きつねのはなし (新潮文庫 も 29-2)森見 登美彦新潮社このアイテムの詳細を見る |
森見作品にしては、他のものとテイストがやや異なっています。
氏の作品はどちらかというと
ほっこり・ほんのりの味わいのものが多いのですが、
これは暗くひんやりした肌触り。
しかし、よく見れば、もちろん京都が舞台、学生が語り手。
京都に巣くう得体の知れないものの不思議・・・。
やはり、これも森見ワールドに違いありません。
語り手が自分を卑下し、おどけて語るか、
シビアに語るかの違いだけなんですね。
この本には4つの短篇が収められており、それぞれ独立しているのですが、
共通の部分も含んでいます。
芳蓮堂という古道具屋。
胴の長いケモノ・・・・・・。
冒頭の「きつねのはなし」は語り手の「私」が、
古道具屋「芳蓮堂」でバイトをしたときの話です。
女主人ナツメさん。
時々店の用事で訪ねる得体の知れない天城さん。
気のいい常連客の1人須永さん。
どうやらこの三人には、底知れない因縁があるようなのですが・・・。
古の都に住み続けている人ではないナニモノか。
京都ならそんなものがいてもおかしくないような気にさせられます。
人工的な明かりでは照らしきれない、暗がりに潜んでいるもの・・・。
現代では少なくなってしまった闇の片隅。
そこに追いやられてしまった何ものかが、
しかし、今もじっと身を潜めながら、様子を伺っている。
その正体は、もしかすると最後の「水神」に語られるものなのでしょうか。
暗い地下水路。
そこを流れる水。
そうした暗くて冴え冴えとした冷たさが、終始付きまとう一冊です。
夏にはいいですね。
満足度★★★★☆