長寿は本当に幸せか
長女たち (新潮文庫) | |
篠田 節子 | |
新潮社 |
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あなたは、そこまでして私の人生を邪魔したかったの―。
認知症の母を介護するために恋人と別れ、仕事のキャリアも諦めた直美。
孤独死した父への悔恨に苛まれる頼子。
糖尿病の母に腎臓を提供すべきか苦悩する慧子。
老親の呪縛から逃れるすべもなく、周囲からも当てにされ、
一人重い現実と格闘する我慢強い長女たち。
その言葉にならない胸中と微かな希望を描き、圧倒的な共感を呼んだ傑作。
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「家守娘」
「ミッション」
「ファーストレディ」
篠田節子さんの、"長女"が主役の3編。
認知症の母を介護する物語「家守娘」が、なんと言ってもぐさりと来ます。
最近、親、特に母親を介護する娘の悪戦苦闘の話を多く読んでいるのですが、
本作はその母が事件まで引き起こす事になってしまい、
なんとも暗澹とした気分にさせられてしまいます。
レビー小体型認知症というのは幻視を伴うことがあるそうで、
この母は幻視で見えたことも事実として疑わない。
脳がそう見ているので仕方ないことではあるのですが、
その話に付き合っている娘は、自分までもが精神に異常をきたしそうになってしまうのです。
こんな事になったら、私なら無理心中してしまうかも・・・
なんて思ってしまうくらいに、抜き差しならない状態・・・。
しかしこの正気を失ったような母の言動が、実は娘の危機を救うことになる・・・
というところが、なんともうまくできていて、さすが篠田節子さん。
小説として素晴らしい出来。
「ミッション」はある女医が、ヒマラヤ付近と思われる未開の土地を医療を行うために訪れます。
その地は高地のためろくな作物もできず、人々はみな貧しい。
食べ物といえば非常に塩分の強い干し肉と、バター。
これでは健康にいいわけはありません。
案の定、人々は40歳くらいですでに老人のようで平均寿命も50歳位。
ある日、畑仕事中に倒れたと思ったらそのまま息を引き取ってしまう・・・というのが普通という。
女医は、村人に食物の栄養バランスを説き、
なんとか健康的な食生活を身に着けさせようとするのですが・・・。
しかし考えさせられてしまうのです。
日本で当たり前になっている栄養のことや、長生きのための治療・・・。
それがつまり老人の長い療養生活をあおり、
そしてまた家族の長い介護生活を強いている。
人として生きていくために、正しいのはどちらなのか・・・。
篠田節子氏は通常の介護ストーリーとは別のアプローチで、問題の本質をついています。
ラスト、「ファーストレディ」は糖尿病の母を介護する娘。
しかしこの母は、全くわがままで、せっかくの糖尿病のための料理を全然食べようとしません。
当然病状は悪化するばかりで、振り回されて疲弊してゆく娘。
最後には腎不全に陥り、もう腎移植しか手は残されていないという時、
娘はどのような判断を下すのか・・・。
現実的ではないかもしれないけれど、ちょっとこのラストは溜飲が下がる思いがする・・・。
まあ、少なくともいくら家族相手でも、
介護される側がそれを当然のこととしてしまうのはダメだなあ・・・。
身につまされて、読み応えたっぷりの一冊です。
図書館蔵書にて(単行本)
「長女たち」篠田節子 新潮社
満足度★★★★☆