頽廃の都市ホーラが呼び起こすもの
* * * * * * * *
このストーリーの舞台はエーゲ海に浮かぶ小島。
何だかロマンを感じますね。
そこへ十数年不倫の関係を続ける二人が訪れます。
ヴァイオリニストの亜紀と建築家の聡史。
しかし、篠田節子作品ですから・・・
ただのロマンのはずがない。
その島にはかつて繁栄した都がありました。
今は崩れ去り建物の土台だけがかすかに残る廃墟。
そのかつての都市ホーラは、文化が爛熟し、
頽廃の限りを尽くした町であったという。
亜紀は、そこでかすかに町の喧騒のような物音を耳にする。
人々が行き交う気配。
ロバの足音。
さらには町の汚物の悪臭・・・。
そんな体験の後、彼女の手のひらから血がにじみ出る。
どこも怪我などしていないというのに。
これは神の奇蹟なのか、それとも・・・。
また、運転が慎重な聡にはほとんどあり得ないような事故を起こし、
聡はにわかに体調が崩れてくる。
これは「不倫」という罪の罰なのだろうか・・・。
亜紀は思わず教会で祈ってしまいます。
「もう二度と聡とは逢わないから、彼を助けてください・・・」
ふだん神を信じているわけでもないのに、
そう祈ってしまうことに滑稽さを感じながら。
この街自体の頽廃の記憶が、
彼等二人を呼び寄せたのかもしれない。
このストーリーの特筆すべきは、結局神はなんの助けにも成らないというところ。
主人公が敬虔なクリスチャンであれば、
神は救いの手をさしのべるたのかもしれない。
けれど、私同様、無宗教の彼女がすがることができるのは、やはり自分自身。
そういう潔さが、私には心地よいのです。
今時「不倫」にさほどの罪の意識などないのではないかと思っていました。
この作品のラストには罪というよりも強い悲哀を感じます。
ほぼ完璧に関係を隠し続けてきた二人。
でもひとたび片方に万一のことがあると、その関係はそこでぷっつりと途切れてしまう。
彼は彼の家族のものであり、もうその彼の片鱗にふれることも許されない。
きついですね・・・。
みなさま、まっとうな恋をしましょう・・・。
「ホーラ-死都-」篠田節子 文春文庫
満足度★★★☆☆
ホーラ―死都 (文春文庫) | |
篠田 節子 | |
文藝春秋 |
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このストーリーの舞台はエーゲ海に浮かぶ小島。
何だかロマンを感じますね。
そこへ十数年不倫の関係を続ける二人が訪れます。
ヴァイオリニストの亜紀と建築家の聡史。
しかし、篠田節子作品ですから・・・
ただのロマンのはずがない。
その島にはかつて繁栄した都がありました。
今は崩れ去り建物の土台だけがかすかに残る廃墟。
そのかつての都市ホーラは、文化が爛熟し、
頽廃の限りを尽くした町であったという。
亜紀は、そこでかすかに町の喧騒のような物音を耳にする。
人々が行き交う気配。
ロバの足音。
さらには町の汚物の悪臭・・・。
そんな体験の後、彼女の手のひらから血がにじみ出る。
どこも怪我などしていないというのに。
これは神の奇蹟なのか、それとも・・・。
また、運転が慎重な聡にはほとんどあり得ないような事故を起こし、
聡はにわかに体調が崩れてくる。
これは「不倫」という罪の罰なのだろうか・・・。
亜紀は思わず教会で祈ってしまいます。
「もう二度と聡とは逢わないから、彼を助けてください・・・」
ふだん神を信じているわけでもないのに、
そう祈ってしまうことに滑稽さを感じながら。
この街自体の頽廃の記憶が、
彼等二人を呼び寄せたのかもしれない。
このストーリーの特筆すべきは、結局神はなんの助けにも成らないというところ。
主人公が敬虔なクリスチャンであれば、
神は救いの手をさしのべるたのかもしれない。
けれど、私同様、無宗教の彼女がすがることができるのは、やはり自分自身。
そういう潔さが、私には心地よいのです。
今時「不倫」にさほどの罪の意識などないのではないかと思っていました。
この作品のラストには罪というよりも強い悲哀を感じます。
ほぼ完璧に関係を隠し続けてきた二人。
でもひとたび片方に万一のことがあると、その関係はそこでぷっつりと途切れてしまう。
彼は彼の家族のものであり、もうその彼の片鱗にふれることも許されない。
きついですね・・・。
みなさま、まっとうな恋をしましょう・・・。
「ホーラ-死都-」篠田節子 文春文庫
満足度★★★☆☆