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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ペテロの葬列」 宮部みゆき 

2014年03月26日 | 本(ミステリ)
テーマはそれなりだけれど、それを吹き飛ばしてしまうラストの驚愕

ペテロの葬列
宮部 みゆき
集英社


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今多コンツェルン会長室直属・グループ広報室に勤める杉村三郎は
ある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。
事件は3時間ほどであっけなく解決したかに見えたのだが―。
しかし、そこからが本当の謎の始まりだった!
事件の真の動機の裏側には、日本という国、
そして人間の本質に潜む闇が隠されていた!
あの杉村三郎が巻き込まれる最凶最悪の事件!?
息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ!
『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ待望の第3弾。


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普段あまり値のはる単行本は購入せず文庫になるのを待ちますが、
お正月にはいただききものの図書カードなどを投入し、ちょっと奮発します。
お正月に買ったたにしてはずいぶん寝かせておいたものですが、
この度ようやく読むことができました。
ちょうどTVドラマにもなっていた杉村三郎シリーズで、タイミングもよし。
このボリュームがまた、ワクワク感を誘う。


杉村がバスジャックに遭遇するのですが、事件はあっけなく解決。
しかし、そのことで杉村は一つの課題を持たされてしまいます。
それは、その場で自殺を遂げた老人の正体。
そして、彼がバスの人質となった者たちへ送った"慰謝料"。
物語は「豊田商事」のような悪徳商法の問題を取り上げて、進行していきます。
このテーマの掘り下げ方についてはまあ、そこそこ・・・・。
けれど、本作あまりにもラストが衝撃的なために、
そういうテーマもすっかり吹き飛んでしまいます。


つまりは地位も名誉もお金もある名家の娘婿という杉村自身の身の上に関わること。
はじめの方に語られる「赤い自転車」のエピソードが、
結局はすべてを暗示していました。
前作までを読んだ限りでは、杉村はこんな生活でもそれなりに納得していたのだと思っていました。
でも自分でも見ないようにしていた本心では、
こんな自分らしさを捨てた囚われの身のような境遇に満足はできていなかった、
というか、外の世界を強く希求していたということになりますね。


私が初めから感じていたのは、
全くのお嬢様の妻に、まるでお人形さんのような・・・という印象。
どうにも"生きている"感じがしないし、魅力に乏しい。
そのお人形さんが、ここでは逆襲に転じるわけですが、
いかにも取って付けたようで理解不能だし、納得もできません。
結局は、杉村は赤い自転車を得てこぎだす・・・
ということで、良かったんでしょうね。
けれど"お人形さん"が隠し持っていた"毒"の後味があまりにも良くない。
そして、今後杉村が探偵業につくとしても、
今度は唯のバツイチ男の探偵譚では、面白みに欠けるのでは・・・?
と思ったりもして。
当シリーズはここで打ち止めにしたほうがいいと思う次第。

「ペテロの葬列」宮部みゆき 集英社
満足度★★★☆☆