映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「風が強く吹いている」 三浦しをん 

2009年07月17日 | 本(その他)

風が強く吹いている (新潮文庫)
三浦 しをん
新潮社


この本は竹青荘というボロアパートに住む10人の学生が、
箱根駅伝出場を目指す、というストーリーです。

実のところ、私、お正月に箱根駅伝があることくらいは知っていますが、
駅伝もマラソンも似たようなもの、くらいの認識しかなかったですね・・・。
この本を読んで、駅伝というのがどんなに過酷で、
どんなにチームワークが大切かということが良くわかりました。

このメンバー10人が主人公といっていいと思いますが、
メインとなるのは、まさに走るために生まれてきたと思われる、走(カケル)。
彼はとにかく走っていさえすれば幸せなのですが、
高校のときチーム内で暴力沙汰を起してしまったため、退部。
その後、自分でトレーニングは続けていたけれど、
どこにも所属はしていなかったのです。
気持ちは純粋で自由。
いわゆる体育会系の上下関係、
押し付けがましい集団の規範、
そういうものが大嫌いなのですね。
そんな彼だから、
普通の大学の駅伝のためのクラブではやっていけなかったでしょう。

さて、もう1人、灰二(ハイジ)。
彼も以前から走ることがすべてという生活を続けていたのですが、
足の故障のため、しばらく走っていなかった。
このハイジが竹青荘の他の9人に呼びかけるのです。
箱根駅伝に出てみないか---?
しかし、実のところ走以外はみなほとんどド素人。
市民マラソンではあるまいし、
出たければ誰でも出られるというものではないです。
厳しい予選を勝ち抜かなければならないし、
もちろんそのためには日々の練習も半端なものではダメ。
みなとんでもない・・・と思いながらも、
ハイジの統率力にうかうかと載せられてゆく・・・。

このメンバー10人がそれぞれに個性豊かで楽しいですよ。
双子や黒人留学生、漫画オタク。
みな冗談じゃないとぼやきながら、確実に力を身に付けてゆきます。

スタート前のシーンなどでは緊張感がひしひしと伝わってきます。
応援団であり、またマネージャー的役割の葉菜子は
走り出したみんなを見て思います。

「走る姿がこんなに美しいなんて、知らなかった。
これはなんて原始的で、孤独なスポーツなんだろう。
誰も彼らを支えることはできない。
・・・・・・・あのひとたちはいま、
たった一人で、体の機能を全部使って走り続けている」

彼女の感動に引き込まれまして、
このシーンでは私も、
例によって通勤バスの中でしたが思わず涙がこぼれてしまいました。
(ハズカシイ・・・!)
走ることは確かに孤独でありながら、駅伝では皆がつながっているのです。
1人1人の最大限の努力が確実に皆に伝わっていく。
こういうところがいいですね。

最後の実際の箱根駅伝のシーンでは、
たすきを掛けた一人ひとりの思いが第一走者から順にじっくり語られていて、
読み応えたっぷり。
まさに満足感たっぷりの青春小説です。
ウィークデイ就寝前の読書は、
さほど進まないうちに寝入ってしまうことが多いのですが、
このシーンは、あまりにも面白くて、
最後まで読みきってしまい寝不足になってしまいました。
走は9区を走ります。
素晴らしいシーンが見られますよ。


本なんか読んでる場合じゃない。
私も、外に行って風を受けて走ってみたい!
そんな気にさせられるのでした。
いえ、やりませんけどね・・・。
100メートルも走れば息も絶え絶えでしょう。
運動不足もいいところ・・・。
しかし、今度のお正月の箱根駅伝はもっと、
興味を持ってみることができそうです。

すでに映画化されていて、この秋公開だそうな。
これは多分映像的にもいいだろうなあと思います。
是非みたいですね。
「風が強く吹いている」三浦しをん 新潮文庫
満足度★★★★★