記録的豪雨で九州各地に甚大な被害を齎した豪雨域が東に移動し、今日は 岐阜県、長野県に、警戒レベル5、大雨特別警報が発せられている。近年は 過去に例の無いような自然災害が頻発、前日までの平穏な暮らしをずたずたにしてしまう災害、尊い人命を容赦なく奪う災害、自然の猛威には 人間の人智も及ばないということなのだろうか。
当地 今日もまた、降ったり止んだりの1日になりそうだが、被災された方々の現在の状況を思うと胸が痛む。他人事に非ず、自然災害にも備えたいものだと思う。
雨読の日と決め込んで、図書館から借りていた 畠山健二著 「本所おけら長屋(十二)」(PHP文庫)を 読み終えたところだ。
「本所おけら長屋シリーズ」第12弾目の作品だが 図書館が 新型コロナウイルス感染拡大防止対策で休館になっていたことも有り、2月頃に「本所おけら長屋(十一)」を読んで以来、5ヶ月振りになる。
お江戸本所亀沢町にある貧乏長屋、おけら長屋の住人、万造、松吉の「万松」コンビを筆頭に 左官の八五郎、お里夫婦、乙な後家女のお染、浪人の島田鉄斎等々、個性豊かな登場人物が 貧しいくせに、人情とお節介で 笑と涙で珍騒動を巻き起こすという物語。
まるで江戸落語を聞いているようなテンポ良い会話、随所で笑いが堪えられなくなったり、思わず泣かされてしまう。文体が小気味良く、一気に読める作品だと思う。
(参照)PHP研究所(PHP文庫)「本所おけら長屋シリーズ」 → こちら
畠山健二著 「本所おけら長屋(十二)」
本書には 「その壱・しにがみ」、「その弐・ふうぶん」、「その参・せいがん」、「その四・おまもり」の 連作短編4篇が収録されている。
「その壱・しにがみ」
親方にドジで間抜けで機転が利かず、泥棒稼業は無理だと言われた支天長屋の馬助が、おけら長屋の大家徳兵衛の家に入ると先着の泥棒が正座している。天神長屋の屑屋留吉だ。二人はたちまち お咲、お奈津、お里、お染等、おけら長屋の女達に取り囲まれてしまい、タジタジ。留吉には 巾着長屋のお道を救済したいという理由が有り、馬助も 人情とお節介のおけら長屋のペースにはまってしまい、なんとも妙なあんばいになってしまう。金貸業岩本屋曽根助には 島田鉄斎や万造、松吉、等 おけら長屋の面々が画策。馬助は おけら長屋がすっかり気に入ってしまうのだが・・。
「それじゃ、屑屋さん、あたしの死神を買い取ってくれますか」、留吉は息を止める。(中略)・・・死神とちり紙・・どっちにしてもたいしたカミじゃねえですから」、お道は 涙を浮かべながら、微笑んだ。
「その弐・ふうぶん」
江戸にラクダが見世物としてくる話でもちきり。風聞を真に受ける万造、松吉は 一攫千金を企むが、「万松」コンビのうわてをいくような連中がぞろぞろ。はやのみこみの半次は
「よっ!、イチモツ屋っ」「ラクダ屋っ」(中略)・・・夕月花魁が嬉し泣きしたそうだぜ、(中略)、半次は花道を歩く役者のように消えていった。懲りねい野郎だねえ・・・
「その参・せいがん」
めずらしくこの篇は 「万松」コンビ等は 表舞台に登場せず、専ら 林町の誠剣塾で剣道を教えている浪人島田鉄斎関わりの物語になっている。門下生の京谷信太郎、赤岩兵助、黒石藩江戸家老工藤惣次郎等が登場するが なんと言っても 藩主津軽甲斐守高宗のキャラクターが傑作、貧乏旗本の三男坊黒田三十郎と称して、江戸屋敷を抜け出し おけら長屋の「万松」等のたまり場酒場「三祐」で飲んだりする型破り。江戸家老工藤惣次郎の腹違いの妹扶美が凄い、周辺はタジタジ、京谷信太郎に せいがん(青眼)で挑む。(青眼とは 相手の左目に剣先を向ける中段の構え)
高宗は鉄斎に近寄り、小声で囁く。「鉄斎。京屋信太郎は わざと負けたのか」(中略)・・・鉄斎「さあ、いずれにしても 信太郎は 胸を打たれた ということなのでしょうな。
落語のオチそのもの。おあとがよろしいようで・・・
「その四・おまもり」
大工の八五郎・お里の娘で、八軒長屋の大工文七の女房になっているお糸も 次第に 人情とお節介のおけら長屋の一員に加わっていく予感がする篇。江戸に出稼ぎにきたまま行方不明になっている夫幹助を探しに 水戸の在から出てきたお邦、お妙母子に対して お糸、お染、万造、松吉、鉄斎、八五郎、金太、お満、等々、おけら長屋の面々が総動員。幹助は?、お糸は?、爆笑させられた挙句、最後には感涙にむせばされてしまう傑作。
お糸は、涙で滲んで見える赤い御守を、そっと握りしめた。