圧倒的な猥雑のエネルギー
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実母がダイナマイト心中を図ったというキョーレツな体験を持つ
雑誌編集者・末井昭の自伝的エッセイをもとにした作品。
母・富子(尾野真千子)が隣家の息子とダイナマイトで心中、
という体験を持つ末井(柄本佑)は、
18歳で田舎を飛び出し、昼は工場勤務、夜はデザイン学校という生活を始めます。
やがて、看板会社を経て、エロ雑誌の編集へと流れていきます。
表紙デザイン、レイアウト、取材、撮影・・・何でもこなし、
後に伝説の雑誌と言われる「ウィークエンドスーパー」や「写真時代」の編集長に。
それはかなりのヒットとなるのですが、わいせつ文書販売として発禁になってしまいます。
もろにそんな時代に生きた私ですが、さすがにそのような雑誌を目にしたことがあるはずもなく・・・。
まあ、人によってはその頃の感慨も多くあるのでしょうけれど。
ともかく全編を通して感じられるのはこの末井氏の、
淡々としているようにみえて、のめり込み情念を燃やし尽くしているという不思議な感覚。
これがやはり、子供の頃の母親の死のトラウマが影響しているだろうと、確信的に思わせる。
そのために、当時の母親の様子のシーンが幾度も合間に挿入されるわけですね。
けれど、彼女が心中に出向く直前、
寝ている子どもたちの枕元にそっと佇むシーンを差し入れることも忘れない。
それがあるから、なんだか救われる。
また、そのスキャンダラスな母親の死を、末井氏が売り物にしていると言って非難する人もいるのですが、
人がどう思おうとも、彼自身が受けた心の傷に変わりはない。
執念なのか、復讐なのか。
自分の身を削るようにして送り出していく
おびただしい女性ヌードの写真、写真、写真・・・。
ひたすら圧倒されます。
そしてこの末井氏に柄本佑さんを充てたのがまた、素晴らしい!
本人よりも本人らしく(?)なったのではないでしょうか。
この役をやりこなせる人はそう多くはいないと思います。
女性が見るにはちょっとひるむ作品なのですが、
猥雑なエネルギーが、なんと言っても圧倒的で、
映画としては「イヤラシイ」とか、そういう感覚がほとんどない。
一見の価値はあります。
<ディノスシネマズにて>
「素敵なダイナマイトスキャンダル」
2018年/日本/138分
監督:富永昌敬
出演:柄本佑、前田敦子、尾野真千子、峯田和伸、松重豊、村上淳
猥雑なエネルギー度★★★★☆
トラウマ度★★★★☆
満足度★★★.5