図書館から借りていた 藤沢周平著 「霜の朝」 (青樹社) を 読み終えた。
本書には 表題の「霜の朝」の他、「報復」、「泣く母」、「嚏(くしゃみ)」、「密告」、「おとくの神」、「虹の空」、「禍福」、「追われる男」、「怠け者」、「歳月」の 11編の短編が収録されている。
藤沢周平著 「霜の朝」
「報復」
主柚木邦之助の横死の無念を晴らした 下男松平(まつへい)のやり方とは・・・。「下男には下男のやり方がある」
「泣く母」
伊庭小四郎が通う道場に入門してきたのは番頭矢口主税の息子矢口八之丞。異父兄弟のために 森雄之助との斬り合いに望んだ小四郎に 母美尾の涙・・・・。
「嚏(くしゃみ)」
登城した布施甚五郎は 家老鬼頭弥太夫から 藩主の弟織部正吉蔵を上意打ちすることを命じられるが 甚五郎には 緊張した場面で 嚏を連発する奇癖が有る。果たして・・・・。
「密告」
定回り同心笠戸孫十郎は 父親が同心をしていた頃使っていた磯六とは縁を切っていたが その磯六から「内密の話で訪れる」との言伝を受け 待っていたが現れない・・・・・。
「おとくの神」
裏店に住む仙吉とおとくはのみの夫婦である。自分のことしか頭にない勝手な男もやっとおとくの有難味に気がつく。
「虹の空」
政吉とおかよはもうすぐ夫婦になる。政吉には 幼い頃叱られてばかりで、他人だと言い切っていた一人暮しの継母おすががいた。おかよからは新しい家での同居を拒否されていたのだが、「あんたのおっかさんは あたしにもおっかさんじゃないか」・・・。
「禍福」
以前老舗の糸屋井筒屋の手代だった幸七は その娘おるいとの縁談を断り、いそえと裏店に暮し、しがない小間物売りをしている。ある日 井筒屋の朋輩だった竹蔵に声を掛けられ井筒屋の現状を聞かされ、ささやかな幸せを感じる。
「追われる男」
喜助は 裏店に有る音吉という下駄職人の家に忍び込み隠れている。裏切った幼馴染みのおしんに救いを求めたが無理だった。
「怠け者」
生来の怠け者弥太平は 甥佐吉の紹介で丸子屋の下男の口に有りつくが 直ぐに怠け者であることがバレ 家人から相手にされなくなるが、丸子屋の主人幸右衛門の女房おこんだけが普通に扱ってくれる。ごろつきにそそのかされ 盗人の手引きをするところだったが・・・・。
「歳月」
妹のさちが 信助と所帯をもつと言い出した瞬間から、おつえは胸騒ぎを覚える。材木問屋上総屋に嫁ぐ前 一時は夫婦になると信じて疑わなかったおつえと信助だったのだ。床の間の棚から硯箱をおろすと筆の根本は虫に喰われていた。「あのひとのことが終わったということかも知れない」
「霜の朝」・・・表題になっている作品
奈良屋茂左衛門は 長期に渡り紀ノ国屋文左衛門と張り合っていたが 己の耳目となり、時に手足となっている宗助から 「宝永通宝の通用お取りやめと決まりました」との報告を受け 「紀文も終わりだ。意外に短かった」と 思う。
宝永6年、徳川綱吉が薨じ、徳川家宣が第6代将軍となり 側用人に間部詮房、侍講に新井白石等が登用されたり、生類憐れみの令が廃止されるという時代背景がある。