土がかわいそうだ

* * * * * * * * * *
東日本大震災後の福島に暮らす家族を描きます。
監督はこれまでドキュメンタリーを手がけてきた久保田直。
オール福島ロケ。
したがって本当に今の福島の姿が描かれているわけで、
私達にとって、大切な作品です。
先祖代々の土地を守って暮らしていた聡一(内野聖陽)一家。
震災による原発事故のため、故郷を離れざるを得なくなり、
仮設住宅でやり場のない怒りを抱えながら、先の見えない毎日を過ごしています。
一方、20年前ある事件のため故郷を出た弟・次郎(松山ケンイチ)は、
警戒区域で立ち入り禁止となっている生家に戻り、
たった一人自給自足の生活をしながら苗を育てていました。
そのことを聡一が知り、20年ぶりに二人が対峙します。
実はこの二人は異母兄弟。
家長たる父親をめぐり、二人には複雑なしがらみがあったようなのです・・・。

警戒区域のこの地、
たった一人の次郎の表情は思いの外明るいですね。
たまたまここへやってきた中学の頃の友人北村(山中崇)は、
「これはゆっくりした自殺じゃないのか」というのですが。
でも、次郎は本当は帰りたくて帰れなかったこの地に戻れたことが
嬉しくてしかたがないのです。
この故郷の山や田んぼが「帰って来い、帰って来い」と呼んでいた、と彼はいう。
そして幸いだったのは、この北村が彼を理解し友人となってくれたこと。
いかに好きであっても、誰にも知られず孤独な生活を送るのはあまりにも寂しい。
やはり、どこか人とつながっているということが大事なのではないかな?
と思いました。

さて、聡一とともに仮設住宅に住む次郎の実の母・登美子(田中裕子)は、
畑仕事を離れ、生きがいをなくして、認知症が始まっています。
彼女にも故郷の山や田んぼの呼び声が聞こえていたのでしょうけれど、戻るのは無理。
人は衣食住だけで生きられるのではない。
生きていく意味と人とつながっている実感がなければ、
ほんとうの意味で生きているとは言えないのではないでしょうか。
その大事なものを奪われてしまった人々の
無念の気持ちがしっかりと描かれていたと思います。
天災ではなく、明らかに人災というところが腹立たしく、
でも実際その怒りを持っていく先がないのがまた虚しいですね。

放射能を帯びた田んぼの土を東京へばら撒きに行く
というその発想もよくわかりますが、
それを押しとどめた男の思い、そして次郎の思いは、
私の心の奥で芽生えた思いと同じだったので、
一瞬はっとしました。
本作をずっと見ていたら、そんな気持ちになる。
そういうふうにできている作品なのだなあ・・・。
恐るべし。

2014年/日本/118分
監督:久保田直
脚本:青木研次
出演:松山ケンイチ、内野聖陽、田中裕子、安藤サクラ、山中崇
故郷への郷愁度★★★★★
人々の無念度★★★★☆
満足度★★★★☆

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東日本大震災後の福島に暮らす家族を描きます。
監督はこれまでドキュメンタリーを手がけてきた久保田直。
オール福島ロケ。
したがって本当に今の福島の姿が描かれているわけで、
私達にとって、大切な作品です。
先祖代々の土地を守って暮らしていた聡一(内野聖陽)一家。
震災による原発事故のため、故郷を離れざるを得なくなり、
仮設住宅でやり場のない怒りを抱えながら、先の見えない毎日を過ごしています。
一方、20年前ある事件のため故郷を出た弟・次郎(松山ケンイチ)は、
警戒区域で立ち入り禁止となっている生家に戻り、
たった一人自給自足の生活をしながら苗を育てていました。
そのことを聡一が知り、20年ぶりに二人が対峙します。
実はこの二人は異母兄弟。
家長たる父親をめぐり、二人には複雑なしがらみがあったようなのです・・・。

警戒区域のこの地、
たった一人の次郎の表情は思いの外明るいですね。
たまたまここへやってきた中学の頃の友人北村(山中崇)は、
「これはゆっくりした自殺じゃないのか」というのですが。
でも、次郎は本当は帰りたくて帰れなかったこの地に戻れたことが
嬉しくてしかたがないのです。
この故郷の山や田んぼが「帰って来い、帰って来い」と呼んでいた、と彼はいう。
そして幸いだったのは、この北村が彼を理解し友人となってくれたこと。
いかに好きであっても、誰にも知られず孤独な生活を送るのはあまりにも寂しい。
やはり、どこか人とつながっているということが大事なのではないかな?
と思いました。

さて、聡一とともに仮設住宅に住む次郎の実の母・登美子(田中裕子)は、
畑仕事を離れ、生きがいをなくして、認知症が始まっています。
彼女にも故郷の山や田んぼの呼び声が聞こえていたのでしょうけれど、戻るのは無理。
人は衣食住だけで生きられるのではない。
生きていく意味と人とつながっている実感がなければ、
ほんとうの意味で生きているとは言えないのではないでしょうか。
その大事なものを奪われてしまった人々の
無念の気持ちがしっかりと描かれていたと思います。
天災ではなく、明らかに人災というところが腹立たしく、
でも実際その怒りを持っていく先がないのがまた虚しいですね。

放射能を帯びた田んぼの土を東京へばら撒きに行く
というその発想もよくわかりますが、
それを押しとどめた男の思い、そして次郎の思いは、
私の心の奥で芽生えた思いと同じだったので、
一瞬はっとしました。
本作をずっと見ていたら、そんな気持ちになる。
そういうふうにできている作品なのだなあ・・・。
恐るべし。

2014年/日本/118分
監督:久保田直
脚本:青木研次
出演:松山ケンイチ、内野聖陽、田中裕子、安藤サクラ、山中崇
故郷への郷愁度★★★★★
人々の無念度★★★★☆
満足度★★★★☆