Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

カサブランカ

2019-05-26 | 映画(か行)
◾️「カサブランカ/Casablanca」(1942年・アメリカ)
 
監督=マイケル・カーティス
主演=ハンフリー・ボガード イングリッド・バーグマン ポール・ヘンリード
 
学生時代、社会人になったらいつか欲しいと思っていたものがあった。それはダブルのトレンチコート。僕にとっては、カッコいい大人こそが着るものだという憧れがあったのだ。今にして思えば、そう思っていた理由のひとつはおそらく「タイガーマスク」の主人公伊達直人が着ていたこと。そして憧れた決定的な理由は、「カサブランカ」のハンフリー・ボガードが着ていたからだ。
 
中学3年の時に買った映画雑誌「ロードショー」の付録だった「名作映画ダイジェスト」なる冊子。これに載っている全てを制覇しようというのがモチベーションとなって、ニキビづらの若造がクラシック映画を手当たり次第に観ていた。そんな折にテレビで観たのが「カサブランカ」。クールな主人公キザでカッコいい台詞を口にして、美人女優と共演するという予備知識だけで観たのだが、時代背景や政治的な描写の数々を知れば知るほど、過ぎし日の恋を思う中年男の話だけではない魅力を感じてますます好きになった。映画好きの叔父に「ただのメロドラマやん」とひと言で片付けられたのに腹を立てたこともあったっけ(恥)。
 
ピアノ弾きのサムが歌うAs Time Goes By。その曲に秘められた過去。「その曲は歌うなと言っただろ!」の後、バーンと劇伴が流れてまさかの再会。くーっ、何度も繰り返し観た好きなシーン。霧の空港で元カノとその恋人を見送るラストシーン。ボギーの男気。沢田研二が「ボギー、あんたの時代は良かった」と歌ってた頃だったし、ハンフリー・ボガードに男のカッコよさを学んだ気がするのです(なんておマセな)。
 
そして社会人になって数年後。僕はダブルのトレンチコートを手に入れた。シングルのコートを着る上司たちに"若造が何を意気がって着てやがる"という視線を浴びる日々。今でも冬になると、コートの長い裾をヒラつかせて歩くの好きだ。今どき、ボギーのコートがとか言っても通じないけどさ。そんな僕は、アニメ「文豪ストレイドッグス」の登場人物たちが、長いのヒラヒラさせてバトルするのをたまんなくカッコいいと感じる。年齢重ねても、カッコいいと思うツボは変わんないのかな。



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女ガンマン・皆殺しのメロディ

2019-05-22 | 映画(あ行)
◾️「女ガンマン・皆殺しのメロディ/Hannie Caulder」(1971年・イギリス)
 
監督=バート・ケネディ
主演=ラクエル・ウェルチ ロバート・カルプ アーネスト・ボーグナイン クリストファー・リー
 
タランティーノ監督作「キル・ビル」に大きな影響与えたとされる異色西部劇。キービジュアルでもある"裸にガンベルトとポンチョ"というセクシーなイメージで知られる映画だが、とにかくラクエル・ウェルチを愛でるには文句なしの一品。マカロニウエスタン的なテイストだが、イギリス資本で製作された珍品。西部劇でおなじみの顔も多い中で、クリストファー・リーが銃職人を演じているのは注目すべきところ。
 
3人組の悪党に夫を殺されて乱暴されたヒロイン、ハニー・コールダー。彼女は復讐を成し遂げる為に、すご腕の賞金稼ぎプライスのもとで銃の腕を磨く。修行によって主人公が腕をあげていく過程や、殺しのリストを消していくように一人一人姿を消していくのはまさに「キル・ビル」に通ずるところ。復讐に燃えるヒロイン像も影響と言えるだろう。
 
お話自体は、言葉足らずな部分が多く、スッキリしない印象が残る。保安官も一目置くプライスについても、中盤で登場する寡黙なガンマンについても詳しい素性は最後まで語られない。またハニーの為に作られた銃は軽くて引き鉄が二つ?と説明されるが、映像で見せることも、またクライマックスの銃撃戦でもその効果と思われる場面もないのは残念なところ。
 
しかし、銃が作られている間の、メキシコでの穏やかな日々の描写は実に美しい。逆光で撮った浜辺でハニーとプライスが手をつなぐ場面は印象的だ。また、3人組のコミカルなやりとりや、ハニーがブカブカのズボンを身体に合わせる為に着衣で入浴する場面など、血まみれの復讐劇であることを忘れさせてくれる。プライス役のロバート・カルプ、僕ら世代はテレビドラマ「グレイテスト・アメリカンヒーロー」のちょっと頼りない捜査官や、「刑事コロンボ」の悪役イメージが強いだけに、寡黙なガンマン役はちょっと意外だった。



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アンダー・ザ・シルバーレイク

2019-05-20 | 映画(あ行)
◾️「アンダー・ザ・シルバーレイク/Under The Slver Lake」(2018年・アメリカ)
 
監督=デヴィッド・ロバート・ミッチェル
主演=アンドリュー・ガーフィールド ライリー・キーオ シドニー・スウィーニー ジミ・シンプソン
 
巷の賛否両論、こりゃ当然。結末に明快な答えを求めるなら、この映画に多分救いはない。だがあるがままにムードを受け入れられたら、とんでもない非日常に僕らを連れて行ってくれる不思議な魅力の映画だ。
 
志を抱いてハリウッドに来たはいいけど、仕事もなく親の仕送り頼みでブラブラ過ごしているヲタク青年サム。向かいに越してきた美女サラといい感じになってデートの約束までしたのに、一夜過ぎたらサラの部屋は空っぽに。壁に描かれた記号めいたサイン。折しも街は犬殺しと有名人の失踪が相次いでいた。サムはサラの失踪と、ハリウッドをにぎわす事件の関係を疑い始める。
 
同人誌「アンダー・ザ・シルバーレイク」の作者が語るフクロウ仮面の女の話、都市伝説、暗号、ニンテンドーのゲームが謎を解く鍵、怪しげなバンド「イエスとドラキュラの花嫁」の歌に秘められたメッセージ。サブカル好きの心をくすぐる要素がてんこ盛りになっている。だがそれだけでなく映画好きがニヤリとする描写が散りばめられる。マリリン・モンローの映画が引用されたり、ヒッチコックの「裏窓」みたいな覗き、「めまい」みたいに車で尾行。映画の不思議な雰囲気は、敢えて言えばデビット・リンチ監督作品のテイスト。でも「マルホランドドライブ」程に、訳のわからなさに脳髄フル回転で混乱することはないから、リンチと同じ括りにするのは、ちょっと違うのかもな。
 
ショービジネスの裏側、セレブだけしか立ち入れない世界がこの世にはある、ということなんだけど、そこにたどり着くまでが映画も主人公の行動もとにかく無駄の連続。描写も変に怖がらせたかと思えば突然笑わせて、変にインテリジェンスを感じさせたら、次は生々しいエロに舵を切る。ストーリーを追うと寄り道ばかり。不快で見たくないものも出てくるし、もっと眺めていたいものも出てくる。でも、男子はきっとこの世界が嫌いではないかも。多くを語れないのが残念だけど、気になるなら試してみるもよし。僕は、けっこう好きかも。
アンダー・ザ・シルバーレイク [Blu-ray]
アンドリュー・ガーフィールド,ライリー・キーオ,トファー・グレイス,ゾーシャ・マメット,キャリー・ヘルナンデス
ギャガ
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ROMA/ローマ

2019-05-11 | 映画(ら行)
◾️ROMA/ローマ/Roma」(2018年・アメリカ=メキシコ)
 
監督=アルフォンソ・キュアロン
主演=ヤリッツァ・アパリシオ マリーナ・デ・タビラ
 
キュアロン監督作を観るのは「トゥモロー・ワールド」「ゼロ・グラビティ」に次いで3本目。「ROMA」はNetflix用に製作された映画と聞くが、この映像はスクリーンで観ないのがもったいない。
 
その理由は、映像があまりにも雄弁だからだ。メキシコシティで住み込みで働くクレオ、雇い主の医者の妻ソフィアとその一家が主な登場人物。彼女らの生活の様子をカメラは一歩引いて客観的に見つめ続ける。感情が高ぶる場面にクローズアップもなければ、細かくカットも割らない、違う目線で見せることもない。そのくせカメラは長回し。劇伴音楽もなく、流れるのは生活音だけ。なのにスクリーンに惹きつけられる。自宅でテレビで見ていたら、おそらく投げ出していただろう、間違いなく。
 
冒頭タイルの床が映され、掃除をしているであろうブラシの音が聞こえる。そこに水が撒かれて、空の様子が洗剤の泡まじりに水面に映る。低く飛ぶ旅客機が映る。この数分だけで、空港近くに密集した街の様子は映されないのに感じられる。ここでもう心を掴まれる。
 
不自由なく暮らしていた一家だが、クレオは付き合っていた彼氏の子供を身ごもって、今後のことで悩み始める。彼女には保険もない。妊娠を伝えたら、スラムで暮らす彼氏には冷たくあしらわれてしまう。見えてくるメキシコの格差社会。一方、雇い主側のソフィアも夫婦仲がうまくいかなくなり、出張に行ったまま夫は戻ってこない。折しも、1970年頃のメキシコは、政府に抗議する学生たちのデモが衝突にしばしば発展していた。ベビーベッドを買いに家具屋を訪れたクレオとソフィアの母は、その騒動に巻き込まれてしまう。
 
人の心も社会も揺さぶられるような出来事が起こっているのに、カメラは近寄らない。カメラが寄るのは、壁にぶつかる車と彼氏のフリチン武術くらいだ。キュアロン監督作「トゥモロー・ワールド」のように暴動の中を走り抜けたりはしない。病院に担ぎ込まれたクレオの様子も、冷酷なまでの長回しで写し続ける。映画のクライマックス、クレオが心情を初めて口にする海辺の印象的なシーンは、僕らはその場でクレオや一家を見守っているような気持ちにさせる。モノクロームで、盛り上げるあざとい演出もないのに胸に迫るのだ。
 
的外れだったら申し訳ないが、「無防備都市」「揺れる大地」「自転車泥棒」に代表されるイタリアン・ネオリアリズム映画を、当時観た感覚って、これに近いものだったんじゃなかろうか。
 
家族の旅を終えて、メキシコシティに戻った一家を再びカメラは長回しで捉える。クレオは洗濯物を抱えて屋上への階段を上る。飛行機が低く飛ぶ空。映画冒頭と対になるこの場面、カメラは空を見上げている。深刻な経済格差がある現実。不幸があってもクレオもソフィアも生きていくことは同じ。穏やかな空の下で洗濯物を干せる日常という小さな幸せ。カメラが上を向いて空を写すだけのラストシーンに、多くの人が前向きな気持ちを味わったことだろう。それはヒロインが立ち上がるだけなのに感動的な「ゼロ・グラビティ」のラストシーンを思い出させる。これは劇場で集中して観て欲しい。
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ビブリア古書堂の事件手帖

2019-05-06 | 映画(は行)
 
 
◾️「ビブリア古書堂の事件手帖/Memory Of Antique Books」(2018年・日本)
 
監督=三島有紀子
主演=黒木華 野村周平 成田凌 夏帆 東出昌大
 
原作がもう大好きで大好きで。日常に隠されたミステリーが古書を通じて明らかになっていくストーリー、多彩で魅力的な登場人物、綿密なリサーチがあってこそ紡ぎ出される文章の情報量に、巻を読み進める度に感心しながら楽しんできた。ドラマ版はありえない栞子さんのキャスティングと、ジャニーズ枠の為に妹設定まで弟に変更されたことに腹が立ち、僕の中ではなかったことになっている(もちろん見ていない)。本作は別キャストとスタッフによる劇場映画化。観る前に不安はあったが、黒木華の栞子さんで正直ちょっと安心した。
 
さて感想。原作のテイストを生かしながら、2時間の尺に収めた脚本は悪くない。祖母の本にある「夏目漱石」の署名に気づいたのは原作では母親だし、栞子さんは第1巻では全編入院している状態で、バイトの話を持ちかけるのは栞子さん自身だ。病院のベッドで次々に店に持ち込まれる謎を解き明かす様は、まるでアガサ・クリスティ小説のミス・マープルのようだった。劇場版では、いろんな状況は変更されたものの、原作に出てくる重要な台詞をほぼそのまま使って、原作の雰囲気を損ねることなく、映画として成り立たせることができていると思った。むしろ映画が、よりディープな原作を楽しんでもらえるきっかけになるならよいのでは。
 
映画で特筆すべきは、大輔の祖母絹子と田中嘉雄をめぐる過去のエピソードが付け加えられたことだ。原作派には蛇足と切り捨てられそうなパートだが、このセピア色に染められたこの部分が実にいい。東出昌大が抑えた中にある熱い思いがひしひしと伝わる。絹子が本と嘉雄に惹かれていく様子、昭和30年代の雰囲気もいい。原作とは違って大輔の祖父は良い印象だし。古い本が人の思いをつなぐ、というテーマをより分かりやすく見せる試みでナイス。クライマックスはちと物足りなさが残るけど。
 
こんなに原作をしっかり読んで日本映画を観たのは、「武士道シックスティーン」以来かな。個人的に惜しいと思ったのは、栞子さんはもっとウンチクを語り倒して欲しかった。「電車男」で山田孝之が「マトリックス」を語り始めて慌てて止める場面くらいの勢いで。黒木華の栞子さん、本の話でスイッチが入った表情のギャップがものすごく素敵。だけど、原作にある萌え要素が薄れて、ちょっと生真面目な印象に感じられた。え?誰の栞子さんが見たかったかって?個人的には綾瀬はるかのイメージかなぁ。
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2重螺旋の恋人

2019-05-02 | 映画(な行)
◾️「2重螺旋の恋人/L'amant Double」(2017年・フランス)
 
監督=フランソワ・オゾン
主演=マリーヌ・ヴァクト ジェレミー・レニエ ジャクリーン・ビセット ミリアム・ボワイエ
 
最初に申し上げる。猫好きで怖いもの嫌いなら、この映画観るべからず。
 
作品を発表するたびに様々な作風を魅せるフランソワ・オゾン監督。双子の精神科医兄弟をめぐって揺れるヒロインの心理を描いたスリラー映画。しかもこれまでのオゾン作品の中でも最高に危険で、妖しくて、ショッキングで。ヒロインだけでなく、観ている僕らも精神的に追い詰められる。同じフランス映画でも、最近観た「告白小説、その結末」や「エル」よりも断然怖かった。
 
映画に出てくる精神科医は、だいたいトラブルに巻き込まれる役柄。フレンチスリラーの隠れた秀作「見憶えのある他人」では殺人を告白されるし、人気作「シックス・センス」では死んだ人間が見えると言われる。ところがこの「2重螺旋の恋人」に登場する一卵性双生児のルイとポールは、ヒロインのクロエをかき乱す存在。
 
自分の事を語りたがらないポールにクロエが疑念を抱くことから物語がねじれ始める。よく似た男性を街で見かけるが、これが同じ職業である兄ルイだった。ポールが素性を隠す真相に迫りたくて、兄ルイの治療を受けるクロエ。ところが優しい弟と違って激しいルイはクロエに迫り、いつしか身体の関係をもってしまう。ルイの口から真相に迫るヒントが出てくるが、その度に謎はかえって深まり、いつしかクロエは精神的に混乱していく。
 
心の迷宮に迷い込むヒロインを、オゾン監督は映像でうまく表現しているし、それがなんとも思わせぶりだから物語にグイグイ引き込まれる。渦巻きのような形状の螺旋階段、登場人物か幾重にも重なって映る鏡、ガラスに映る像。クロエが働く美術館に展示されたどこかグロテスクな展示物たち。観ているこっち側には、クロエに絡みつく双子兄弟のイメージで不安を煽る。かつて「シャイニング」に震え上がった映画ファンは、きっと双子の子供が並ぶイメージショットだけでもう怖くなる。それに冒頭は子宮内部の映像から始まるのに驚かされるから、ここは何か隠された意味が?と観ている間ずーっと引きずってしまう。
 
結末にも驚かされるが、それ以上に、ラストにたどり着くまで観客が焦らされる感覚がたまらない。これは二度三度観たくなる人いるだろうなぁ。クローネンバーグの「戦慄の絆」を思い出させるが、あのおどろおどろしさよりはこっちが好き。原題の"二重の恋人"を"二重螺旋"としてDNAを引っかけているのはなかなか上手い邦題。
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