■「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~/The Zookeeper's Wife」(2017年・チェコ=イギリス=アメリカ)
監督=ニキ・カーロ
主演=ジェシカ・チャステイン ヨハン・ヘルデンベルグ ダニエル・ブリュール
ソビエトの侵攻やナチスドイツの支配と、ポーランドは他国に踏みにじられてきた。
この映画はそんな時代に300人ものユダヤ人を救った夫婦の物語。
1939年、ワルシャワ動物園を営むヤンとアントニーナ夫妻は、
爆撃や猛獣の殺傷で動物たちが次々と命を落とすのを耐え忍んでいた。
やがてユダヤ人の排斥が厳しくなり、ワルシャワ市内のゲットーに夫妻の友人たちも収容されてしまう。
夫ヤンは動物園にユダヤ人を匿って逃す計画を妻に提案する。
アントニーナは最初反対するが、命を守りたい一心から園内で匿い、日々の世話をする役割になる。
しかし、園内はドイツ軍の弾薬庫としても使われるため日中は兵士が常駐、
しかも動物学者でもあるドイツ将校がアントニーナに言い寄ってくる。
そんな状況で、二人は多くのユダヤ人を守り通した、実話に基づく映画である。
アントニーナを演ずるのは「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステイン。
この映画のプロデュースも兼任している。
気丈で人情に厚いヒロインを演じている。
家で匿われているユダヤ人たちは気づかれないために物音を立てることもできない。
危うくドイツ将校にバレそうになるのを、彼に気があるような振りをして難を逃れたり、
そんな状況から夫ヤンから誤解されてしまったり。
映画全編に漂う緊張感に目が離せない。
これまで製作されたホロコースト映画はドイツの非道ぶりを徹底的に描くことが多かったが、
この映画ではないそれ程でもない。
それよりもいかにユダヤ人が生き延びたかを丁寧に情感豊かに描いていく。
特にドイツ兵に乱暴されて心を閉ざした少女をヤンが救い出し、
アントニーナと息子そしてウサギが彼女の心を癒していく様は印象的だ。
また、ゲットーで収容されている人々の中に、
アンジェイ・ワイダ監督が伝記映画「コルチャック先生」(90)を撮った
ヤヌシュ・コルチャックが出てくることは、是非注目して欲しいポイント。
苦境に立たされる子供たちに手を差し伸べる活動で社会的に評価された先生は、
ゲットー収容時に恩赦されたが、子供たちと共にガス室送りになって最期を遂げている。
映画ではその列車に乗り込む直前、ヤンが先生を逃がそうとするのを断る場面が出てくる。
「コルチャック先生」の悲しくも幻想的なラストシーンが思い出されて、涙なくして観られなかった。
ポーランドの厳しい歴史をスクリーンに刻み続けたワイダ監督亡き今、
こうしたテーマが広く観られることになるだろう英語脚本の作品として製作されたことは、
とても意義あることだと思うのだ。
何度も観たい映画でなくてもいい。
でもオスカー・シンドラーや杉浦千畝だけでなく、
こうした尊い行為で命を救った人々がいたということは語り継がれるべきだ。
スクリーンの外側の事実で泣かせる映画はズルいとか言うなかれ。
そこに脚色があったとしても、歴史を刻むことは映画がもつ偉大な使命なのだから。