Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

リリィ

2024-11-18 | 映画(ら行)


◼️「リリィ/Le Petiti Lili」(2003年・フランス)

監督=クロード・ミレール
主演=リュディヴィーヌ・サニエ ニコール・ガルシア ベルナール・ジロドー

クロード・ミレール監督と聞くと、「小さな泥棒」「なまいきシャルロット」「伴奏者」あたりを思い浮かべる世代には、若手女優を主役に据えて揺れる心境を撮る人めいたイメージがあると思う。フィルモグラフィーを見れば遺作のヒロインはオドレイ・トトゥだったし、80年代にはイザベル・アジャーニ主演作もあるし。

本作「リリィ」は日本ではDVDスルーとなった作品。ヒロインはリュディビーヌ・サニエ。フランソワ・オゾン監督作で気に入って、彼女目当てでセレクト。えーと、フレンチロリータに弱くてすみませんw

チェーホフの「かもめ」を現代フランスを舞台に翻案した作品。そう聞くと敷居の高さを感じてしまうが、それほど小難しい映画ではない。女優の息子ジュリアンは映画監督を目指していて、恋人リリィを主役に作品を撮った。伯父サイモンの家で家族にお披露目をする。母に酷評されて落ち込むジュリアン。母の出演作を撮っている監督ブリスはリリィに可能性を見出し、彼女を連れてパリへ。ジュリアンを慕っていたジャン・マリーの支えもあって、ジュリアンは数年後に監督デビューを飾ることになる。作品は伯父の家で起こった家族の出来事で、母やブリスが本人役でキャスティングされるが、リリィを演じるのは誰かが決まっていなかった。

うーむ。最初に挙げたミレール監督の代表作と比べると、どうも居心地の悪さを感じる。それは、映画の話自体がタイトルロールであるリリィの視点を貫いていないからだろう。映画前半、庭園に集っていたみんなをリリィが魅了したのは間違いないのだけれど、その後でリリィへの思いをジュリアンが募らせるでもなく、芸能界を駆け上がるリリィが描かれる訳でもなく。ストーリーの真ん中からリリィがどっかに行ってしまうのだ。

中盤は悩み苦しむジュリアンを中心に、伯父サイモンと母マドの意見対立、ジャン・マリーの恋心と村の医者をめぐる女たちの様子が描かれて、群像劇の様相になる。それはそれで悪くないのだが、リリィがいなくても成り立つエピソードが続き、後半売れっ子になったリリィが「私に自分の役を演じさせて」と懇願するのが唐突に思えてしまう。ジュリアンを挫折させた庭園での出来事に、リリィがどれくらいの思い入れがあるのか。その後も実はジュリアンを思い続けていたとか、映画中盤不在だったリリィが何を思っていたのかがわからないだけに、観ていて悶々としてしまう。

その空気を救うのが初監督作の撮影現場を舞台にしたクライマックス。招かれたジュリアンの家族たちが、撮影を見守る様子が微笑ましい。特に伯父サイモンが自分役の名優ミシェル・ピコリに挨拶して、映画の話に花が咲くのが楽しい。監督役のベルナール・ジロドー、ジャン・ピエール・マリエール、ジュリー・ドパルデューら役者陣が魅力的。リリィ不在のどこに辿り着くのかわからない中盤の人間ドラマが悪くないのは役者の力。

えー、お目当てのサニエたん。冒頭の眩しいヌードから始まって、田舎娘から脱皮した後半の表情まで素敵。あんまり聡明な役柄ではないけれど、もっと出番が欲しかった。あのタレ目が好きなんだろって?図星♡





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ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス

2024-11-16 | 映画(ら行)


◼️「ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス」(1995年・日本)

監督=白土武
声の出演=栗田貫一 小林清志 井上真樹夫 増山江威子 安達祐実

劇場版第5作(「風魔一族の陰謀」を4作目としたカウント)の本作は、栗田貫一がルパンを演じた最初の作品。公開前は山田康雄でキャストが発表されていたが、復帰に至らず帰らぬ人となってしまった。ものまね芸人だった栗田貫一がその後継者となった重要作。

ノストラダムスの予言書を信じるカルト宗教団体と、アメリカ大統領選挙に立候補しようとしている大富豪ダグラスが予言書をめぐって対立する。ダグラスの娘ジュリアが、ルパンが盗んだダイヤ入りぬいぐるみを持ち去る。ジュリアの教育係として雇われていた峰不二子。ジュリアを教団が誘拐したことで、ルパンら面々も事件に巻き込まれてしまう。

製作当時はノストラダムスが世界破滅を予言した1999年を目前にした時期。しかもオウム真理教による地下鉄サリン事件がまさに1995年という偶然も重なり、今観ると湾岸戦争後の不穏な空気を思い出させる。さらに地元にタワーと呼ばれる巨大建造物を所有している大富豪が大統領選挙に出馬するのは、今観るとどうしてもドナルド・トランプを想像してしまう。決してそこを狙って製作した作品ではないのに。

結果的にルパン一味が人助けする展開ではあるのだが、全体的なストーリーは決して軽いものではない。富豪一家のドラマ、一時的に記憶を失った不二子、老金庫破りの末路とけっこうハードなエピソードが用意されている。1996年に金曜ロードショーで放送された録画を初めて観た頃は、当時人気子役だった安達祐実のキャスティングと人助けするお話に「こんなんルパンじゃない」と冷めた見方をしていた。2024年8月に配信で再鑑賞。今観ると、「あぶ刑事」の柏原寛治と伊藤俊也監督の脚本は練られたものとの印象を受けた。

当時も思ったけれど、ダグラス財団タワーの金庫階から地上に落とされる場面、高所恐怖症の僕にはキツい😖。テレビでよかったかも…w。本作のキャラデザはかなり好み😋PART2世代だもん、やっぱりルパンは赤ジャケットが好き。エンドクレジットにはスタジオジブリ、京都アニメの名前も並んでいる。





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ルックバック

2024-08-17 | 映画(ら行)



◼️「ルックバック」(2024年・日本)

監督=押山清高
声の出演=河合優美 吉田美月喜

私ごとだが、小学生の頃、自由帳に少年誌の真似をしたマンガを描いてたら、友人たちから読者が広がっていった時期がある。純粋に楽しんで描いたものもあれば、日頃の鬱憤を白いページに向かって晴らしていたものもある。好きな女の子をモデルにしたヒロインを讃美したり、イジメまがいのチョッカイ出してくる男子を悪役にしてコテンパンにしたりw。多少の絵心はあったかもしれないが、画力上げるために努力した訳でもない。要するにちょっとしたお絵描きが得意だっただけだ。大した実力もないくせに。

「ルックバック」の主人公藤野は、学年通信に4コママンガを連載して、周りからチヤホヤされている。目が腫れているくせに短時間で描いたとか言っちゃう見栄っ張り。ある日、不登校の京本の作品も載せると先生に言われ、「学校にも来れない人が」と見下した態度をとる。自分本位のちょっと嫌なヤツ。ところが、京本の作品の描き込まれた絵の巧さに驚愕。「藤野の絵は上手いと思ってたけど、こうして見ると普通だな」と隣の男子に言われてショックを受ける。負けまいと描きまくるのだが、画力では全く追いつかない。6年生の途中で連載を断念してしまう。

この冒頭数分間だけで完全に心を掴まれてしまった。なんて濃密なアニメなんだろ。確かに冒頭の机に向かう場面、鏡の使い方が上手いなぁとは思った。でもそれ以上に引き込まれた理由は、自分自身だった。

藤野は小学生の頃の自分じゃねえか😳

でも僕が藤野と違うのは、京本みたいな存在がいなかったことだ。だから興味の対象がどんどん変わってしまった。藤野は京本という存在がいたことで、負けまいと躍起になれたり、タッグを組んだり。切磋琢磨ってよく言うけれど、同じベクトルで競い合って認め合える存在がいるからできること。一方で、都合よく京本を利用してるようにしか見えない部分もある。それは藤野が基本自分本位のズルさを持っているからだ。最初に「藤野先生」と呼ばれる場面だって、自分も京本の絵を認めているくせに、それは全く口にしない。また描き始めたとか見栄を張る。嫌なヤツだな。

しかし。そこから続く、藤野があぜ道をスキップする場面に再び心が掴まれた。映像から伝わる高揚感。すごい。気持ちがわかる。認められた嬉しさと思わぬ同士を得た喜び。上手いなぁ。

コンビを組んだ2人はプロになって、少年漫画雑誌に連載をもつことになる。しかし、京本は背景画の世界に自分の道を見いだして、絵を学びたいと言い出す。コンビの解消だ。ここでもまた藤野は自分本位の嫌な面を見せる。頼れる存在を失いたくないくせに、「アタシと一緒ならうまくいく。美大生の就職なんて…」と京本を責め立てる。嫌なヤツだな。

そこからの喪失感と事件。起承転結が短い上映時間の中できちんと構成されている。これで58分だって?なんて濃密な。観る前は特別料金と上映時間に文句言ってた自分が恥ずかしくなる。クライマックスで示されるのは、別な流れの2人の道筋。嫌なヤツだと思いながら見ていた藤野が自分を責める場面。そこにあるのは後悔の念。そんな彼女をのもとに扉の向こうから4コマのメッセージが届く。前半との呼応。上手いなぁ。多くの人の感想にあるように涙を誘う。

このアニメ、若い世代もだけどそれなりに年齢層いってる人たちにも共感を呼んでいる。
それは生きてきた時間だけ、いろんな後悔の味を知っているから。

どんな分野でも、創作は結局孤独な作業だ。そこに打ち込める表現者を僕はカッコいいと思う。再び机に向かったラストシーンの藤野。彼女の後ろ姿が、とんでもなくカッコよく見えた。









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ランナウェイズ

2024-04-16 | 映画(ら行)


◾️「ランナウェイズ/The Rnuaways」(2010年・アメリカ)

監督=フローリア・シジスモンディ
主演=ダコタ・ファニング クリステン・スチュワート マイケル・シャノン ステラ・メイヴ

ランナウェイズが活動していた1970年代後半は、やっと洋楽に目覚め始めた頃。聴いてたのはBCRやAbbaとか健全なものが中心だった。洋楽に詳しい友達から、こんなひと言を言われたことがある。
😼「takは育ちがいいから、ビートルズは聴いても、不良ぽいストーンズは似合わねー」
へ?音楽にそんな垣根があるもんかと思ったのだが、世間が"不良ロック"なイメージを持つジャンルは実際後追いで聴くことになる。育ちがいいとはちっとも思わないけど、言葉の呪縛って怖い。ランナウェイズは、当時存在は知っていたものの、色モノのイメージが強くって。もし聴いてたら母に「お父さんが喜びそうな女バンドなんか聴いて!😭」と怒られたに違いないw

本作はそのランナウェイズの結成から解散までを描いた作品。ギターのジョーン・ジェットが音楽プロデューサーに女子でバンド組みたいと名乗りをあげ、メンバーが集まっていく過程が示される。街でくすぶって男の玩具になっちゃうよりも、飲んだくれの父親を抱える家に縛りつけられるよりも、何かで自分を示したい。そんな気持ちが彼女たちを駆り立てていく。

シェリーのオーディションのためにあのCherry Bombが創られていく様子。あまりのテキトーさ、こんな酷い歌詞だったのかと驚かされた。まさに不良ロック。そりゃ小学生の時に言われた言葉もわかる気がするw。
「聴く男どもがどう思うか。煽ってギリギリでかわせ。チンコで考えるんだ。」
すげえ日本語訳w。でもその激しい音楽と、シェリー・カーリーの煽情的なイメージが、バンドの成功とは裏腹に色モノのイメージを決定づけてしまったのは間違いない。

日本での人気がこれでもかと描かれる。僕は当時お子ちゃまだったから知らなかったけれど、日本での熱狂ぶりって激しかったんだな。ただランナウェイズの写真集が当時出版されていたのは知っている。映画の中でも、日本から来たカメラマンが、「いいねぇー、いいねぇー♪」と言いながらセクシーな表情のシェリーを撮る場面が出てくる。そういえばあの写真集は、雑誌GOROの別冊だったよね…おぉ!あの「いいねぇー♪」は篠山紀信センセイじゃねえか!その写真が原因でシェリーと他のメンバーが対立する場面の痛々しさ。音楽に理想があったのにストレートに受け止められない現実。離れたかったはずの家族が恋しくなる気持ち。気づかないうちに、世間の玩具にされてしまっていた自分たち。

映画のラストはその後の彼女たちが描かれる。ヒット曲を出したジョーンが出演するラジオ番組に、シェリーが電話する印象的な場面で幕を閉じる。ロックンロールは終わらない。

ジョーン・ジェットは代表曲I Love Rock'n Rollも好きだが、個人的にI Hate Myself for Loving Youが好き。あんたに夢中なアタシにヘドがでるわ♪表現は悪いが結局行き着くのは誰かを思う愛。その境地をルーズなロケンロールで歌う。最高やん。不良ロックを遠ざけられた少年は、そんなこと言う大人になったのでしたw

クリステン・スチュワートのジョーン、ひたすらカッコいい。ダコタ・ファニングのシェリーも大熱演。ワンシーンだけだが、子供たちを残して再婚相手とシンガポールへと去るシェリーの母親が登場する。おっ!テイタム・オニールだ!。かつてオスカーを受賞したそばかすの少女は、こんな役やる大人になってたのか(懐)





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落下の解剖学

2024-03-07 | 映画(ら行)


◾️「落下の解剖学/Anatomie d'une chute」(2023年・フランス)

監督=ジュスティーヌ・トリエ
主演=ザンドラ・ヒュラー スワン・アルロー ミロ・マサド・グラネール

カンヌ映画祭でパルムドールを獲得し、米国アカデミー賞にもノミネートされたフランス映画。あらすじと不穏な空気しか感じられない予告編で、ただのサスペンス/ミステリーではあるまいと期待して劇場へ。

予告編から思い描いていたものが次々と打ち砕かれた。視力を失った息子が唯一の証人?元恋人弁護士との焼け木杭(ぼっくい)に火がつく話?とか思っていたけれど、これは真正面から厳しく人間関係に迫った緊迫感のあるドラマだ。

本編の半分くらいが法廷内のシーンで構成されており、最初から最後までとにかく会話劇。スクリーンの中の光景がなかなか変わらないからかなり集中力がいる。気力があるときに観るべきという感想も見かけていたがそれも納得。裁判シーンが始まるまでは僕も睡魔に襲われそうになった。しかしそこから物語は二重三重の仕掛けで、主人公サンドラとその家族の現実を浮き彫りにしていく。

夫の傷の負い方で妻が殺したのではと疑われたことから、夫婦をめぐる様々な出来事が法廷で明かされる。度々言い争っていたこと。売れっ子である妻と成功に恵まれない夫。家事の負担と創作活動のバランス。息子をめぐるお互いの気持ち。

映画が進むにつれて、夫殺しが疑われる妻には不都合な出来事が次々と示される。
「私は殺してない」
「大事なのはそこじゃない。君がどう思われるかだ」
そのやりとりが示すように裁く側がどう捉えるかによって、裁判の結論は変わってしまう。フランスは裁判官と市民から選ばれた参審員によって有罪無罪と量刑を決める制度だ。妻にとって不利な事実が疑念をさらに深めることになりかねない。さらによそ者であるサンドラには言語という壁もある。訳され方で印象も変わってしまう。

日本ではメガネの少年探偵が「真実はいつもひとつ」とよく言う。真実は一つでも、受け取り方で結論はどうにでも転がってしまう。「解剖学」とのタイトルが示すのは、物事には様々な見方がある、ということ。しかも人は都合のよいことしか目に入らない。この映画は、法廷ものとして、人を裁くことの難しさを描く一面を持つ映画だ。

だが映画が映し出すのはそれだけではない。息子ダニエルが知る、それまで知らなかった家族の姿、受け入れたくない事実、父と母の間にある溝。クライマックスでいちばんスリリングなのは母と息子の関係の行方。信じることの難しさ。ダニエルがピアノで弾くショパンの有名なメロディは、ところどころ半音階で不安にさせるけれど、哀しげで美しい。人と人のつながりのように。







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ルパン三世 風魔一族の陰謀

2024-02-24 | 映画(ら行)


◾️「ルパン三世 風魔一族の陰謀」(1987年・日本)

監修=大塚康生 銀河万丈 塩沢兼人 小山茉美 加藤精三

そもそもOVAの第1作として製作された作品で、短期劇場公開された。そのため劇場版第4作と呼ばれたり、劇場版にカウントされなかったりと扱いが微妙な「風魔一族の陰謀」。シリーズ唯一声優陣が異なることもあり、昔から興味はあったが、テレビで放送されないから観る機会がなかった。今回が初鑑賞。BS12に感謝。

五右衛門の結婚相手、紫の家に代々伝わる壺。そこには宝の在処が記されているという。長年宝を狙う風魔一族が紫を連れ去ったことから騒動に巻き込まれたルパン御一行。紫を救えるか。そして隠されたお宝とは。

劇場版としての期待とは違う、こじんまりまとまった話。「VS複製人間」のスケール感やハードな雰囲気、「カリオストロの城」の人間ドラマの深みには乏しい。それでも全編に貫かれたコミカルなアクションは、ルパンシリーズらしい魅力が感じられる。ルパン生存を知った銭形警部が復帰して、いつもの追いかけっこが始まるとやっぱりワクワクしてしまう。そこは期待どおり。

声優キャスティングに最初は居心地の悪さを感じるけれど、そこは実力もあるベテラン陣。話が進むと本作でしか味わえない魅力を感じた。古川登志夫のルパンは諸星あたるみたいな軽口が心地よいし、銀河万丈の次元大介もギレン・ザビ級にクール、塩沢兼人の五右衛門もぶりぶりざえもんに通ずる信念の人、小山茉美の峰不二子は「チャーリーズ・エンジェル」のシェリル・ラッドみたいなカッコよさ。そして加藤精三の銭形警部は星一徹にも負けない頑固さがある。




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ライフ・オン・ザ・ロングボード

2023-09-24 | 映画(ら行)

◾️「ライフ・オン・ザ・ロングボード/Life On The Longboard」(2005年・日本)


監督=喜多一郎

主演=大杉漣 大多月乃 小栗旬 勝野洋


好きなことを新たに始めたり、楽しんだりに、早いも遅いもない。そしてそれを通じて人は成長することができる。いくつになっても。日々これでいいのかな、なんてふと考えてしまう僕らに勇気をくれる素敵な作品だ。2018年に亡くなった大杉漣。冴えないけれど懸命な主人公が次第に変わっていく姿が心に残る。


55歳で長年勤めた会社を退職した主人公米倉一雄。特にしたいこともなかった一雄だったが、海を眺めていて、若い頃サーフィンを始めようとして失敗した時を振り返る。そして亡き妻が言った言葉を思い出す。

「カッコよかったのになあ」

一雄は種子島でサーフィンを始めることを決意する。55歳でよそ者の初心者を最初は笑うのだが、当の本人は日々現地の若者や一目置かれる名サーファーに教えてもらうのが楽しくて仕方ない。そこへ妻の死後関係がギクシャクしていた娘がやってくる。


島での日々を通じて、一雄も娘の優もこれまで言えなかった気持ちや出せなかった自分と向き合う。その様子を多くの人はベタと言うのかもしれないけど、僕は素直に感動できた。自分が退職の時期を迎えたら、何をしようと考えるのだろう。それほど遠い将来ではないけれど、幸いなことに好きなことだけはたくさんあるからな。


サーフィン場面はともかく、種子島の風景にビーチボーイズの名曲が似合うなんて思いもしなかった。走り去る軽トラに重なるAll Summer Longに、なんか感激。「アメリカン・グラフィティ」のラストでこの曲が流れる時、ひとつの時代の終わりを感じたが、この映画では新たな始まりの曲なんだもの。



ライフ オンザ ロングボード

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リオの男

2023-09-07 | 映画(ら行)

◼️「リオの男/L'Homme De Rio」(1964年・フランス)

監督=フィリップ・ド・ブロカ
主演=ジャン・ポール・ベルモンド フランソワーズ・ドルレアック ジャン・セルヴェ シモーヌ・ルナン

休暇でパリに戻ってきた航空兵のアドリアンは、フィアンセのアニエスの家を訪れる。パリでは南米古代文明の像が持ち去られる事件が起こっていた。アニエスの父である教授が発掘に携わっていたことからアニエスは事件に巻き込まれ、犯人グループに連れ去られてしまう。あとを追うアドリアンが乗った飛行機が着いたのはリオデジャネイロ。彼女と像の秘密に関係する3人の男を追って、アドリアンはリオを駆ける。

ジャン・ポール・ベルモンドはスタントなしでアクションをこなす役者として知られているが、本作でも数々の見せ場が用意されている。3体の像を揃えるとお宝が隠された場所がわかるというクライマックスは、「レイダース/失われたアーク(聖櫃)」で、メダルに差し込む光が場所を示す場面を思わせる。スピルバーグも本作がお気に入りらしく、インディ・ジョーンズシリーズの元ネタと聞くが、わかる気がする。ベルモンドに協力する靴磨き少年も「魔宮の伝説」のショート君につながるのかも。

一方で、ベルモンドは魅力的な女性に振り回される役柄もよく似合う。「暗くなるまでこの恋を」ではカトリーヌ・ドヌーブの嘘に振り回されるが、本作ではドヌーブの姉フランソワーズ・ドルレアックが相手役。

像を持つ男の一人、ブラジルの富豪を演ずるのは「007/サンダーボール作戦」の悪役アドルフォ・チェリ。こういうキャスティングも楽しい。また地理の授業で計画都市(都市計画に基づいて人工的に建設された都市)の例として挙げられるブラジリアの、できて間もない頃の様子が見られるのも興味深い。

気楽に楽しめるアクションコメディ。




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リップスティック

2023-07-28 | 映画(ら行)

◼️「リップスティック/Lipstick」(1976年・アメリカ)

監督=ラモント・ジョンソン
主演=マーゴ・ヘミングウェイ アン・バンクロフト クリス・サランドン ペリー・キング

性暴力を扱った映画は数多く製作されている。正面に据えるテーマはそれぞれあるが、センセーショナルな場面が存在するだけに、製作側には話題性につながるものだととらえられがちなのだろう。

ジョディ・フォスターがオスカーを獲得した「告発の行方」は、直接手を下さずとも周囲で煽った人々を教唆の罪に問えるかを争う法廷劇が主たるテーマ。しかし、ピンボール台に押し倒されるシーンの話題ばかりが先行していて、主題が伝わったとの印象は薄い。東陽一監督の「ザ・レイプ」も法廷劇が大きな部分を占めているけれど、描かれるのは事件と公判とで深く傷つくヒロインの姿。女性がいたぶられる映画は、正直観ていて辛い。

それだけに最近、性暴力場面を間接的に描いた作品「プロミシング・ヤング・ウーマン」が出てきたのは注目すべき。酷い目に遭う女性を身体張って演じる場面がなくても、その行為の卑劣さは表現の仕方で十二分に伝えることはできると世に示した作品だった。

さて。レイプ裁判を前面に打ち出した70年代の作品に「リップスティック」がある。事件の被害者は、マーゴ・ヘミングウェイ演じるファッションモデル。妹の音楽教師に自宅で襲われたのだ。苦痛に耐えて裁判に臨むが、実社会でも法廷でもこうした事件をまともに取り扱わない。そんな状況に果敢に戦いを挑む女性検事とヒロイン。検事役はアン・バンクロフトが演じており、他の代表作にも劣らないカッコよさ。しかし法廷の現実は厳しい。そしてヒロインが選択したのは…。

70年代のウーマンリブ運動を経た時期に製作されただけに、社会的な問題を訴えた作品となっている。しかしこの映画を紹介する記事は、ヒロインを演じたマーゴ・ヘミングウェイの衝撃シーンに触れてばかり。伝わるべきところは他にあるはずなのに。実の妹マリエル・ヘミングウェイは本作がデビュー作である。音楽担当はミシェル・ポルナレフ。




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ローズ

2023-05-23 | 映画(ら行)

◼️「ローズ/The Rose」(1979年・アメリカ)

監督=マーク・ライデル
主演=ベット・ミドラー アラン・ベイツ フレデリック・フォレスト ハリー・ディーン・スタントン

確か中学生の頃、叔父に連れられてダスティン・ホフマン主演作を映画館で観た時だ。予告編の中で妙に印象に残る音楽映画があった。ベット・ミドラー主演の「ローズ」である。主題歌The Roseがヒットしていて、ラジオからよく流れていたから、特に印象に残ったんだと思う。ピアノと幾重にも重なるボーカルが感動的で、好きな曲だった。

映画の内容は深く知らなかったが、とにかく観てみたくって。うちの親は認めてくれなかった。映画はジャニス・ジョプリンをモデルにした女性歌手の物語で、ドラッグ、セックス、ロックンロールの世界だと聞いた。そりゃ親もいいよとは言わないよな。それ以後ずっと観たい映画の一つだった。

初めて観たのは社会人になってから。映画冒頭のWhose Side Are You On。ビートとかき鳴らすギター、高らかに響くホーンセクションに身体がじっとしていられない。ライブで聴衆に語りかける。
ブルースを聴いたのは生まれた時よ。
愛って素敵よね。
そしてWhen A Man Loves A Womanのイントロに流れ込む。なんてカッコいい。この場面最高😆。いろんなアーティストがこの曲を歌っているけど、この映画のベット・ミドラーが僕にとってはスタンダードだ。

ところが、話が進むにつれてヒロインに腹が立ってくる。いけ好かないヒロインの言動にイライラしながらも、圧倒的なライブシーン、マーク・ライデル監督のドラマティックな演出に引き込まれてしまう。クライマックスのライブ会場の空撮。ビルモス・ジグモンドのカメラに捉えられたステージの輝きに、「未知との遭遇」のマザーシップに匹敵する感激を味わった。

コンサートオープニングに流れて、楽器が増えて8小節ごとに盛り上がっていくインストロメンタルCamilla。この曲は後にレベッカがライブのオープニングで演奏していたっけ。NOKKOはジャニス好きだったから、そのつながりでの選曲なのかな。

疲労と薬物中毒、恋人にも去られて失意の中にあるヒロインが歌う、渾身のロッカバラードStay With Me。いけ好かない女と思っていたはずなのに、聴衆だけに素の自分を見せたような姿に心が震える。このクライマックスには力業でハートを掴まれた。しかし彼女にはもう聴衆にも現実にも向き合える力は残っていなかった。

かすれて呟くような声で歌うラスト。そこに重なる名曲The Rose。僕はこの曲の歌詞に何度か勇気づけられてきた。ジブリの「おもひでぽろぽろ」のエンドクレジットで流れた時、「ローズ」の記憶と重なって涙がにじんだ。






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