1300年前の銅鏡が語ること
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キトラ・ボックス |
池澤 夏樹 | |
KADOKAWA |
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奈良天川村‐トルファン‐瀬戸内海大三島。
それぞれの土地で見つかった禽獣葡萄鏡が同じ鋳型で造られたと推理した藤波三次郎は、
国立民俗学博物館研究員の可敦に協力を求める。
新疆ウイグル自治区から赴任した彼女は、
天川村の神社の銅剣に象嵌された北斗が、キトラ古墳天文図と同じであると見抜いた。
なぜウイグルと西日本に同じ鏡があるのか。
剣はキトラ古墳からなんらかの形で持ち出されたものなのか。
謎を追って、大三島の大山祇神社を訪れた二人は、何者かの襲撃を受ける。
窮地を救った三次郎だったが、可敦は警察に電話をしないでくれと懇願する。
悪漢は、新疆ウイグル自治区分離独立運動に関わる兄を巡り、
北京が送り込んだ刺客ではないか。
三次郎は昔の恋人である美汐を通じ、元公安警部補・行田に協力を求め、
可敦に遺跡発掘現場へ身を隠すよう提案するが―。
1300年の時空を超える考古学ミステリ!
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池澤夏樹さん「アトミック・ボックス」の続編というよりも姉妹作と呼ぶべきでしょうか。
「アトミック・ボックス」の出来事より後の話で、
主人公は新たに、そして「アトミック・ボックス」でおなじみの人々がほぼオールキャストで登場するという、
ファンにはうれしい一作です。
主人公は新疆ウイグル地区から来た可敦(カトゥン)という若い女性。
国立民族学博物館研究員です。
新疆ウイグル地区といえば、ニュースなどでも時々耳にしますが、
独自の民族の暮らす地でありながら、中国の強力な支配に苦しんでいる地。
そんな彼女の出自が、本作の大きなテーマの流れの一つを作ります。
そしてまたもう一つのテーマとなる歴史ミステリ。
奈良天川村‐トルファン‐瀬戸内海大三島という3箇所から
同じ鋳型で作られたと思われる銅鏡が発見されるのです。
同じ時期に同じところで作られたと思われる3枚の銅鏡。
これがどのような経緯でこの3箇所に散ることになったのだろう・・・。
それは600年代壬申の乱などの時代・・・。
遠い遠い昔の歴史ロマンを楽しませてもらいました。
そんな時代にも海を超え国を超えた友情があって、
人々が精一杯に人生を歩んでいたのだなあ・・・。
それに重なるように、本作ではウイグルの可敦と日本人の皆が協力しあい、
友情を結んでいくのが嬉しい。
ストーリーは自在に時を行き来して、
可敦たちには想像しきれない過去の出来事をも語ってくれるのが楽しいのです。
古墳(キトラ古墳)から銅剣と銅鏡を盗んでしまう盗人たちという冒頭のシーンには
ちょっと戸惑いを感じるわけですが、
それこそが本作の歴史テーマにつながる重要なシーンだったんですね。
作中、可敦が誘拐・監禁されてしまうところがあるのですが、
この犯人たちがちょっとドジで全然憎めなくて、
すごくユーモラスなシーンになっているので、ここはお楽しみです。
そういう意味では「アトミック・ボックス」よりサスペンス感・危機感が薄いのですが、
私は大好きです!
図書館蔵書にて
「キトラ・ボックス」池澤夏樹 角川書店
満足度★★★★.5