映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゆれる 

2009年07月08日 | 映画(や行)
兄弟の間にかかる吊り橋は危うく揺れる

           * * * * * * * *

「ディア・ドクター」の西川美和監督作品。
順が逆になりましたが、気になってみてみました。


東京で写真家として気ままに暮らす猛(オダギリジョー)。
母親の一周忌で、久しぶりに帰郷しました。
実家はガソリンスタンドで、兄、稔(香川照之)が家業をついでいます。
翌日、猛と兄、そして幼馴染の智恵子は近くの渓谷に遊びに行くのですが、
智恵子が吊り橋から転落して・・・。

兄弟間の相克というのは、
カインとアベルの昔から、人類の永遠の課題の一つですね。
兄弟は人生最初に出会うライバルなのです。
稔はまじめで実直、世話好きで、人からの信頼が厚い。
世間からはそう思われているし、猛も、そう思って信頼していました。
一方猛は家を飛び出して好きなことをやっている。
父親はそんな猛を快く思っていないけれど、兄はわかってくれている、
猛はそう思っていたんですね。

しかし、人の本心というのはわからないものです。
そして、思わぬところでそれが現れてしまうことがある。
本人同士では決して語られるはずもない奥底の思いが、
この作品では裁判という公の形で、さらけ出されていくのがなんとも残酷です。

故郷から飛び出すことができない兄。
吊り橋を渡ることができない兄。
そんな兄の思いを弟は想像もしたことがなかった。

兄弟の絆、
すなわちこの映画で言う「吊り橋」は大いにゆれるのです。
ゆれて切れそうになる。
この橋は持ちこたえることができるのか・・・。


この作品では同じ関係を彼らの父と叔父という兄弟にも当てはめ、
二重構造をなしています。
いずれにしても、ここでも、嘘と誠、善意と悪意、
簡単には割り切れない人間の複雑な内面を描写しており、
そして、その答えをきっぱりと断言することをしない。
その答えは私たちにゆだねられているのです。
切なくもゆれる思いのこの二人に、
私たちは、自分の中のリアルな感情を重ね合わせずにはいられません。

二作をみて、私は西川美和監督作品にすっかり魅了されてしまいましたが、
どちらかといえば、こちらの方が好きかな?

2006年/日本/119分
監督・脚本:西川美和
出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子