安全装置はとてもずさんなものだったと報道されている。既にポーランドやスウェーデンに被害が及んでいるとかテレビは言っている。回り回って死の灰が日本に及んだりするのだろうか。核シェルターはないものか。ーー

1986年の僕は、チェルノブイリ原発事故の報道をどう受け止めていいのか分からないようだ。その様子が伝わってくる。でもインターネットもない時代。当時の誰もがこんな感じだったのかも。

チェルノブイリのような惨事が起きる映画ではない。メルトダウンした核が地球を侵食して、反対側の中国に被害が及ぶかも…という恐怖を前提にした社会派作品。政治的な発言もしていた当時のジェーン・フォンダらしい出演作でもあった。

それから四半世紀経って東日本大震災、福島の原発事故が起こる。事故から始まった出来事や被災地の状況。自分に何ができるのか。今もなお続く現実の問題。あの頃感じた思いを忘れてはいけない。日本での現実からすれば、映画「チャイナ・シンドローム」で起きた事故は小さなものかもしれない。しかし社員を殺してまで事実を葬り去ろうとした映画での会社や政府の姿は、違った意味での怖さがある。そして僕らはこの10年余り、原発事故から視線を逸らそうとするような人々の言動をあれこれ目にしてきた。

1986年の僕に言ってやりたい。
これが現実だぜ。



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台風クラブ

2024-08-09 | 映画(た行)


◼️「台風クラブ」(1985年・日本)

監督=相米慎二
主演=三上祐一 紅林茂 松永敏行 工藤夕貴 大西結花

10代で観た方がよかったのか。それとも今の年齢で観たからよかったのか。どちらもあるように思えるけれど、いずれにせよ言葉にし難い映画なのは間違いない。相米慎二監督作、やっぱり苦手だなー。

子供の頃、台風が迫ってくると何故かワクワクした。外には出られないけれど、窓越しに見える風景はいつもと変わる。大人たちはあたふたしている。それは非日常だった。台風の目に入って風が静まったタイミングで外に出た。その静まり返った空の色は今でも覚えている。大人になってからは、災害への備えであたふたする側にまわる。住宅関連の仕事してたから、通り過ぎる前から鳴り続ける電話番をしたこともあったな。この映画での台風襲来の一夜も狂気をはらんだ非日常だ。

「台風クラブ」は、台風直撃で学校に取り残された数名と、学校サボって東京に出かけた一人の姿を淡々と追った映画。今撮ったら問題になりそうな描写にハラハラ。プールで男子をコースロープでグルグル巻きにしてパンツ脱がしたり、男女が下着姿で暴風雨の中踊りまくったり、工藤夕貴は親の布団にもぐってなんかモゾモゾやってるし。学校の管理体制やら、授業中に私生活のトラブルやら。ロケ地だった自治体では、内容への反発で上映されなかったとか。

ティーンエイジャーの学校や親への反抗心、それぞれの胸にくすぶってる思いが台風の晩に爆発する。当時のヒット曲「もしも明日が」を歌いながら踊り狂う。ずっと挨拶し続ける彼の執拗な怖さは、この場面早く終わらねえかなと思って観ていた。

「どんなに偉いか知らないけどな、15年経てば今の俺になるんだよ」
って三浦友和の台詞が響く。そんなこと学生に言ったって分かる訳がない。それはある意味、電話越しに勢いで教師を批判するような若さへの嫉妬。

バービーボーイズの「暗闇でダンス」聴いて踊ってるけど、あの際どい歌詞の曲をよくもまあ当時聴いてたよな。それも今の大人の目線。相米慎二監督の「雪の断章」でもバービー聴きながら踊るシーンあったよね。







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男性・女性

2024-07-12 | 映画(た行)


◾️「男性・女性/Musculin Feminin」(1966年・フランス)

監督=ジャン・リュック・ゴダール
主演=ジャン・ピエール・レオ シャンタル・ゴヤ 

勝手ながらアイコンに使用している画像。出典はこの映画、ジャン・リュック・ゴダール監督の「男性・女性」。ジャン・ピエール・レオのキョトンとした表情がいい。社会人になってすぐの時期にトリュフォーの「大人は判ってくれない」を観て、それ以来、ジャン・ピエール・レオが演ずるどの役にも、やり場のない日常の不満を抱え込んでるように見えて、どこかで自分を重ねていた。「男性・女性」のチラシのデザインは、円い画像を中心に単色の黄色で彩られたシンプルなデザイン。それが気に入って、以来アイコンとして勝手に使い続けている。

さて。映画「男性・女性」は、政治好きゴダールが若者へのインタビューを織り交ぜながら、当時の若者の姿と時代の空気をフィルムに閉じ込めた作品だ。ベトナム反戦や政治や広く世の中に反抗的な態度をとりながら、一方で恋と日常を楽しむ。そんな"マルクスとコカコーラの子供たち"の姿を追う。兵役帰りの主人公ポールと、新人歌手のマドレーヌの恋。

すぐに自分の哲学や信念を大声で唱え始めるポール。マドレーヌを口説く場面も自分本位で強引で観ていてイライラする。もっとイライラするのはゴダールの演出。やっぱり相性が悪いのだろうか。あまりの長回しと、街頭生録りによる環境音混じりのセリフが、なんか焦ったい。

世論調査だというインタビューも、個人的な質問から政治的な立場や考えを「知らない」「答えられない」と言われながらも、しつこく問いかけ続ける。女の子を口説く場面も似たようなやり取りが延々続く。まぁこの監督こそ観客がどう思おうと自分を貫く人だから。しかし、突然突き放すような空虚なラストシーンを押し付けてくる。会話ばかりでストーリーが進んでいなかったように感じていたから、これには驚かされる。

ヒロイン、シャンタル・ゴヤが歌うシャンソンと、ファッションがキュート。自分をほっといて友達とこそこそ話す彼女に苛立ったポール。そんな彼の頬にキス。素敵な場面だ。

政治色の強さがあって、確かにめんどくさい映画だが、そこを耐えれば(笑)ちょっとめんどくさいやつらの青春映画として観ることもできるかと。



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007/ゴールデンアイ

2024-05-13 | 映画(た行)


◾️「007/ゴールデンアイ/Goldeneye」(1995年・イギリス)

監督=マーティン・キャンベル
主演=ピアース・ブロスナン ショーン・ビーン イザベラ・スコルプコ ファムケ・ヤンセン

80年代のテレビ番組「探偵レミントン・スティール」で人気があったピアース・ブロスナン。90年前後にはタバコ(Speak LARKってヤツね・懐)のCMで、まさにスパイ映画のような役柄を演じていたのをよーく覚えている。そして5代目ジェームズ・ボンドを襲名することになる。



ピアース=ボンド第1作「ゴールデンアイ」は、時代の変化が色濃く反映された作品となった。1991年のソビエト崩壊後、最初に製作された007作品なので、国家間の露骨な東西対立が描かれる訳ではない。旧ソ連が開発していた武装人工衛星をめぐる、ロシアの犯罪組織ヤヌスの陰謀が物語の主軸だが、ボンドを追いつめる別な悪役が登場する二重構造。敵味方と単純に二分できない筋書きは、複雑な世界情勢の反映でもある。

007映画の華である女性キャストは、ロシアの秘密宇宙基地のプログラマーであるナターリャ。演じるイザベラ・スコルプコは東欧出身。ロシアの女性と親密になる展開は「ロシアより愛をこめて」や「私を愛したスパイ」があるが、それは任務を帯びた敵味方だった。本作ではロシアの一般女性で、ボンドが彼女の窮地を救う王子様の様に描かれるのは面白い。

しかし。ボンドの職場MI6も様変わり。新任の上司Mは女性となる。ジュディ・デンチはこれが初登場で、ダニエル・クレイグ主演作まで続くことになる。上司はボンドを「冷戦の遺物」と呼び、秘書マネーペニーにセクハラ呼ばわりされる始末。ボンドの肩身が狭くなる時代が来るなんて。公開当時、オールドファンはこうしたやり取りに唖然としたに違いない。

されど、マネーペニーは、
「誘いをかけるばっかりはセクハラ。そうでないならちゃんと行動で示して」
と言ってる訳で、決して拒絶しているのではないのだな、と再鑑賞して今さらながら気づいた私。初見からウン十年経ったけど、その間に、マネーペニーのこの台詞に似たようなことを、自分も言われたこともあったよな、なかったような。映画で気付かされること、あるよね(汗)。

本題に戻ります。

ピアース・ブロスナンのボンドは、スマートだし、アクション場面も派手でカッコいい。冒頭のダムからのダイブは印象的だ。ましてや飛び立つセスナ機を追いかけて飛び乗るなんて、戦車で追跡して街を破壊するなんて、歴代ボンドの誰もやってない。でも、何故だろう。これまでの先達ボンドに感じていたヒーローとしての余裕や危険な香りとはどこか違う。マシンガンをぶっ放しながら失踪するアクション場面はスリリングだけど、それがジェームズ・ボンドでなくてもいい気がした。従来のゴージャスなスパイ映画から、仕事熱心なエージェントが活躍するアクション映画にシフトした印象。










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ちひろさん

2024-04-29 | 映画(た行)


◾️「ちひろさん」(2023年・日本)

監督=今泉力哉
主演=有村架純 風吹ジュン 豊嶋花 リリー・フランキー

海沿いの街のお弁当屋さんで働いているちひろさんを中心に、彼女をとりまく人々が少しずつ変わっていく姿を描いた好編。ネトフリで配信が始まって以来好評を目にしていて、そんないい話を一部だけのものにするなんて…映像コンテンツは商品だけどみんなが観られてナンボじゃないのか、とちょっとイラついていた。DVDで観られるようになり、めったに新作を借りない僕が迷わずセレクト。

不思議な魅力をもった作品。
「ちひろさんなら大丈夫。あなたなら何処にいても孤独を手放さずにいられるから」
クライマックス、風吹ジュンのひと言が心にしみる。その意味を考えさせられる。誰にも干渉されず、自分の居場所があって、自ら他人に深入りはしない。でも他人と関わることを拒絶してるわけでもなく、むしろサラッと人をつなぐ役割を果たしてくれる。

ここで使うべき言葉とは違うかもしれないが。ちひろさんは人たらしの一面がある。愛想が良くて、人を悪く言わない、人の話を聞いてくれる。決して周囲のご機嫌とりでも、人づきあいが上手でもない。それでもクライマックスの屋上シーンのように周囲の人をつないでしまう。

その一方で自分の孤独を抱えている。不安だってないわけじゃないだろう。でも自分で自分の機嫌をとれる人なんだろう。ストレスが溜まったらラーメンを食べ、海を眺める。人恋しくなったら、女友達に寄り添って、異性との愛を求めないけれど欲しくなったらそれを隠さない。甘え上手なところもある。

そんなちひろさんの過去は、"店長"リリー・フランキーから少しだけ語られる。そのわずかな言葉と、ボロボロの靴を履いたリクルートスーツ姿の彼女がビルの屋上に佇む映像は何よりも雄弁だ。必要とされる存在だと感じられないことの辛さと、形はどうあれ必要だと思ってもらえることの大切さ。劇中登場する2つの面接シーンに涙してしまった。コロナ禍の数年間に、人との距離感やつながりを考えさせられただけに、本作や「PERFECT DAYS」が多くの人の心に染みるのだろう。

食事のシーンも、家族や人とのつながり、自分を養い元気づけること、誰かを思うことにつながっていて、映画化にあたりよく練られた演出だと思った。美味いもんなら誰と食べようと一人で食べようと美味いはず。でも家族との食事がプレッシャーでしかない女子高校生オカジが、マコト少年が世界一と言う母ちゃんの焼きそばを食べる場面。こっちまでもらい泣きしてしまった。マコト少年の花束のエピソードもよかった🥹

多くの人と同様に「あまちゃん」で有村架純を知ったのだけど、女優としての彼女を僕は甘く見ていた。この映画でみせるいろんな表情と芝居に感動した。近頃の日本映画の重たそうなムードから僕はどうも敬遠しがち。不勉強だなと痛感。






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デュエット

2024-04-18 | 映画(た行)


◾️「デュエット/Duets」(2000年・アメリカ)

監督=ブルース・パルトロウ
主演=マリア・ベロ ポール・ジアマッティ グゥィネス・パルトロウ ヒューイ・ルイス アンドレ・ブラウアー

「デュエット」は、カラオケ大会に集まる6人の男女を追った群像劇。賞金目当てのカラオケハスラーであるリッキーに元妻が亡くなったと電話が入る。葬儀場で初対面した実の娘リブを遠ざけるリッキーだが、2人は行動を共にするようになる。セールスで出張続きのトッドは、家庭に嫌気がさして旅に出る。その道中で知り合った黒人レジー。彼は脱獄囚で追われていた。そして恋人を寝取られて自暴自棄のビリーは、酒場で知り合ったカラオケハスラー、スージーと成り行きで行動を共にすることになる。6人は高額賞金がかかったカラオケ大会に向かう。

音楽で結ばれる絆は深い。人をつなぐもう一つの言語とまで言うとオーバーかもしれないけれど、大なり小なり音楽を通じて関わった人々は、長い付き合いだったり、強い印象を受けていることが多い。僕もそう感じている。この映画の中でも、ギクシャクしていた関係が歌を挟んで変わっていく。

リッキーは「娘を紹介させてくれ」とリブをステージに上げ、スモーキー・ロビンソンのCrusin'を一緒に歌う。リブにとっては亡くなった母がよく歌っていた思い出の曲。トッドとレジーは、オーティス・レディングのTry A Little Tenderness。警察の目を逃れようとするハラハラと音楽の快感が同居する名場面。この2曲の見事なハーモニーは映画の中でも注目すべき圧巻のステージ。音楽好きなら、これを目的に観ても損はない。

自暴自棄になって、騒ぎを起こすトッドが痛々しい。貯まったマイレージでホテルに泊まりたいという願いが叶えられないことがきっかけで、トッドはレジーの銃で大暴れ。その彼をレジーが叱る場面がいい。
「中流家庭なんて牢獄だ」
「ほんとの牢獄を知りもしないくせに」
それでもレジーが最後までトッドを見捨てない姿はこの映画の感動ポイントだ。

実は映画に先行してサントラ盤を購入して聴いていた。グウィネス・パルトロウが歌うキム・カーンズのBette Davis Eyes、映画冒頭でヒューイ・ルイスが歌うジョー・コッカーのFeelin' Alrlghtが好き。ポール・ジアマッティはトッド・ラングレンのHello It's Meを歌って激しく踊る。切なさが好きな曲だけに笑いのネタにされる場面なのはちと残念かなー。マリア・ベロが歌うボニー・レイットのI Can't Make You Love Meもなかなか。



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デューン 砂の惑星PART2

2024-03-22 | 映画(た行)


◾️「デューン 砂の惑星PART2/Dune:Part Two」(2024年・アメリカ=カナダ)

監督=ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演=ティモシー・シャラメ レベッカ・ファーガソン ゼンデイヤ ハビエル・バルデム クリストファー・ウォーケン

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による「砂の惑星」第2作。4年前の前作は、この複雑で壮大な復讐劇の登場人物たちと舞台を示し、断片的なイメージをチラつかせて2作目への期待が高める意味では、申し分のない完成度の作品だった。本作は、砂漠の民フレメンと合流した主人公ポール・アトレイデスが、父の仇であるハルコンネン家の面々に立ち向かうパートである。デビッド・リンチ監督版ではスティングが演じた残忍で危険なフェイドが登場し、ポールとの一騎打ちがクライマックスに登場する。

フレメンの民が信じる救世主伝説にポールと母ジェシカがうまくフィットして、少しずつ民の信頼を勝ち取っていく。アトレイデス家の生き残りがフレメンの伝説にうまく乗っかって利用しているとも言えるのだけど、一つ一つ試練をポールが乗り越えていく様子は成長物語のようでもあり、観客の気持ちも盛り上がる要素になっている。

キャストが豪華なアメリカ映画はあれこれあるけれど、単に人気者を使ったのでなく、役柄にマッチしたキャスティングがいい。映画の格を高めることに貢献している。ヴェール越しの顔しか見えないのに存在感あるシャーロット・ランプリング。ミステリアスな眼差しのレア・セドゥ。クリストファー・ウォーケンが演ずる皇帝は、貫禄だけでない人間的な弱さも感じられる。

それにしても圧巻なのはVFX。前作でも魅力的だったオーニソプターだけでなく、巨大な採掘機械や飛行物体、襲いかかる砂虫、大群衆…。金がかかった贅沢なこの映像を大スクリーンで楽しまないのはもったいない。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作は難解なイメージがあるけれど、観客の理解が追いつかないものをチラつかせて映画に引き込んでくれる作風は、本作でも発揮されている。復讐を遂げた先の第3作は、宇宙を巻き込む戦乱へと発展。ポールはもはやチャニィへの愛を口にする一人の男ではなく、さらに多くの人々の生死を左右する存在へと変わっていく。その行く末はポールが見たイメージ通りなのか?今から続きが気になる。




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DOGMAN ドッグマン

2024-03-18 | 映画(た行)


◾️「DOGMAN ドッグマン/Dogman」(2023年・フランス=アメリカ)

監督=リュック・ベッソン
主演=ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ クリストファー・デナム マリサ・ベレンソン マイケル・ガーザ

リュック・ベッソン監督による新たなダークヒーロー(他の表現ないのかな)。好き嫌いは分かれるが、問答無用の荒唐無稽さが際立った「LUCY/ルーシー」よりも、こちらの方が個人的には好み。

警察の検問で止められたトラック。運転席には傷を負った女装の男、荷台には数十匹の犬。警察署で精神科医の質問を受けながら、彼は生い立ちについて話し始める。

暴力的な父親に虐待されて犬小屋で育った少年。父親の銃撃で身体が不自由になったが、犬と意思疎通できるようになった彼を、飼い犬たちが手足となって支えてくれる。やがて彼は社会の裏側で活躍する"ドッグマン"となった。犬たちの活躍が面白い。撮影や編集、工夫したんだろうな。

虐げられた環境からダークヒーローとなっていく過程に、「ジョーカー」を重ねる方もいるかもしれない。申し訳ないけれど、徹底した悪に染まっていく様子を讃えるようなあんな映画(大嫌いなんです💢)と一括りにされては困る。「ドッグマン」の主人公は、富の再分配として犯罪に手を染めてはいくけれど、決して世の中を否定するようなヴィランではない。職を探して車椅子で店を訪ね、懸命に自分と犬の穏やかな生活を築こうとしているだけの地道な男だ。

主人公がかつて置かれた厳しい環境と生い立ちは、主人公の語りとともに回想形式で見せていく構成。主人公の過去を少しずつ紐解いていくことで、現在の彼を際立たせてくれる。対して、こんなに酷かったんです→悪に染まって当然よね?と、ヒネリのない時系列で観客に有無を言わせない「ジョーカー」の強引さとは雲泥の差。さすがベッソン。

ドラァグクィーンとしてキャバレーのステージに立つ場面は、音楽好きには楽しい。EurythmicsのSweet Dreamsが流れ始めて、口パクで昔の歌手を女装パフォーマンスするアーティストたちが現れる。アニー・レノックスはもちろん、コーンブラが印象的なマドンナのステージ衣装や、ど派手なシェールの衣装を着たおネエさんたちw。

そこで初舞台を踏む主人公が演じるのはエディット・ピアフ。口パクではあるけれど熱演。晩年のピアフは立つのもやっとだったのに、ステージで歌った。この場面の主人公の姿に重なる。これ、ピアフへのオマージュだよね、きっと。ピアフの曲はエンドクレジットでも流れる。クリストファー・ノーランが「インセプション」で使ったあの曲。ベッソンが俺も使いたかったんだぜ、と言ってる気がしてちょっと嬉しい。

マリリン・モンローのI Wanna Be Loved By You(愛されたいの)を歌いながら化粧する場面から、怒涛のクライマックスへ。十字架の下で犬に囲まれるラストシーン。宗教への傾倒を口にする父や兄から酷い目に遭い続けた主人公は、神さえ信じられなかったに違いない。でも最期に神にも愛されたかったという気持ち現れなのだろう。「ルーシー」には映画愛を感じるオマージュがあったが、本作では音楽の使い方にこだわりを感じる。




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