映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

イブラヒムおじさんとコーランの花たち

2011年03月06日 | 映画(あ行)
たった一人でいい、自分を認めてくれる人がいれば



             * * * * * * * *

えーと、またオマー・シャリフです!
これは割と最近のフランス作品。

舞台は1960年代のパリ。
・・・その時代性は、フランスのことでは私もピンときようがありませんが。
たとえば、このイブラヒムおじさんは小さな食料品店を営んでいるのですが、
たぶん、日本同様現在ではこういう小さな個人商店は
コンビニに座を奪われてしまっているのかも知れません。
だから、近所に住む男の子のことをよく知っている地元の商店主という設定は、
やはり一昔ならでは・・・ということなのかも知れませんね。
パリとはいっても、ブルー通りというごみごみした裏通り。
フランスの方が見れば、
私たちが今昭和の風景を見るように、懐かしく思うのかもしれませんね。


モモ16歳、思春期まっただ中。
彼は父親と二人暮らし。
母は彼が生まれてまもなく家を出てしまった。
ポポルという兄を連れて・・・。
父は何かというとその兄がいかにできが良かったかを口にする。
それに引き替え、お前は・・・と、
いつも不機嫌でモモをまともに見ようとしない。
孤独で行き所がないと感じているモモは、
いつも行く食料品店で万引きをしてしまうのですが・・・。

店主はトルコ人のイブラヒム。
彼は以前からモモの万引きには気づいていたのですが、
ある時こんなふうにいいます。
「万引きをするならうちの店でやりなさい。けれど他の店でやってはいけない。」
こんなふうにいわれたら、もう出来ませんよね。
「お金持ちは幸せだから笑っていられるんだ。」というモモに
「いや、笑うから幸せになるんだよ。ほら、笑ってごらん・・・」
イブラヒムおじさんの話す言葉は優しくモモをつつみこんでくれる。
おじさんの言葉は、彼が大事にしているイスラム教のコーランから来るものなのです。
そんな時父が失業し、家を出て行ってしまう。
母からも父からも捨てられてしまった・・・
と、思うモモを支えてくれるのはやはり・・・。


イブラヒム自身も孤独な身の上であり、
モモが気になっていたのかも知れません。
孤独な魂が寄り添うのは、そう不自然なことではなかったのかも。
でも、その後また意外な展開があるんですよ。
イブラヒムおじさんは真っ赤なスポーツカーを買って、
運転免許を取って(ここの下りがとても面白い!)
二人で行く先は・・・?

モモの失われたアイデンティティは、
イブラヒムおじさんとコーランによって、新たに形成される。
実際の血のつながりなんて実はどうでもいいことなのでしょうね。
たった一人でいい、自分を認めてくれる人がいれば。

超ベテラン、オマー・シャリフの真骨頂を見ました。
彼はこの作品でセザール賞主演男優賞を受賞しています。
若くてハンサムもいいですが、
このように年齢を重ね厚みが出るのも悪くないですよね。
モモ役のピエール・ブーランジェも、なかなかカッコよかったですよ。

イブラヒムおじさんとコーランの花たち [DVD]
フランソワ・デュペイロン,エリック=エマニュエル・シュミット,エリック=エマニュエル・シュミット
ハピネット


「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」
2003年/フランス/95分
監督:フランソワ・デュペイロン
原作:エリック=エマニュエル・シュミット
出演:オマー・シャリフ、ピエール・ブーランジェ、ジルベール・メルキ、イザベル・ルノー