映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「終末のフール」 伊坂幸太郎

2009年07月29日 | 本(その他)
終末のフール (集英社文庫)
伊坂幸太郎
集英社

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この本には特異な舞台装置があります。
それは、地球に小惑星が衝突し、人類の滅亡が間もないということ。
それは8年前に予告されました。
人々はパニックになり、自暴自棄になって
どこかへ逃げ出そうとしたり、人を傷つけたり、自殺したり。
それから5年、つまり地球の滅亡まであと3年となっている時点でのストーリー。
なぜか、人々は平穏な小康状態にある。
余命3年となった、仙台の団地、ヒルズタウンの人たちの話です。


短編集なのですが、どれもこの団地の人々の同時期の話なので、
一度登場した人物が後でまた顔を出したりする。
こういうところはちょっぴり楽しいのです。

ここまで生き残った彼らは、この後3年をどのように過ごそうとしているのか。
何をよりどころにそれまで生き続けるのか・・・?


「太陽のシール」では、これまで、不妊治療をうけていたのに、
子どもは授からず・・・、
しかしこの期に及んでこんな時に、妊娠してしまった夫婦のストーリー。
3年先に命を落とすことになることを承知の上で、子どもを産むことの是非・・・。
特に普段から優柔不断で、『決断』が苦手な富士夫君の決心とは・・・?

「冬眠のガール」 父の残した膨大な本をひたすら読み続け、
すべて読みつくしてしまった美智。
さあ、あと3年は何をしよう・・・。彼女は、最後のときを共に過ごす、恋人を探すことにしますが・・・。

「演劇のオール」 1人暮らしの老婆の家へ行き、話し相手やお世話をし、孫娘の役を演じる倫理子。
また時には、ある女性の姉の役、ある兄妹の母親役・・・。
それぞれに欠けた家族を演じているうちに・・・。


いつもの伊坂ワールド、淡々とした会話ながらそこはかとなくユーモアが漂う。
こんな終末の世界でありながら、
生きようとする人々の思いはことのほか豊かです。
考えてみたら私たちも普段から「限られた命」を宣告されているようなものです。
この本の場合は、それがすべての人に等しく残り3年、となっているだけ。
もう、老後のたくわえは必要なく、大金を残しても意味はない。
この金銭の呪縛から開放された人々は、
本当に自分のしたいことをするのです。
そんな中で、でもやっぱり淡々とお店を開いたり、仕事を続けていく人もいて。
人が何を大切に考えるかが、モロにわかってしまいますね。
大変興味深いところです。
もし私なら・・・、やっぱり映画を見続け、本を読み続けるかなあ・・・。

ユニークで、楽しめて、考えさせられる一冊です。

満足度★★★★☆