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「夜の底は柔らかな幻 上・下」恩田陸

2018年03月01日 | 本(SF・ファンタジー)

これぞ、恩田陸ファンタジー

夜の底は柔らかな幻〈上〉
恩田 陸
文藝春秋

 

夜の底は柔らかな幻〈下〉
恩田 陸
文藝春秋


* * * * * * * * * *

国家権力すら及ばぬ治外法権の地である〈途鎖国〉。
ここには在色者と呼ばれる特殊能力を持った者が多く、
暗殺者を養成しているとも噂されている。
自身も在色者である有元実邦は、警察官という身分を隠し、
ある目的を持って途鎖国に密入国を企てる。
闇月といわれるこの時期、在色者たちは途鎖に君臨する導師の地位をめぐって殺戮を繰り返し、
またある者は密かな目的を持って山深くを目指す。
密入国に成功した実邦だが、かつての実邦の婚約者で入国管理官として強権を揮う葛城や、
途鎖での同級生だったが何かを隠している黒塚と再会する。
さらに実邦の指導者だった屋島風塵、葛城の旧友で快楽殺人者となった青柳淳一など、
関係者がいっせいに闇月の山を目指しだす。
山の奥にひそむ導師の神山倖秀――実邦の元夫であり、葛城、青柳とともに幼少期を過ごした殺人者――と、
途鎖の山奥に隠された〈宝〉をめぐって、彼らの闘いが始まる。

* * * * * * * * * *

これぞ恩田陸さんの真骨頂とも言うべき、超能力者をめぐるギンギンのファンタジー。


本作の舞台がまたなかなか特殊です。
日本の治外法権の地"途鎖国"。
「とさ」、そうです、高知県をイメージすればよろしい。
ここには"在色者"と呼ばれる超能力者が多くいます。
ここで生まれ育ち、一旦国を捨てた在色者である実邦(みくに)は、
警察官という身分を隠し、凶悪犯罪者逮捕のため、この国に潜入します。


なぜ日本に"途鎖国"という一種の独立国ができたのか、
などというこの世界観の詳細は語られないのですが、
そんなことを疑問に思うまもなく、
次々に登場する魅力的な人物たちや想像を絶するできごとで、
すっかり物語に引き込まれてしまいます。
多くの彼女との対立者や協力者、それぞれの関係性が
なんとも心憎くもスリリングでもあります。
強烈な残虐性を放つ葛城ではありますが、どこか魅力的で、
多分恩田陸さんお気に入りの人物なのだろうと思わせる。
そして強い女性主人公は、なんともカッコイイ!!
陰惨でありながら、どこかカラッと明るい感じのする彼女のファンタジー世界観は、
やっぱり好きです。

さて、本作を読んだ後「蜜蜂と遠雷」をふと思い返してみる。
珍しくあれは「ファンタジー」ではないと思っていましたが、
いや、あれもやはりファンタジーだったのではないか。
音楽という世界に特化した恩田陸さんなりのファンタジー。
登場人物たちの演奏技術はほとんど超能力並だったしなあ・・・。

「夜の底は柔らかな幻 上・下」恩田陸 文春文庫
満足度★★★★☆