北の果て、冴えない男女による寂れたラブホの情事
* * * * * * * * * *
恋人から投稿ヌード写真撮影に誘われた女性店員、
「人格者だが不能」の貧乏寺住職の妻、
舅との同居で夫と肌を合わせる時間がない専業主婦、
親に家出された女子高生と、妻の浮気に耐える高校教師、
働かない十歳年下の夫を持つホテルの清掃係の女性、
ホテル経営者も複雑な事情を抱え…。
* * * * * * * * * *
前回、第149回直木賞受賞作です。
桜木紫乃さんは北海道釧路市出身で、
現在も北海道在住の方なので、
是非読んでみたかった作品、やっとたどり着きました。
本作は短篇集となっていますが、
どの作品にも通じるのは「ホテルローヤル」。
釧路市郊外にあるラブホテルです。
ラブホテルとなれば当然そこを訪れる男女の情愛が描かれているわけですが、
意外に濃密な感じはなく、
さすがに北の果て、どこかもの寂しさを誘うストーリーの数々です。
何しろ冒頭「シャッターチャンス」では、
ホテルを閉鎖してから更にまた時を経て、すっかり廃墟となったホテルが舞台。
男はここを背景に女の写真を撮ろうと、この場所を訪れるのです。
まさに、本作のイメージを代表するかのような光景ではあります。
そして、今は廃墟となったこのホテルがまだ息づいていた頃のストーリーが
これから展開されるであろうことが予想されて、
なかなかシャレた滑り出し。
これが最後の話でないところがいいですね。
特別にステキな美男美女のラブロマンスなどではありません。
どちらかと言えば冴えない男と女、
いや、ぶっちゃけオジサンとオバサンというべきかもしれませんが、
そういうありふれた生活の中で、
どこか特別な場所でもあるラブホテルに絡んだ出来事を描写しています。
私が好きだったのは「せんせぇ」
単身赴任していた高校教師・野島が、
親に家出された教え子の女子高生・佐倉と、何故か一緒に旅をすることになってしまいます。
佐倉のスタイルを見て野島は思う。
「首にはマフラーを巻き上半身はガッチリ防寒しているのに、
短いスカートの下は素足にムートンブーツ。
相変わらず馬鹿な服装だ。」
いやいや、わかります。
よくいるんですよね、こういう子。
この描写だけでなんとなくこの少女の性格やおつむの程度などが想像できちゃいます。
ちなみにこれは「春分の日」を含む3連休の前の夜。
北海道はまだ冬の服装が当たり前の時期であります。
佐倉は野島が嫌な顔をするのも構わず、ベタベタ擦り寄ってきます。
というのも、本人はあっけらかんとした風ですが、
両親とも家を出てしまい、戻る気配がない。
お金もないし、実は非常に悲惨な状況。
それをまた、教師のくせにその少女を案じるでもないこの男も、どうかとは思うのですが、
実は野島の側にも抱えている大きな問題がある。
この二人の関係が、息の合わない教師と生徒から、
次第に変化していくさまが劇的ですが、
また、それが非常に説得力もあるのです。
通常、高校教師と女生徒の関係なんて「けしからん」としか思えないのに、
妙に納得できてしまう。
そしてまた、本作に「ホテルローヤル」は登場しません。
しかし、ラストで二人が買ったのは釧路行きの列車の乗車券。
その行き先は・・・、想像できますね。
「ホテルローヤル」桜木紫乃 集英社
(Kindleにて)
満足度★★★★☆
![]() | ホテルローヤル (集英社文芸単行本) |
桜木紫乃 | |
集英社 |
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恋人から投稿ヌード写真撮影に誘われた女性店員、
「人格者だが不能」の貧乏寺住職の妻、
舅との同居で夫と肌を合わせる時間がない専業主婦、
親に家出された女子高生と、妻の浮気に耐える高校教師、
働かない十歳年下の夫を持つホテルの清掃係の女性、
ホテル経営者も複雑な事情を抱え…。
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前回、第149回直木賞受賞作です。
桜木紫乃さんは北海道釧路市出身で、
現在も北海道在住の方なので、
是非読んでみたかった作品、やっとたどり着きました。
本作は短篇集となっていますが、
どの作品にも通じるのは「ホテルローヤル」。
釧路市郊外にあるラブホテルです。
ラブホテルとなれば当然そこを訪れる男女の情愛が描かれているわけですが、
意外に濃密な感じはなく、
さすがに北の果て、どこかもの寂しさを誘うストーリーの数々です。
何しろ冒頭「シャッターチャンス」では、
ホテルを閉鎖してから更にまた時を経て、すっかり廃墟となったホテルが舞台。
男はここを背景に女の写真を撮ろうと、この場所を訪れるのです。
まさに、本作のイメージを代表するかのような光景ではあります。
そして、今は廃墟となったこのホテルがまだ息づいていた頃のストーリーが
これから展開されるであろうことが予想されて、
なかなかシャレた滑り出し。
これが最後の話でないところがいいですね。
特別にステキな美男美女のラブロマンスなどではありません。
どちらかと言えば冴えない男と女、
いや、ぶっちゃけオジサンとオバサンというべきかもしれませんが、
そういうありふれた生活の中で、
どこか特別な場所でもあるラブホテルに絡んだ出来事を描写しています。
私が好きだったのは「せんせぇ」
単身赴任していた高校教師・野島が、
親に家出された教え子の女子高生・佐倉と、何故か一緒に旅をすることになってしまいます。
佐倉のスタイルを見て野島は思う。
「首にはマフラーを巻き上半身はガッチリ防寒しているのに、
短いスカートの下は素足にムートンブーツ。
相変わらず馬鹿な服装だ。」
いやいや、わかります。
よくいるんですよね、こういう子。
この描写だけでなんとなくこの少女の性格やおつむの程度などが想像できちゃいます。
ちなみにこれは「春分の日」を含む3連休の前の夜。
北海道はまだ冬の服装が当たり前の時期であります。
佐倉は野島が嫌な顔をするのも構わず、ベタベタ擦り寄ってきます。
というのも、本人はあっけらかんとした風ですが、
両親とも家を出てしまい、戻る気配がない。
お金もないし、実は非常に悲惨な状況。
それをまた、教師のくせにその少女を案じるでもないこの男も、どうかとは思うのですが、
実は野島の側にも抱えている大きな問題がある。
この二人の関係が、息の合わない教師と生徒から、
次第に変化していくさまが劇的ですが、
また、それが非常に説得力もあるのです。
通常、高校教師と女生徒の関係なんて「けしからん」としか思えないのに、
妙に納得できてしまう。
そしてまた、本作に「ホテルローヤル」は登場しません。
しかし、ラストで二人が買ったのは釧路行きの列車の乗車券。
その行き先は・・・、想像できますね。
「ホテルローヤル」桜木紫乃 集英社
(Kindleにて)
満足度★★★★☆