Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

地球の静止する日

2022-06-29 | 映画(た行)






◼️「地球の静止する日/The Day The Earth Stood Still」(1951年・アメリカ)

監督=ロバート・ワイズ
主演=マイケル・レニー パトリシア・ニール ヒュー・マーロウ サム・ジャッフェ

SFクラシック映画の秀作。ワシントンに着陸した銀色の円盤。中から現れた異星人クォトゥは、地球人に伝えたいメッセージがあるので、意思決定ができるしかるべきメンバーを集めて欲しいと言う。お供のロボットのゴートは、地球の兵器を無力化するパワーを持っている。軍が発砲して怪我をしたクォトゥは、理解者を求めて街の人々に紛れ、下宿した先でシングルマザーのヘレンと息子のボビーと親交を深める。大学教授の理解と協力を得ることができそうになった矢先、彼を追う軍や政府が迫ってくる。

「ウエストサイド物語」や「サウンド・オブ・ミュージック」など、数多くの名作映画を手がけたロバート・ワイズ監督。SF映画がメジャーでなかった時代に問題作「アンドロメダ・・・」を、そして「スタートレック」と、ちゃんとしたSF映画を撮れる人だ。

「地球の静止する日」は、それよりも遥か昔に撮られた作品だが、核兵器開発を止めず侵略を繰り返す人類に警鐘を鳴らす確固たるメッセージを打ち出している。核をチラつかせて隣国に侵攻する国家に世界が揺さぶられている2022年に観ると、そのメッセージはさらに響く。

ドンパチもなく、ゴートの活躍もほんの少しだからと物足りなく思う感想も多いとは思う。しかし、これは娯楽作のフォーマットで世界平和を訴えた作品。そこが大事なところだ。これが製作されたのは1951年。東西冷戦の対立も色濃くなり、朝鮮戦争真っ最中の時期だ。そんな時期に反核のメッセージを訴えているアメリカ映画というだけでもかなり異色作。そのメッセージが今でも通ずるって、世界が何も変わっていないという残念なことでもある。

少年との心の交流や、疑念や欲が人間関係を崩壊させるドラマ部分、ボビーがクォトゥを追いかけて正体を知るシーンの緊迫感。特撮だけでなく見どころは多々ある。ジム・キャリー主演の「マジェスティック」では、この「地球の静止する日」が登場するロマンティックなシーンあり(大好き♡)。






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天国の駅 HEAVEN STATION

2022-06-25 | 映画(た行)


◼️「天国の駅 HEAVEN STATION」(1984年・日本)

監督=出目昌伸
主演=吉永小百合 西田敏行 三浦友和 津川雅彦 丹波哲郎

18歳になった僕は映画館に出かけた。お目当ては、秋吉久美子の「ひとひらの雪」を観るためだ。入り口には目立つ看板「18歳未満入場お断り」。僕はそれがどうしたっ、と胸を張って入場券を買い求めた。そして4時間後。映画館から出た僕は入場する前と変化していた。併映だった「天国の駅」にめちゃくちゃ感動。そう、僕はサユリストになっていたのだ。

ホテル日本閣殺人事件の主犯だった日本初の女性死刑囚をモデルに、薄幸のヒロインがなぜ殺人に至ったのかが語られる物語。吉永小百合が初の汚れ役とか、三浦友和が初の悪人役とか、そんな予備知識は皆無でスクリーンに向かった。

2022年5月、ウン十年ぶりに鑑賞。ヒロインが周囲の男たちに翻弄される様子がとにかく痛々しい。それは初めて観た時も同じだったんだけど、今の年齢で観ると男たちそれぞれの事情があの頃よりも理解できる。ひたすらズルい三浦友和は別にして、傷痍軍人だった夫の嫉妬や悔しさもいかほどかと思うし、望まない妻を押しつけられた大和閣の主人も辛かったんだろなと思う。怪我をさせてしまったことを詫びる津川雅彦の涙を策略のように感じていたけど、本心だったのかもな。それでも映画後半の横暴ぶりは憎たらしいし、許せない。

モデルとなった死刑囚は毒婦とも呼ばれたと聞くが、吉永小百合が演じることへの配慮なのかやむにやまれず至った殺人と描かれる。当時10代の僕が持っていた吉永小百合のパブリックイメージを完全に裏切る役柄のギャップと、イメージどおりの美しさと誰にでも見せる優しさ。
「愛が欲しかったんだと思います」
「どこに行こうとしたのかね」「天国です」
この映画の吉永小百合の演技にともかく心を揺さぶられた。知的障害を抱えた男性役を演じた西田敏行の純粋さと狂気が涙を誘う。

18歳の僕が映画館を出て感じた変化がもう一つ。4時間かけて観た2本の映画両方で、ヒロインを弄んだ津川雅彦が大っ嫌いになったのだw。でも今の年齢ならわかる。あんなに憎たらしいほど性へ執着するエロ親父を、時にダンディに時に狂おしく演じられるのは、津川雅彦しかいないんだ。




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流浪の月

2022-06-20 | 映画(ら行)


◼️「流浪の月」(2022年・日本)

監督=李相日

主演=広瀬すず 松坂桃李 横浜流星 多部未華子

15年前の少女誘拐事件の加害者とその被害者である元女児。文と更紗の二人は思わぬ再会をすることになる。事件から時が流れても世間が二人に貼られたレッテルが剥がれることはない。"あんなことしたヤツ"と"あんな目に遭ったかわいそうな子"。しかし実際は、親を亡くして親族の家にいた少女が、当時19歳だった彼の家から帰ろうとしなかったのだった。二人の間には二人にしかわからない絆があった。

心に刺さる言葉がたくさん出てくる。
「人は見たいようにしか見てくれません」
「私、そんなにかわいそうな子じゃないよ」
「最終的に逃げる場所のない子」
「ボクはハズレですか」
それらの言葉が意味するものいろんなレビューで読んでしまうよりも、まずは本編を観て感じて欲しい。

世間からは理解されない存在、関係の二人を象徴的に表現しているのが、本編に登場する文学作品。文が読んでいたポーの詩集には、他の子と違うと感じている自分が出てくる。それは文が共通の気持ちを感じる存在だった。そして10歳の更紗が読んでいたのは「赤毛のアン」。両親を亡くした少女が文章の中にいたのだ。でもアン・シャーリーのように人と人をつなぐ少女にはなれなかった。自分と関わったことで、文を犯罪者にして、人生を壊してしまったのだから。

マスコミやネットが流す情報のあまりにも強大な影響力。その表面的で憶測でしかない情報がすべてだと信じる人々。それがデジタルタトゥーや興味本位の雑誌記事となって、二人にずっとつきまとい、押し潰してくる。その恐ろしさと悲しみ。タナダユキ監督の「ふがいない僕は空を見た」にも同じように描かれる嫌がらせの様子は見ていてキツいし辛い。

こういう陰湿な状況が描かれる映画って、不思議と外国映画ではなく日本映画に多いように思える。しかもけっこうな数の作品がこうしたテーマに触れている。それだけ現実は病んでいると悲しく思えるけれど、人間関係を掘り下げ問題提起して、高いクオリティの作品を生み出して評価されてもいる。製作されて世に示すことの意義を感ずる映画たち。しかしながら派手なエンターテイメントこそ映画と思っている人々にはその良さはなかなか届かなくって、日本映画は面白くないと言われてしまう。せめて現実を離れてスクリーンに向かう間だけは、陰湿なものを目に触れさせないで欲しいって気持ちもあるだろう。それでもこの映画に触れてみたら、そこには日常への気づきが必ずあるはずだ。

広瀬すずと松坂桃李の繊細な演技が素晴らしい。DV野郎を演ずる横浜流星はそのキャラの危うさだけでなく、弱さまで演じきって見事。クライマックスで文が示したかったこと。映像で示された結末、人と人がつながれない悲しみに息を飲んだ。



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トップガン -80's Movie Hits!-(その3)

2022-06-17 | 80's Movie Hits !

■「トップガン/Topgun」(1986年・アメリカ)

監督=トニー・スコット
主演=トム・クルーズ ケリー・マクギリス バル・キルマー アンソニー・エドワーズ

- 80's Movie Hits! - 目次はこちら

■Hot Summer Night / Miami Sound Machine
from「トップガン/Topgun」(1986年・米)

歌でアプローチして、隣の席に座ることを許されたマーヴェリック。パイロットであることを話したり 、若さ故の強気の攻めでケリー・マクギリス演ずるチャーリーを口説き落とそうとする。後で彼女が教官であることを知ることになるのだが、まだこの時にはその事実を知らない。女性トイレまで執拗に迫るマーヴェリック。 あら、あら・・・そりゃダメだろう。相棒のグースに嫌味な一言を残して彼女は店を出て行った。このバックに流れていたのが、マイアミ・サウンド・マシーンの Hot Summer Night。

キューバ生まれのアメリカ人女性グロリア・エステファンをヴォーカルに据えた ラテンミュージックグループ、マイアミ・サウンド・マシーン。Conga や Rhythm is Gonna Get You(リズムでゲット・ユー) など数々のヒット曲がある。88年には彼女を全面にフィーチャーし、グロリア・エステファン&マイアミ・サウンド・マシーンと改称。グロリアは90年3月に自動車事故で脊髄に重傷を負うが、1年後に復帰。96年のアトランタオリンピック閉会式では Reach を歌い喝采を浴びた。

Miami Sound Machine - Hot Summer Nights (Top Gun - Official Audio)


※Miami Sound Machine / Gloria Estefanの曲が流れる主な映画
1986年・「トップガン」 = Hot Summer Nights
1986年・「コブラ」 = Suave
1987年・「張り込み」 = Rhythm Is Gonna Get You
1987年・「スリーメン・アンド・ベイビー」 = Bad Boy ・ Conga
1994年・「スペシャリスト」 = All Because of You ・ Jambala
1996年・「バードケージ」 = Conga
1999年・「アナライズ・ミー」 = Conga
1999年・「私が美しくなった100の秘密」 = Conga 



■Playing With The Boys / Kenny Loggins

ケリー・マクギリスに秘密の夕食デートに招かれたマーヴェリック。約束の時間まで男子たちとビーチバレーに興じる。その場面に流れるのが、ケニー・ロギンスのPlaying With The Boys。軽快なポップナンバーで、厳しい訓練から解放されて楽しむ男たちが躍動する場面を彩っている。2021年にはオーストラリアのシンガーソングライターであるバタフライ・バウチャーとの共演で再録された。

この曲のPVでは、中年男性対中年女性のバレーボールの試合が描かれ、その真ん中でケニー・ロギンスがにこやかに歌う作品。映画で示されたバレーボールの強い印象があり、後にビーチバレーを題材にしたC・トーマス・ハウエル主演の映画「ビーチバレーに賭けた夏」でも使用されている。36年後の続編「トップガン マーヴェリック」では、パイロットたちが訓練の合間に海辺でアメフトをする場面が登場。前作へのオマージュなのだろう。



※Kenny Loggins 関連の曲が流れる主な映画  →  「フットルース」 参照

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Summer of 85

2022-06-14 | 映画(さ行)

◼️「Summer of 85/Été 85」(2021年・フランス=ベルギー)

監督=フランソワ・オゾン
主演=フェリックス・ルフェーヴル バンジャマン・ヴォワザン ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ メルヴィル・プポー

16歳のアレックスは友人のヨットでセイリング中に転覆し、危ういところを18歳のダヴィドに助けられる。ダヴィドはアレックスを家に招いて母と一緒に世話を焼いてくれた。母親はアレックスに迫るように言う。
「この子に必要なのは本当の友達なのよ」
親しくなった二人は共に一日を過ごすようになり恋におちる。ダヴィドはアレックスに「どちらかが先に死んだら墓で踊る」との約束をする。2人の男子が過ごした短い夏を、フランソワ・オゾン監督が描いた青春映画。

この映画は、おそらくオゾン監督の自分語りだ。監督自身が10代後半を過ごした時代を背景にして、ローラ・ブラニガンのSelf Controlのフランス語カバー?やバナナラマのCruel Summerが挿入歌として流れる。そしてオープニングとエンディングには、監督自身が楽曲の使用を強く希望したキュアーのInbetween Days。この曲でなかったら、きっとしんみりしたBL映画になっていたところ。それが新たな出会いと立ち直りを示唆するラストに重なって、爽やかな印象を与えてくれる。

物語はヨットのセイリングで始まり、セイリングで終わる。クラブ(85年当時ならディスコ?)で踊り狂うアレックスにダヴィドが背後から近づいてヘッドフォンをかけ、ロッド・スチュワートのSailingを聴かせる(この場面に「ラ・ブーム」やん!と即座にツッコミ入れてしまったあなたは、きっとオゾン監督と同世代w)。そしてクライマックスに出てくる踊る場面で、再びロッドのSailing。これはダヴィドとの思い出の曲。彼とヨットの上でもっと寄り添いたかったというアレックスの気持ちも入ってるのだろうか。

何が彼の身に起こったのかが次第に明らかになるストーリーの進行は、ミステリアスで面白い。しかもそれが文学的才能のあるアレックスに告白小説の形式で語らせるのが面白い。文章に向き合うことで、彼と会うことができる。自分と向き合うことができる。それを観客は見守りながらも、続きが気になって仕方ない。同じオゾン監督の「危険なプロット」も少年が書く文章が、重要な要素となる作品。文学や言葉を大切にしている監督のこだわりか。オゾン作品の常連であるメルヴィル・プポー、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキが好演。


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トップガン -80's Movie Hits!-(その2)

2022-06-11 | 80's Movie Hits !

■「トップガン/Topgun」(1986年・アメリカ)

監督=トニー・スコット
主演=トム・クルーズ ケリー・マクギリス バル・キルマー アンソニー・エドワーズ

- 80's Movie Hits! - 目次はこちら

■Lead Me On / Teena Marie
from「トップガン/Topgun」(1986年・米)

カリフォルニア州ミラマー空軍基地に到着した主人公マーヴェリックと相棒のグース。アイスマンと初めて口をきき、挑発される酒場のシーン。ここで店に流れているダンサブルな曲。いかにも80年代ぽいこの曲が、ティーナ・マリーが歌う Lead Me On 。イントロのブラスセクションがとっても印象的だ。作曲、プロデュースはジョルジオ・モロダー。

ティーナ・マリーは1956年、ロサンジェルス生まれ。80年代に活躍したブルーアイドソウル(白人でR&Bを歌う)の女性シンガーである。幼い頃からブラックミュージックに興味を持ち、13歳で兄とバンドを結成。1975年にソングライターとしてモータウンと契約した。キーボードやギターも演奏していたが、79年にリック・ジェームズのバックアップでデビュー。84年の Lovergirl が全米4位の大ヒットを記録した。今でもヒップホップ系アーティストから評価が高い。2000年代に入ってからは、ヒップホップ系レーベルから作品を発表している。

Teena Marie - Lead Me On (Top Gun - Official Audio)


※Teena Marie 関連の曲が流れる主な映画
1985年・「グーニーズ」 = 14K
1986年・「トップガン」 = Lead Me On
1989年・「タップ」 = Bad Boy
1991年・「サウスセントラルLA」(未公開) = Crip Hop
2002年・「メイド・イン・マンハッタン」 = Lovergirl



■You've Lost That Lovin' Feelin'(ふられた気持ち) / The Righteous Brothers
from「トップガン/Topgun」(1986年・米)

酒場の場面。アイスマンとの不快な会話の後、気を取り直してマーヴェリックとグースは女性たちに目を向ける。カウンターにいる少し年上の魅力的な女性。マーヴェリックは「あの曲でいくぞ」とマイクを手に取る。トム・クルーズが歌でナンパする名場面だ。

公開当時この場面を初めて見て、こんなアプローチの仕方はふざけてる!失礼だろ!と思った。でも今改めてみると、あそこまでバカになれるっていい!。素直にそう思えた。店にいた軍人たちも周りを取り囲んで一緒に歌う。
ゆーぶろすとざっ、らーびんふぃーぃりん♪
歌が取り持つ一体感。トムの歌は、ケリー・マクギリスに言われるように「歌で食べていけない」(笑)。でも後に「ロック・オブ・エイジス」でカリスマロックシンガーを演ずることになるのだ。

トムがこの場面で熱唱するのは、ライチャス・ブラザースの You've Lost That Lovin' Feelin'(ふられた気持ち)。映画「トップガン」では、トムのアカペラで聴くだけでなく、映画後半ではオリジナルがジュークボックスから流れる。再発されたサントラ盤にはオリジナルを収録。1964年に初めての全米No.1ヒットとなった。ライチャス・ブラザースは、ビル・メドレーとボビー・ハットフィールドの白人男性デュオ。白人ソウルデュオ、”ブルーアイドソウル”の先駆者とも言える。名プロデューサー、フィル・スペクターが自社にひきぬき、多くのヒットを放つ。「ゴースト ニューヨークの幻」で使われた Unchained Melody もそうしたヒット曲のひとつである。60年代末にビルが脱退、解散したが、74年に再結成している。2003年に、ボビー・ハットフィールドがコカイン過剰摂取で亡くなった。You've Lost That Lovin' Feelin' は、同じブルーアイドソウルのデュオ、ホール&オーツによって80年代にカヴァーされた。

You've Lost That Lovin' Feelin'


※The Righteous Brothers 関連の曲が流れる主な映画
1983年・「ベイビー・イッツ・ユー」 = Unchained Melody
1986年・「トップガン」 = You've Lost That Lovin' Feelin'
1990年・「ゴースト ニューヨークの幻」 = Unchained Melody
1991年・「裸のガンを持つ男」 = Unchained Melody ・ Ebb Tide


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あの愛をふたたび

2022-06-09 | 映画(あ行)

◼️「あの愛をふたたび/Un Homme Qui Me Plait」(1970年・フランス)

監督=クロード・ルルーシュ
主演=ジャン・ポール・ベルモンド アニー・ジラルド マルセル・ボズフィ リチャード・ベイスハート ファラ・フォーセット

映画音楽は好きなのに、本編を観たことがない映画が多々ある。今回観た「あの愛をふたたび」もその一つだった。中高生の頃、NHK-FMの映画音楽番組にどハマりしたことや、父親がいわゆるイージーリスニングと呼ばれたジャンルを好んで聴いていた影響もあるのだろう。まだ観ぬヨーロッパ映画の主題曲はそれで覚えた。そんなこんなで、中高生の僕は「ある愛の詩」と「男と女」しか観たことないのに、フランシス・レイの音楽がやたらと大好きだったのだ。

フランシス・レイ楽曲で、哀愁ただようメロディが気になっていた一曲が「あの愛をふたたび」。吹奏楽部の後輩がトランペットで吹いているのを聴いて、いい曲だけどどんな映画なんだろとずーっと思ってきた。2021年に主役のジャン・ポール・ベルモンドが亡くなったこともありDVD化。今回が初鑑賞。

映画女優と音楽家が撮影の現場で出会う。お互い配偶者がいる身なのだが、次第に惹かれるようになり、一緒に過ごす時間が愛おしく感じられるようになる。撮影がひと段落してしばらく休暇となり、二人はアメリカ各地を旅行する。その道行きと心の動きを、ルルーシュ監督はカメラマン出身らしいスタイリッシュな映像で映し出す。

出会う順番が違っていたら…と二人は言う。不倫カップルらしい身勝手な考えだと世間は言うに違いない。だけど男と女が惹かれ合った時のどうしようもない感じって、当人たちにしか分からないし、そんな思いが過ぎることはあるだろう。そんな二人の気持ちを観る側が許容できるかどうかで、この映画の評価は分かれるのかも。でも、同じ婚姻外の恋を描いた映画の登場人物たちよりは、よっぽど潔いとも思える。アニー・ジラルドはちゃんと夫に気持ちを打ち明けているんだもの。飛行機事故を利用して結婚とは別な人生を選ぼうとする「旅愁」よりずっと正直じゃないか。

ベルモンド演ずる音楽家が、劇中製作される映画のクライマックスのために書き下ろした曲は、空港の動く歩道で交わすキスシーンを盛り上げる曲。その曲が再び流れるのがラストシーン。しかし、そこに映画のような結末は訪れない。台詞もなく、ただアニー・ジラルドの表情を映すだけ。しかしその微妙な表情からヒロインのいろんな感情が伝わってくる。大人の映画。今の年齢で観てよかった。

「チャリエン」(TV)のファラ・フォーセットのデビュー作。まだあの髪型じゃないから、言われないと気づかないかも。劇中、映画監督役で登場する男性。後に「ラ・ブーム」を撮るクロード・ピノトー監督じゃないかと思うんだけど。違うかなー。


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トップガン -80's Movie Hits!-(その1)

2022-06-07 | 80's Movie Hits !

■「トップガン/Topgun」(1986年・アメリカ)

監督=トニー・スコット
主演=トム・クルーズ ケリー・マクギリス バル・キルマー アンソニー・エドワーズ

- 80's Movie Hits! - 目次はこちら

80年代定番サントラとして忘れてはいけないのは、やはり「トップガン」。F-14トムキャット戦闘機のエリートパイロットを養成所を舞台にしたアクション映画であり青春映画。映画は大ヒットを記録した。日本では86年12月にお正月映画として封切られるのだが、同時にトム・クルーズがポール・ニューマンと共演した「ハスラー2」もこの月に封切。トム・クルーズ人気は一気に高まることとなる。「トップガン」の大ヒットはファッションにも影響を与え、町にはフライトジャケットMA-1を着た若者がうようよいた。2005年にはデジタルリマスター版がリバイバル公開された。

ファンには申し訳ないが、「トップガン」は悪く言えばF-14戦闘機を見せつけるために製作されたような映画。海軍士官学校を舞台にした82年の「愛と青春の旅立ち」では国防省の撮影許可が下りず、戦闘機が飛ぶ場面を撮影することができなかった。しかし「愛と~」の大ヒットで国防省が態度を一変。全面協力の下、「トップガン」は製作されたという経緯がある。故にアメリカ軍のPR映画、悪く言えばプロパガンダ映画、F-14のPV、米国人国威高揚映画といった呼び名がどうしてもこの映画にはつきまとう。人間ドラマ部分はさておき、飛行シーンは確かにド迫力。これは最大の見どころだ。

サントラを担当したのはハロルド・フォルターマイヤー。彼はジョルジオ・モロダーのブレインの一人で、キーボード奏者。彼が手掛けた「ビバリーヒルズ・コップ」の主題曲はインストロメンタルながらもチャート上位を駆けめぐった。歌ものは、ベルリンの歌った愛のテーマ Take My Breath Away が全米第1位を記録、さらにアカデミー賞も受賞した。そして”映画主題歌男”ケニー・ロギンスの Danger Zone (こちらは全米第2位)。ちなみに主題歌は多くのアーティストにオファーされ、キーが高いとか様々な理由で断られ、ケニー・ロギンスに落ち着いたと伝えられる。オファーされた一人であるブライアン・アダムスは、「戦争を賛美する映画じゃ歌わねぇ!」と断ったというエピソードも残されている。また、製作者側はブルース・スプリングスティーンの Born In The USA を使用したかったという話も。初期の予告編には、カーズのアルバム「Heratbeat City」に収められたStranger Eyesが使われていた。

トム・クルーズの代表作となっている本作だが、製作者たちが主演に起用したかったのはマシュー・モディーンだった。モディーンはこのオファーを断り、スタンリー・キューブリック監督作「フルメタル・ジャケット」に出演する。そしてトム・クルーズに出演依頼が来ることになるのだった。脇役でメグ・ライアンやティム・ロビンスも出演。


■Top Gun Anthem (トップガン 賛美の世界) / Harold Faltermeyer & Steve Stevens
from「トップガン/Topgun」(1986年・米)

タイトルバックに流れるのは、ハロルド・フォルターマイヤー作のインストロメンタル曲。サントラにはスティーブ・スティーブンスのギターがフィーチャーされているが、映画の冒頭に流れるのはストリングス系シンセで奏でられた淡々としたアレンジ。テイクオフを控えた戦闘機の様子を追う映像に、キャスト・スタッフの名が並ぶ。そして、テイクオフと共にBGMはケニー・ロギンスの Danger Zone へ。

この Top Gun Anthem は、86年のグラミー賞で最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンスを受賞している。映画冒頭のミグと遭遇する空中シーンでもこのメロディーが流れるし、訓練で見事に成果をあげた後「管制塔に挨拶するんだ。」とスレスレに飛行する場面にもこの曲が流れる。

スティーブ・スティーブンスは、ビリー・アイドルとのコンビで注目されたスゴ腕ギタリスト。日本では、氷室京介とのコラボレーションで話題を呼んだ。またトニー・レヴィン、テリー・ポジオと組んだユニット、ボジオ・レヴィン・スティーヴンスでは、ロックでもプログレでもなんでもこなす音楽的な幅の広さを見せつけてくれる。ソロアルバムではフラメンコの作品も発表しているとか。2006年にはフジテレビのサッカー番組のテーマ曲を書き下ろし。依頼した番組スタッフの頭には、この Top Gun Anthem があったのは間違いないだろう。

※Steve Stevens 関連の曲が流れる主な映画
1986年・「トップガン」 = Top Gun Anthem
1988年・「ビッグ」 = Rebel Yell (Billy Idol)
1988年・「D.O.A.」= Rebel Yell (Billy Idol)
1990年・「リトル★ダイナマイツ/ベイビー・トークTOO」 = Rebel Yell (Billy Idol)
1994年・「エース・ベンチュラ」 = Power Of Suggestion
1994年・「スピード」 = Speed (Billy Idol)

Harold Faltermeyer - Top Gun Anthem (Official Audio)


■Danger Zone / Kenny Loggins
from「トップガン/Topgun」(1986年・米)

発進準備をする戦闘機を見つめるタイトルバックから、テイクオフとともに流れるのは、”80年代のサントラ男”ケニー・ロギンスの Danger Zone だ。シングルカットされたこの曲は全米2位を記録する大ヒットとなった。エリート戦闘機乗りを養成する基地へ行くことになった主人公トム・クルーズ。カワサキのオートバイをかっ飛ばして滑走路に併走する道路を走る場面 や、後半正念場となった訓練場面などでも繰り返し流れる。この曲の疾走感は、戦闘機でもオートバイでも似合ってしまうから不思議。

作曲とプロデュースは、もちろん80年代洋楽好きが崇める御大ジョルジオ・モロダー。この曲は、当初REOスピードワゴン又はTOTOに歌わせたいという意向だったという。ちなみにこのサントラの多くの曲で作詞を担当した人物、トム・ホイットロックは、モロダーのスポーツカーのメカニックだったとか。縁は異なもの味なもの。

※Kenny Loggins 関連の曲が流れる主な映画  →  「フットルース」 参照

Kenny Loggins - Danger Zone (Official Video)






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ローマの休日

2022-06-05 | 映画(ら行)

◼️「ローマの休日/Roman Holiday」(1953年・アメリカ)

監督=ウィリアム・ワイラー
主演=オードリー・ヘプバーン グレゴリー・ペック エディ・アルバート

ほぼわたくし事です。ご了承を。

映画に夢中になり始めた中学生の頃。同じクラスで生徒会長だった映画好きのW君と仲良くなった。僕らは世間が名作と呼ぶものを片っ端から観てやる!と、意欲に燃えていた。そんな折、地元の映画館がクラシック二本立てを500円で上映し始めた。僕らはまずはここからだと心に決めて映画館へ。「ローマの休日」と「ロミオとジュリエット」の二本立て。とても男二人で観る映画ではないww。ともかく、映画にますますのめり込むきっかけとなった。気づくとオードリー主演作は、大部分を映画館で観ている

2022年5月、早見沙織(「俺妹」のあやせが好き)、浪川大輔(「ヴァイオレット…」のギルベルト少佐が好き)の新録吹替版が、金曜ロードショーで放送されたのでウン十年ぶりに鑑賞。靴の場面がカットされてるのが残念。あそこはキャラクターが伝わるいい場面なのにもったいない!キャメロン・クロウ監督が「エリザベスタウン」で引用してるし、あの場面に思い入れがある人多いことだろう。でも今回のような放送で映画の楽しさが若い人に伝わるといいな。

初めて観た時はオードリーに見惚れながらも、王女様に振り回されるグレゴリー・ペックを中心に観ていた。今観ると逃げ出した王女の気持ちや、自分の役割を果たすために戻った気高さに感激する。オードリーがオスカーを獲得したのも納得。彼女を利用してスクープ記事を書こうとしたのに断念するジョーの優しさ。誠実そうなグレゴリー・ペックのパブリックイメージがあってこそ伝わった気もする。エディ・アルバートも含めてキャストが見事なこと。美容室の場面も、黒服の秘密警察の一団登場も、好きな場面しかない。

そして無言のラストシーンで胸がいっぱいになる。この間をじれったいなんて思わないで。黙って歩き出すまでの彼の気持ちを考えたら、あの場面は観ている僕らにとっても名残惜しい場面。何度も観てるはずなんだけど、ええ歳になった自分、キスシーンから先をウルウルしながら観ていた。でも写真渡すところで声あげて笑ってしまう。

2004年に「オードリー・ヘプバーン展」と題した展示を観に行った。「麗しのサブリナ」の白いドレス、「ティファニーで朝食を」の黒いドレスをこれかぁーと感慨深く眺めたけれど、「ローマの休日」で使われたベスパが展示されててちょっと感激。

父の机をあさっていたら古い映画の半券やチラシが大量に出てきた。その中に「ローマの休日」初公開時の上映スケジュールが記載されたものが。画像アップしときますね。*クリックすると拡大します。

別のチラシには「ローマの休日」にわざわざ赤鉛筆で丸つけていた。*クリックすると拡大します。

待てよ。まだ親父が独身の頃だよな。誰と一緒に行ったのだろう。妹が母に尋ねた。
「私じゃないわよ」

そしてその父の子である僕は、新婚旅行でイタリアに行くことになる。ローマの行く先々でガイドさんが黙ったら喋る客と化した(恥)。
「ここでブルース・リーとチャック・ノリスが…」
「ここでモンゴメリー・クリフトが…」
「ここでアニタ・エクバーグが…」
少しは黙ってろ、オレ(心の声)。
ところが「ローマの休日」ゆかりのスペイン広場と真実の口を目の前にして、感激して何も言えなくなったのでした😭。


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マイ・ニューヨーク・ダイアリー

2022-06-02 | 映画(ま行)

◼️「マイ・ニューヨーク・ダイアリー/My Salinger Year」(2020年・カナダ=アイルランド)

監督=フィリップ・ファラルドー
主演=マーガレット・ケアリー シガニー・ウィーバー ダグラス・ブース サーナ・カーズレイク

舞台は1990年代。作家志望のジョアンナは、ニューヨークの出版エージェントでアシスタントとして働き始める。上司のマーガレットが担当するのはサリンジャー。世間を避けて暮らしていて、ファンレターは受け取らないので、世界中から届くファンレターに冷たい返事を送り続けるのがジョアンナの主な仕事。ある日、マーガレット宛てにサリンジャーから電話がかかってくる。顔を合わせることのないジョアンナとサリンジャーのやりとりが始まった。

原題はMy Salinger Year。原題とはかけ離れた"なんちゃらダイアリー"と邦題がつく映画はいくつかあるが、どれもオリジナルのニュアンスが生きてないのが残念。せめて本作は「サリンジャーと私」くらいにしてくれたらいいのに。でも、海外の現代文学作家の名前を掲げても、ピンとこないくらいに活字離れは進んでいるのが現実。だから"私のニューヨーク日記"なのかな。

タイトルで損してるとは思うが、この映画は予想以上の秀作。活字文化と文学に対するリスペクトが感じられるし、人間模様に温かな気持ちになれる。サリンジャーと電話でやりとりをする間に、ジョアンナはサリンジャーの人柄に触れる。作家志望だと聞いてジョアンナに「一日15分でいいから書きなさい」とアドバイスをくれる。ネットにレビューをアップしてる僕らも文章にすることで、自分の感想や作品への気持ちを整理するのに役立っている。続けることはサリンジャーが言うように大事なことかと。

パソコンやインターネットがまだ珍しかった90年代が舞台。会社にパソコンが導入されるが、宝のもちぐされになってるのも当時の空気感。メールも今のみたいに多くの人が使ってないし、スマホもない時代。サリンジャーへのファンレターも当然手紙。そこに綴られる読者の熱い気持ちをイメージにしている描写も印象的だ。「ライ麦畑でつかまえて」は多くの共感を呼んだ。その気持ちをジョアンナが手紙から感じ取るのだが、それを送り主に語らせる演出。それは手紙に込められた強い気持ちを表現さるのではなく、駄文の返事を送らねばならないジョアンナに彼らの言葉がいかにプレッシャーを与えていたかが伝わってくる。

ジョアンナのアイディアや感覚が古い価値観で固められていた会社や上司に影響を与えていくエピソードの積み重ねがいい。でもハリウッドのサクセスストーリーの痛快さとは違って、ジョアンナが成長していく一つ一つのエピソードは、自分の気持ちが通じた小さな嬉しさの積み重ねだ。それは「プラダを着た悪魔」とも違うし「ワーキング・ガール」とも違う。あ、「ワーキング・ガール」の上司もシガニー・ウィーバーだったw。今回は部下のアイディアを盗むような悪役ではありません、ご安心を。カナダとアイルランドの合作というのは珍しい。テイストが違うのは製作陣が目指すベクトルが違うんだろう。詩集の出版をめぐる対立、サリンジャーを守ろうとするクライマックスが素敵だ。

サリンジャー自身についての知識を補充すると、この映画の背景がよく理解できると思う。ニコラス・ホルトがサリンジャーを演じた「ライ麦畑の反逆児」を合わせて観ることをオススメ。「ライ麦畑でつかまえて」がいかに読者に影響を与えたか、それが彼の生活をどう変えることになったかを知ることは、「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」を観る上でよいガイドになることだろう。



コメント (2)
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