映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

悲しみのミルク

2014年03月13日 | 映画(か行)
母乳を通して娘に伝わったもの



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本作はベルリン国際映画祭の金熊賞受賞作品。
ペルー作品というのが馴染みの薄いところではありますが、
金熊賞受賞というのも納得、
奥深い人の心の悲しみと微かな希望を感じさせる良作です。


60年代~90年代、ペルーの内戦時代、
ファウスタの母親はゲリラにより夫を殺され、レイプされた経験を持ちます。
その絶望的な恐怖と悲しみが、
母乳を通して自分にも伝わっていると彼女は思っています。
彼女は体の奥にじゃがいもを埋め込み、
外界から自分を守る盾としています。
母親から伝わった外界への恐怖のため、一人で外を歩くことができない。
しかし彼女が身を守るための盾は、
自分と周囲を遮断する塀でもあるわけです。
そんな彼女が、母が亡くなったため
故郷の村に埋葬する費用を稼ぐ必要にかられます。
やむなく女性ピアニストの屋敷でメイドをすることになりますが・・・。



彼女の母は、自分のやり場のない悲しみを、
歌の言葉に乗せることで昇華させていたのかもしれません。
そしてそのやり方は娘である彼女にも引き継がれている。
言葉少なで、ただ一人気持ちを歌で表現することだけ
でかろうじて自分を保っているファウスタ。
けれどもそんな彼女が少しずつ変わっていくのは、
やはり人とのふれあいの中で、ということになりますね。
ファウスタがようやく少し心を開くことができるのは、
普段物言わぬ植物を相手にしている庭師ノエであることは、
とても説得力があります。
本作は、一人の女性のわずかながらの生きる力の再生の物語であると同時に、
つらい過去を持つペルーの国自体の再生を願う物語でもあるのでしょう。



身勝手な女性ピアニストの行動などがありながらも、
淡々と受け止める彼女と、
それでもなお起き上がってのびて行こうという予感を感じさせるラスト。
心に残る名作です。

「悲しみのミルク」
2009年/ペルー/97分
監督・脚本:クラウディア・リョサ
出演:マガリ・ソリエル、スシ・サンチェス、エフライン・ソリス、マリノ・バリョン

ペルーの歴史度★★★☆☆
満足度★★★★☆