栄光なき凱旋〈上〉 (文春文庫)真保 裕一文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
この本は、上・中・下と3巻完結なのですが、
一ヶ月に一冊ずつの発売となっています。
まずは上巻を読みました。
1941年12月から物語はスタートします。
舞台はアメリカ。
日系二世の3人の青年の様子が交互に描かれます。
1941年12月。
ご存知と思いますが、真珠湾攻撃のあった時ですね。
当時、アメリカへ移住した日本人はすでにかなりいたのです。
彼らは日本においても食うや食わずの生活で、
何とか活路を見出そうと、アメリカに渡ってきた。
それは現在でもアメリカに押し寄せる各地からの移民の事情と同じです。
しかし当時の日本人は、一世についてはアメリカ国籍を持つことはできなかった。
アメリカで生まれた二世についてのみ、
アメリカ国籍を持つことができた、というわけです。
しかしまた、白人社会では
黒人に対するのとほとんど変らなく東洋人に対する差別もあった。
アメリカンドリームなどとは程遠く、
ここでもやはり食べるのがやっと、という状況。
それでも、持ち前の勤勉さで、
ようやくほんの少しゆとりのある生活といえるところまで
こぎつけることができた・・・。
まずそれが背景。
ところがそんな状況で、日米が開戦。
たちまち、アメリカ人たちの態度が硬化してしまうのです。
なにしろ、いきなりだまし討ちのように
真珠湾に攻撃を仕掛けてきた日本という国に対して、
強烈な敵意を抱くのは当然ですね。
当然その敵意はアメリカ国内にいる日本人により直接的に向かってきます。
いきなり勤め先でクビを宣告されたり、
スパイ容疑でつかまったり。
更には、当時日本はアジアの国々へも進出しており
同じくアメリカにいる、中国人や東南アジアの人々からの敵意をも
あびることになります。
挙句には、日本人すべて強制収容所に押し込められてしまう。
つまりようやく手に入れたささやかな住まいも放棄せざるを得ない。
特に悲劇的なのは2世達。
彼らはアメリカ生まれのアメリカ育ち。
名前すらヘンリーであったり、マットであったり。
自らは当然自分をアメリカ人だと思っているし、
事実、国籍もアメリカ人。
極力アメリカに溶け込むように努力した家族の中では、
日本語もうまく話すことができない彼ら。
その彼らが、日系人であるというだけで、いわれのない敵意を浴び、
かすかにあった将来への道も閉ざされてしまう。
もし、日本軍がアメリカ本土まで攻め込んできたとしたら、
自分たちはどうするのか・・・。
自分はアメリカ人として日本人に銃を向けることができるのか。
しかし、日本人としてアメリカ人と戦うこともできるわけがない。
引き裂かれる思い。
こんな中で、日系二世、ジロー、ヘンリー、マットという三人の
それぞれの選択した道が描かれていきます。
彼らのおかれた状況についてはかなり緻密に描写されており、
その時代色がとてもリアルに感じられます。
戦争がいやおうなく人々の生活を混乱に巻き込んでいく、重厚なストーリー。
しかし、そこがやはり真保裕一で、
ある一つの「事件」が、また更なる悲劇を呼びそうな雰囲気なのですね。
ミステリ性・エンタテイメント性もやはりあるので、
ぐいぐいと興味をひきつけつつ、物語は進んでいくのです。
一冊のボリュームも500ページと、結構あるのですが、
月一冊ですから、期待感が薄れないうちにどんどん読めてしまいそうです。
この上巻では三人の若者が、
ようやくそれぞれの進むべき方向を見出し始めるところまでとなっています。
次巻のときにもう少し詳しく、それぞれの道の紹介をすることにしましょう。
満足度★★★★☆