筑摩書房 2000年
ぼくの元にこの古ぼけた広島市立図書館から
ただで配布された本が届いたのは、かれこれ、
もう半年も前のことになる。ずっと、ツンドク
してトイレの棚に置かれていた。
この本を読了したのは、前に読了した本から二週間
以上たっている。活字がちょっと煩わしいと感じる
ようになってしまっていて、活字はぼくのそんな気持ちを
察してか、ずっと読まれるのを黙って待っていてくれた
ようだ。
遺品を回収する、そして、その展示を目的とする
博物館をつくる、という話だ。主人公は風来坊の
技師で、博物館づくりのプロらしい。少女と呼ばれ
お母さんと慕っているおばあさんの養女と目録を作
ったりする。殺人事件が起きたり、爆弾事件が起こったり
あまり、穏やかじゃあないことが語られていく。沈黙の
伝道師というひとも出てきて、沈黙する少年が描かれたり
する。
遺品を展示するのが、ここでは重要なテーマだが、ぼくらは
現実世界では誰も生きた証を大抵の人は残していかない。
ネット上に残存してしまうこともあるらしいが、ものを
残すことは一般人ではほとんどないのかもしれない。ふと、
なんで人は生きていくのだろうなあ、と思ったりしながら、
大抵、つつがない人生を生きていく。それが人生という
ものか。
死ぬことについて書かれていながら、痛切な生きる喜び
というものが描かれていた本書であった。
(鶴岡 卓哉)