映画と本の『たんぽぽ館』

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マダム・フローレンス!夢見るふたり

2016年12月13日 | 映画(ま行)
ホロリと来る理由



* * * * * * * * * *

1944年、ニューヨークのカーネギーホールで、今も語り継がれるオンチのソプラノ歌手、
フローレンス・フォスターのコンサートが開かれました。
本作はその実話を映画化したものです。



フローレンス(メリル・ストリープ)は、
自分の歌唱力に致命的な欠陥があることに気づいていません。
けれども人前で歌うことに喜びを感じています。
夫シンクレア(ヒュー・グラント)は、なんとか妻を喜ばせてあげたいと思い
マスコミを買収し信奉者だけを集めて小規模なコンサートを度々開いていました。
しかしフローレンスの夢は更に広がり、
カーネギーホールで歌いたいと思うようになっていったのです。



通常ここまで来ると、なぜこの夫は妻をこんなにも甘やかすのだろう・・・
と疑問が湧いてきます。
しかもお金に糸目をつけないこのやり方はどうもね・・・とも思えてくる。
しかし、この物語で大切なのはそこのところ。
実はこの夫婦(というよりフローレンスに、というべきか)には大きな秘密があったのです。
それはホロリと来て、十分に納得できてしまう理由なのでした・・・。
馬鹿馬鹿しいくらいにも思えるけれど、これも一つの愛の形なのでしょう。



それにしても、カーネギーホールのコンサートは、実のところ爆笑ものだったかも知れないけれど、
でも、どこか人の胸を打つものがあったのだろうと思います。
招かれた退役軍人の青年たちは、
彼女のド素人同然の歌に故郷のお母さんを思い出したのではないでしょうか。
なんとか心を伝えようと一生懸命になっている人のことを
誰も笑う権利なんかありません。



ピアニスト役の青年が良かったですね。
この役のために、実際にピアノが堪能な俳優さんを充てたそうです。
ちょっと抜け目の無いところもありながら、実直で、
そしてフローレンスのファンでもある、いい感じです。
メリル・ストリープについてはミュージカル作品にも出ていますし、
歌の堪能さについては周知のところなのですが、
あえてオンチに歌う訓練も大変だったようです。
こんな役をこなせるのは、やはり彼女くらいかなあ・・・。



ところで全然話は変わるのですが、
このコンサートの翌日、酷評ののったニューヨーク・タイムズ紙を、
シンクレアが買い占めて捨てるシーンがあります。
その第一面に大きく「JAPAN・・・」とあるのが目に入りました。
カーネギーホールのコンサートが1944年10月25日。
太平洋戦争真っ最中ですね。
気になって調べてみたのですが、これはレイテ沖海戦があったときで、日本軍が大敗。
かの戦艦武蔵が撃沈しています。
日本では、物資も食料も不足して通常の生活もままならなくなってきていた頃。
同じ戦時中でもアメリカは豊かだったのですねえ・・・・。
日本の無謀さが身にしみます・・・。
ふう、余計なところに感慨が湧いてしまった作品でした。
(というか本作、そこまで事実を再現してあるというのが、ある意味すごい!)

「マダム・フローレンス!夢見るふたり」
2016年/イギリス/111分
監督:スティーブン・フリアーズ
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーク、レベッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ

夫婦のあり方度★★★★☆
満足度★★★★☆