映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アレクサンドリア

2011年03月13日 | 映画(あ行)
真理は単純で美しい



              * * * * * * * *

4世紀に実在した女性天文学者ヒュパティアのストーリーです。
舞台はエジプト、アレクサンドリア。
そもそも4世紀などといわれてもぜんぜんピンときませんが、
ローマ帝国の末期、キリスト教がどんどん勢力を広げている時期。
エジプトには太古からの「神」があったわけですが、
異端を認めないキリスト教徒により迫害されていくのです。
ヒュパティアは、学問を弟子たちに講義します。
それは天文学であり数学であり・・・、世界の真理を追求する科学です。
地球は丸いという説があるけれど、それならば、裏側や側面の人は何故落ちないのか。
地球が動いているというなら、いつも風は同じ方向に吹くのではないか・・・。
弟子たちの素朴な疑問に、ヒュパティア自身も解答は持っていません。
でも、今すぐに役に立つようなことではないけれど、
真摯に真理を突き止めようとする、
これこそ科学する心、学ぶ心ですよね。
学校の原点がここにある。

終盤に、地球が太陽の周りを正円ではなく楕円軌道で回っていることを
彼女が立証するシーンがあります。
ちょっと感動ものです。
真理というのは単純で美しいのだなあ・・・。

ところが、そのときすでに彼女には危険が迫っている。
キリスト教は地球が太陽の周りを回っているなどという“まやかし”は受け入れません。
それを説くヒュパティアは魔女だということで、抹殺しようとする。
かくして真理への道は閉ざされ、
それから果てしない暗黒の時代が続くわけです。
キリスト教はその発生時にはとんでもない迫害を受けたわけですが、
いずれそれはこのように逆転し、異端を迫害する立場になる。
十字軍の遠征もしかり。
十字架の下でどれだけの犠牲があったかなど考えるだけでも恐ろしい・・・。

しかし、この作品で考えるべきなのは、
このような宗教の恐ろしさというよりは、
時代の流れの中で、大衆が一つの方向に動こうとするときのヒステリックな残酷さ、
このことなのだろうと思います。
現代は、特定の宗教ではなく、ネットが世界を支配しています。
マスコミやソーシャル・ネットワーク、
時にこれが私たちをとんでもない方向へ動かしてしまう危険性はないのでしょうか。
私たちは宗教に絡め取られたいにしえの人々を笑うことは出来ません。
自分にとっての“真理”を大事にしたいですね。
図書館の貴重な人類の英知が燃やされていくシーンは
本当に見ていて辛いです。
このような愚かしいことがまたあってはなりません。



さて、映画の話に戻りますが、
この作品ではヒュパティアに対して、彼女を恋い慕う奴隷のダオスを配置しています。
彼は彼女に付き従い、弟子たちへの講義を聴いている内に
実は最も真理を語るにふさわしい知識を身につけているのです。
しかし、聡明なヒュパティアではありますが、
当時の“身分”というものにはなんの疑問も持ってはいなかった・・・。
彼女から見るとダオスはやはりただの奴隷。
それに耐えきれず彼は彼女の元を去り、キリスト教の僧兵となってしまう。
つまり彼女を迫害する立場です。
彼女を最も理解しながら、敵対する位置にいる・・・、
この彼の存在がこのストーリーに深みを加えています。



作品中幾度も私たちは宇宙に浮かぶ地球の映像を目にします。
ヒュパティアのいるアレクサンドリアを俯瞰しどんどん高度を増して、
大気圏外へ出て、地球を見渡す映像となっていく。
ヒュパティアは、この光景をどんなにか見てみたかったでしょう。
壮大な地球に対して人々の営みは何とも矮小でせせこましいけれど、
この世の有り様をきちんと想像し、証明することが出来る人の力はやはり偉大ですね。
いろいろと考えるべきことの多い作品です。

「アレクサンドリア」
2009年/スペイン/127分
監督:アレハンドロ・アメナバール
出演:レイチェル・ワイズ、マックス・ミンゲラ、オスカー・アイザック、アシュラフ・バルフム

羊・ひつじ

2011年03月11日 | 工房『たんぽぽ』
羊毛だから・・・

             * * * * * * * *

羊毛フェルトだから・・・、そうです、
ひつじさんがいいですよね。
ハマナカ なかよしひつじ/製作キット
ハマナカ
ハマナカ


今回もキットで。
やはり同じものを二つ作るのはなかなか難しいのですよ・・・。
始めのパーツは大きさをそろえたつもりなのに、
つなぎ方で何故か少し違いが出てしまいました。
でも、これはそれぞれのひつじさんの個性、
ということにしておきましょう。

前から


横から


こちらは、しっぽにチョウチョがとまっているのです。


そのチョウチョを見つめるもう一匹

やはり見本と比べるとブサイク・・・
でも、それなりにかわいいと自己満足。


スペル

2011年03月10日 | 映画(さ行)
笑えるホラー



              * * * * * * * *

サム・ライミ監督によるホラー作品。
銀行員のクリスティーンは融資を担当しています。
ある時みすぼらしい老婆がやって来て、ローンの支払いの期限延長を乞うのですが、
ちょうど彼女の出世がかかった時期でもあり、断ってしまう。
怒ったその老婆ガーナッシュは、彼女の帰りを待ち伏せ襲いかかりますが、
彼女も負けていません。

何しろこの時点ですでにこの老婆は不気味で、
魔物かゾンビのようでもあるのですが、
これはまだ一応人間なんです・・・。
そして彼女に呪いをかけてしまう。
三日の恐怖の体験の後に、魂を地獄に持ち去られるという・・・。
それから彼女は、不気味な影や音に震え上がることになるのですが・・・。




う~む。
B級ホラーなのですが、怖さ半分、可笑しさ半分。
この可笑しさは狙ったものなのか、
そうではないのか、微妙な感じなのですが・・・。
いやいやもちろん狙ったものですよね。
そうでないわけがない。
ヒロインのクリスティーンは、決して恐怖におののくばかりのか弱い女性ではありません。
農家の子で、元はとても太っていた、という設定もあるのですが、
どこか図太いたくましさもあるのです。
襲いかかる老婆には果敢に反撃を試みるし、
不気味な魔物にもただやられてはいない。
生け贄が必要となれば、か弱い動物の命も捧げられるし、夜中の墓掘りもいとわない。
いやはや、恐れ入りました。
ここまで女性は強くなりましたね・・・(^^;)
悪戦苦闘の末、彼女はついに勝ったように思えるのですが・・・

おきて破りの結末にあ然。
やっぱり笑ってしまうホラー作品でした。

スペル コレクターズ・エディション [DVD]
アリソン・ローマン,ジャスティン・ロング,ローナ・レイヴァー,ディリープ・ラオ,デヴィッド・パイマー
東北新社


「スペル」
2009年/アメリカ/99分
監督:サム・ライミ
出演:アリソン・ローマン、ジャスティン・ロング、ローナ・レイバー、ディリープ・ラオ

ツーリスト

2011年03月09日 | 映画(た行)
危険な男の香りがしないジョニー・デップなんて・・・



          * * * * * * * *

フランス映画「アントニー・ジマー」(2005年)のリメイク。
監督はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク・・・、
と、あまり聞いたことがない、と思ったら、
あの「善き人のためのソナタ」の監督さんでしたか。
う~む、そうなると少し見方が違ってくるのですが・・・。



イタリアへ旅行に来たアメリカ人フランク。
その彼が謎の美女エリーズと知り合うのですが、
何故かその後、彼は警察やらマフィアの一団に付け狙われることになってしまう。
というのも、フランクは、
マフィアのボスの財産を盗んだというエリーズの恋人に間違えられている!!
さあ、どーなる!!というまあ、単純なストーリーです。
舞台はあこがれの水の都ヴェネツィアだし、
ちょいと小粋で、謎もあり普通に楽しめるドラマかな、と。
これが並みのキャストならば・・・ね。



しかし、あまり好評が得られていないように見受けられるのは、
主演がアンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップということで、
期待が大きくなりすぎるからかもしれません。
しかも、この監督だったら、もう少し、シリアス路線を期待してしまいますし・・・。
ジョニー・デップは極力ごく平凡な数学教師を演じようとするあまり、
いつもの彼のオーラ感じられない・・・というのも敗因の一つ。
つまり、彼の最大の持ち味である危険な男の香りがないんですよ!!
これでは、わざわざ彼を起用する意味がないではありませんか!!



そしてまた、この作品の狙いが、コミカル部分なのか、それともサスペンス部分なのか、
どうもどっちつかずでもありますね。
ラストも見え見えですし・・・。
やにわにフランス版の元の作品の方が気になってきました。

でもまあ、キャスティングにこだわらなければ、普通に楽しめますよ!

「ツーリスト」
2011年/アメリカ・フランス/103分
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョニー・デップ、ポール・ベタニー、ティモシー・ダルトン、スティーブン・バーコス

ピエロの赤い鼻

2011年03月07日 | 映画(は行)
人が人を思いやることの崇高さ

              * * * * * * * * 

1960年代、フランスの片田舎。
ジャックという中年教師が町のお祭りでピエロに扮し、皆を大いに沸かせています。
ジャックの息子リュシアンは、人の笑いものになっている父が嫌で仕方なかった。
けれど、父の友人アンドレが、
ジャックがピエロに扮するようになったわけを語り始めます。
              
              * * * * * * * *

ドイツ占領下のフランス。
人々はあきらめ淡々と生活を続けているわけですが、
中にはドイツ軍に抵抗するレジスタンスの活動をするものもいたわけです。
片田舎で教師をしているジャックは、善良な小市民で、
そんなレジスタンスの活動には関係するわけもなかったのですが・・・。
彼が通っている酒場にルイーズという魅力的な女性が働いています。
ジャックは友人のアンドレと共にルイーズにいいところを見せたくて、
レジスタンスのまねごとを計画します。
鉄道のポイント切替所を爆破しようというその計画は、
なんとあっさり成功してしまったのです。
ところがそれを怒ったドイツ軍は、
町の住人4名を「人質」として捕らえ、
犯人が名乗り出なければ彼らを射殺すると宣告する。
なんと、その四人の中にジャックとアンドレが含まれていた!
実際に犯人であるジャックとアンドレは、どちらに転んでも、命はない・・・。
この人質4名はドロドロの穴の底に監禁されていたのですが、
そこに一人のひょうきんなドイツ兵が現れるのです。
彼は赤いピエロの鼻をつけて彼らを笑わせようとする。
また、こっそり食料を差し入れてくれたり、
音楽を聴かせてくれたり。
精一杯彼らを慰めようとする誠意に、心打たれる4人。
そしてまた、そこになんと犯人と名乗り出たものがいた・・・。


結局人質の4人は、無事帰ることが出来たのですが、
それはある人が自らの命をかけた誠意、
しかもそれが二重に重なった結果であったのです。
ストーリーはコミカルに描かれていますが、
その内容は果てしなく深く崇高です。
知らず涙がわき出て来ます。
人の心を狂わせる戦火の下にあっても、なお美しい人の心は存在する。
いい物語でした。


こんなシーンもありましたよ。
人質になった穴の底で、
もし万が一生きてここを出ることができたら、
「すぐにルイーズに結婚を申し込む。」とジャックがいいます。
「いや、俺ももちろん申し込むよ。」とアンドレ。
「じゃ、ルイーズは君と結婚するだろうね・・・。」とジャック。
ジャックは背が低くてちょっぴり太っちょ。
すらっと背が高くてハンサムなアンドレを彼女は選ぶだろうと思ったのですね。
けれども、続けてジャックはいいます。
「でも、いいんだ。僕の大好きなルイーズと君が幸せになるのなら僕もうれしいよ。」と。
そこでアンドレはハッとするのですね。

人が人を思いやること、男女に関わらないその「愛」は、崇高です。

ピエロの赤い鼻 [DVD]
ジャン・コスモ,ギョーム・ローラン
ハピネット・ピクチャーズ


「ピエロの赤い鼻」
2003年/フランス/95分
監督:ジャン・ベッケル
原作:ミシェル・カン
出演:ジャック・ヴィユレ、アンドレ・デュソリエ、ティエリー・レルミット、ブノワ・マジメル

イブラヒムおじさんとコーランの花たち

2011年03月06日 | 映画(あ行)
たった一人でいい、自分を認めてくれる人がいれば



             * * * * * * * *

えーと、またオマー・シャリフです!
これは割と最近のフランス作品。

舞台は1960年代のパリ。
・・・その時代性は、フランスのことでは私もピンときようがありませんが。
たとえば、このイブラヒムおじさんは小さな食料品店を営んでいるのですが、
たぶん、日本同様現在ではこういう小さな個人商店は
コンビニに座を奪われてしまっているのかも知れません。
だから、近所に住む男の子のことをよく知っている地元の商店主という設定は、
やはり一昔ならでは・・・ということなのかも知れませんね。
パリとはいっても、ブルー通りというごみごみした裏通り。
フランスの方が見れば、
私たちが今昭和の風景を見るように、懐かしく思うのかもしれませんね。


モモ16歳、思春期まっただ中。
彼は父親と二人暮らし。
母は彼が生まれてまもなく家を出てしまった。
ポポルという兄を連れて・・・。
父は何かというとその兄がいかにできが良かったかを口にする。
それに引き替え、お前は・・・と、
いつも不機嫌でモモをまともに見ようとしない。
孤独で行き所がないと感じているモモは、
いつも行く食料品店で万引きをしてしまうのですが・・・。

店主はトルコ人のイブラヒム。
彼は以前からモモの万引きには気づいていたのですが、
ある時こんなふうにいいます。
「万引きをするならうちの店でやりなさい。けれど他の店でやってはいけない。」
こんなふうにいわれたら、もう出来ませんよね。
「お金持ちは幸せだから笑っていられるんだ。」というモモに
「いや、笑うから幸せになるんだよ。ほら、笑ってごらん・・・」
イブラヒムおじさんの話す言葉は優しくモモをつつみこんでくれる。
おじさんの言葉は、彼が大事にしているイスラム教のコーランから来るものなのです。
そんな時父が失業し、家を出て行ってしまう。
母からも父からも捨てられてしまった・・・
と、思うモモを支えてくれるのはやはり・・・。


イブラヒム自身も孤独な身の上であり、
モモが気になっていたのかも知れません。
孤独な魂が寄り添うのは、そう不自然なことではなかったのかも。
でも、その後また意外な展開があるんですよ。
イブラヒムおじさんは真っ赤なスポーツカーを買って、
運転免許を取って(ここの下りがとても面白い!)
二人で行く先は・・・?

モモの失われたアイデンティティは、
イブラヒムおじさんとコーランによって、新たに形成される。
実際の血のつながりなんて実はどうでもいいことなのでしょうね。
たった一人でいい、自分を認めてくれる人がいれば。

超ベテラン、オマー・シャリフの真骨頂を見ました。
彼はこの作品でセザール賞主演男優賞を受賞しています。
若くてハンサムもいいですが、
このように年齢を重ね厚みが出るのも悪くないですよね。
モモ役のピエール・ブーランジェも、なかなかカッコよかったですよ。

イブラヒムおじさんとコーランの花たち [DVD]
フランソワ・デュペイロン,エリック=エマニュエル・シュミット,エリック=エマニュエル・シュミット
ハピネット


「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」
2003年/フランス/95分
監督:フランソワ・デュペイロン
原作:エリック=エマニュエル・シュミット
出演:オマー・シャリフ、ピエール・ブーランジェ、ジルベール・メルキ、イザベル・ルノー

「ホーラ-死都-」 篠田節子

2011年03月05日 | 本(ホラー)
頽廃の都市ホーラが呼び起こすもの

ホーラ―死都 (文春文庫)
篠田 節子
文藝春秋


            * * * * * * * *

このストーリーの舞台はエーゲ海に浮かぶ小島。
何だかロマンを感じますね。
そこへ十数年不倫の関係を続ける二人が訪れます。
ヴァイオリニストの亜紀と建築家の聡史。
しかし、篠田節子作品ですから・・・
ただのロマンのはずがない。

その島にはかつて繁栄した都がありました。
今は崩れ去り建物の土台だけがかすかに残る廃墟。
そのかつての都市ホーラは、文化が爛熟し、
頽廃の限りを尽くした町であったという。
亜紀は、そこでかすかに町の喧騒のような物音を耳にする。
人々が行き交う気配。
ロバの足音。
さらには町の汚物の悪臭・・・。

そんな体験の後、彼女の手のひらから血がにじみ出る。
どこも怪我などしていないというのに。
これは神の奇蹟なのか、それとも・・・。
また、運転が慎重な聡にはほとんどあり得ないような事故を起こし、
聡はにわかに体調が崩れてくる。
これは「不倫」という罪の罰なのだろうか・・・。
亜紀は思わず教会で祈ってしまいます。
「もう二度と聡とは逢わないから、彼を助けてください・・・」
ふだん神を信じているわけでもないのに、
そう祈ってしまうことに滑稽さを感じながら。


この街自体の頽廃の記憶が、
彼等二人を呼び寄せたのかもしれない。
このストーリーの特筆すべきは、結局神はなんの助けにも成らないというところ。
主人公が敬虔なクリスチャンであれば、
神は救いの手をさしのべるたのかもしれない。
けれど、私同様、無宗教の彼女がすがることができるのは、やはり自分自身。
そういう潔さが、私には心地よいのです。

今時「不倫」にさほどの罪の意識などないのではないかと思っていました。
この作品のラストには罪というよりも強い悲哀を感じます。
ほぼ完璧に関係を隠し続けてきた二人。
でもひとたび片方に万一のことがあると、その関係はそこでぷっつりと途切れてしまう。
彼は彼の家族のものであり、もうその彼の片鱗にふれることも許されない。
きついですね・・・。
みなさま、まっとうな恋をしましょう・・・。

「ホーラ-死都-」篠田節子 文春文庫
満足度★★★☆☆

ヤギと男と男と壁と

2011年03月03日 | 映画(や行)
超能力と元気なおぢさんたち



              * * * * * * * *

この作品の原作はジョン・ロンスン著「実録・アメリカ超能力部隊」。
限りなくウソのようだけれども、
本当にあった話・・・というのが何とも興味を引きます。


地方誌の記者ボブ(ユアン・マクレガー)は離婚の痛手を断ち切るため、
戦火のイラクへ向かいます。
そこでリン(ジョージ・クルーニー)という不思議な男と出会う。
彼はかつて存在した極秘部隊「新地球軍」の特殊工作員であったという。
その新地球軍というのは、つまり超能力を用いるものを集めた部隊。
その部隊を率いていたのは、ジャンゴ(ジェフ・ブリッジス)というぶっ飛んだ男。
超能力を使うためには精神力・集中力が一番必要。
というわけなのやらなにやら、
ひたすらダンスをして自己を解き放つなど、ほとんど宗教かと思える怪しげな訓練。
武器は使わない。
愛と平和で地球を救う・・・。
う~ん、思わず笑ってしまいそうなのですが、
つまり、こういう部隊が本当に存在したということなのです。
そういえば昔、超能力を扱ったSF小説の中で、
まことしやかにソ連だかアメリカだかで超能力を戦争に使う研究がなされている
などと書かれていた記憶が・・・。
あながち嘘っぱちでもなかったのですねえ。
ジャンゴの最も真剣で優秀な信奉者がリンだったのです。
ところが、そのリンを妬む別の超能力者ラリー(ケビン・スペイシー)の陰謀で
ジャンゴはクビになってしまい、
ラリーが変わってトップに立つ。
平和を基調とする方針は崩れ、
視線を合わせるだけでヤギを殺す訓練をしなければならなくなったりする・・・。



「超能力」自体が未だにウソかマコトか、よくわかりませんね。
まじめに論じれば論じるほど怪しく見えてきてしまう。
私自身も、100%否定は出来ないと思ってはおりますが・・・、
戦争に使うためにはあまりにも不安定で実用に向かなかったのでしょうね。
そこにそんなに予算をかけるなら、
他のもっと確実なものにお金をかけた方がいい、ということか。


とにもかくにも、こんな怪しいストーリーを、
揶揄を込めながら、苦く可笑しい作品に仕上げているのはさすがです。
作品中では超能力を否定も肯定もせず、
その超能力のすごさよりも、それを取り巻く人々の悲喜こもごもを語っています。
だからこれはやっぱりSFではなくて、完璧な人間ドラマ。
また、このキャストがふるっていますよね。
豪華絢爛くせ者揃い。
ジェフ・ブリッジスの存在感はすごい。
元気なおぢさんたちのストーリーでした・・・。



ヤギと男と男と壁と [DVD]
ジョージ・クルーニー,ユアン・マクレガー,ケヴィン・スペイシー,ジェフ・ブリッジス
エイベックス・エンタテインメント


「ヤギと男と男と壁と」
2009年/アメリカ・イギリス/94分
監督:グラント・ヘスロフ
制作:ジョージ・クルーニー
原作:ジョン・ロンスン「実録・アメリカ超能力部隊」
出演:ジョージ・クルーニー、ジェフ・ブリッジス、ユアン・マクレガー、ケビン・スペイシー

ロビンとマリアン

2011年03月02日 | 映画(ら行)
若く血気盛んな時を過ぎた、ロビンとマリアンは・・・

             * * * * * * * *

先日見たロビン・フッドつながりで、少し古いこの作品を見てみました。
でも実はこの作品、遠い昔の公開時に見たはずなのですが、
内容はなーんにも覚えていませんでした。
情けない・・・。

そもそもこの作品、しばらくスクリーンから遠ざかっていたオードリー・ヘップバーンが
久々に映画出演したことで話題になったはずです。
この時のヘップバーンは47歳。
ショーン・コネリーは46歳か。
この作品の冒頭、瑞々しいリンゴが、
ひからびてしわしわになったリンゴのカットに変わるんですよ。
つまりこの物語は、若くして活躍し人気を博したロビン・フッドとマリアンの
後日談ということになっていまして、
往年の二人ももうすっかり年をとってしまった・・・といいたいらしい。
でもね、まだ40代ですよ。
今の私の感覚からいったらまだぜんぜん若いじゃないですか。
それをしなびてひからびたリンゴにたとえるとは・・・。
現にショーン・コネリーはこの後もいよいよ円熟して、さらに多くの作品に出演しています。
ところがヘップバーンはこの後の出演はごくわずか。
こういうところが男女の差なのでしょうか。
女は若く美しくないと、もう女ではないと・・・?
まあ、元々あの瑞々しい妖精のようなイメージがあるだけに、
成熟した彼女はイメージダウンと見られてしまうのでしょうね・・・。
残念だなあ・・・。


さて、作品の話です。
ラッセル・クロウ版と同じく、長い十字軍遠征から故国イギリスに戻ったロビン。
この時に獅子王リチャードが亡くなったところも同じですね。
・・・というか、ここの部分は史実なのかな?。
ラッセル・クロウ版ではこの後にロビンがマリアンと出会うのですが、
こちらは、二人はそれ以前に出会って愛し合っていた。
しかしロビンはマリアンを置き去りに十字軍遠征に加わってしまい、
18年を経てようやく戻ってきたという設定になっています。
マリアンはそのとき絶望で自殺を図ったけれども失敗。
そのとき助けられた修道院で暮らすことになり、今ではこの地の修道院の院長だ。
相変わらず農民たちは貧しく、重い税に苦しんでいる。
ロビンはマリアンとよりを戻したくてモーションをかけるのですが、
尼僧となった彼女はもうそういうことには興味がない・・・と彼を拒むのです。
でもやがてそのしこりもとけていき、
穏やかな二人の時間を取り戻せたように思えた。
しかし、農民たちがまたシャーウッドの森に集まり始め、再び戦いが始まろうとしている。
もう、争いなど見たくない・・・
マリアンは戦いを止めないのなら出ていく、と森を去ろうとするのですが・・・。


う~ん、実のところ何だか納得出来ないラストだったのです。
マリアンは若い頃、男勝りで、明るく元気、そしてキュート。
・・・そういうふうだったイメージがあります。
その雰囲気はまさにヘップバーンにぴったり。
その彼女がそもそも男に去られたくらいで自殺・・・というイメージがうまくつかめないし、
加えてこのラストにはますます疑問。
この人ならこういう行動はしないだろう・・・と、
どうしても思えてしまうのですね。
こういう結末にするのなら別の女優を起用するべきだったのかも知れません。

私なら・・・シャーウッドの森正面の敵を欺き、
森の裏から全員でこっそり逃亡しますけどね・・・。
せっかくそこのところまでややコミカルに進んで来たストーリーなので、
最後は痛快に終わらせたい。
そんな気がするのですが・・・。

ロビンとマリアン [DVD]
ショーン・コネリー,オードリー・ヘプバーン,ニコール・ウイリアムソン,ロバート・ショウ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「ロビンとマリアン」
1976年/アメリカ/107分
監督:リチャード・レスター
出演:ショーン・コネリー、オードリー・ヘップバーン、ロバート・ショウ、イアン・ホルム、リチャード・ハリス

英国王のスピーチ

2011年03月01日 | 映画(あ行)
正統な感動作



         * * * * * * * *

さて、やりましたね。
この作品、アカデミー賞作品賞に輝きました。
コリン・ファースも主演男優賞。

私は、先に「ソーシャル・ネットワーク」を見たときに、これだ!!と思ったのです。
なんというか、まさに「今」をとらえた、非常に勢いのある作品。
圧倒されました。
だから、「英国王の・・・」の方がちょっと弱いのでは、と思ったのですよね。
しかし、先日こちらを見まして、うなってしまいました。
こちらは実に正統的な感動作品です。
まさに「正しい映画」。
作品賞は時々変に小難しい終わり方の作品が受賞しますが
(こういうのはアカデミー賞を権威づけようとするみたいな意図が見える感じで嫌なんです)、
この作品、ちゃんと感動の渦の内に終わるんです。
う~ん、どっちも甲乙つけがたいけど、万人受けするのはやはり「英国王・・・」か。
そんな感じで、28日の結果を楽しみにしておりました。



ではでは、作品のご紹介。
英国の現エリザベス女王の父、ジョージ6世にまつわる実話を元にしています。
父王の次男である彼には、吃音障害があったのです。
その昔なら、ラジオなどなくて王が吃音でもさほど困らなかったかも。
けれどもこの時代、テレビはまだありませんが、ラジオがありまして、
王として全国民に言葉を伝えなくてはならない。
きちんと話さなければならないと思えば思うほど、
緊張感が高まって、うまく話せなくなってしまうのですね。
だから彼(即位前はヨーク候)は、兄が王位を継ぐことを願い、
自分は決して王位などに就きたくはなかった。

そんな彼は様々な医者にかかるのですが、どれもこれもうまくいかない。
最後に行き着いたのが、言語療法士のローグのところです。
ローグは、彼の障害の原因は心の問題だと語ります。
始めはかたくなだったヨーク候の心も次第に打ち解け、
二人の間に信頼関係が生まれていく。
ヨーク候が語り始めた彼の幼少の頃の様々なことを聞くと、切なくなってしまいます。
王家に生まれてしまったが故の不幸とでも言うべきでしょうか。
普通は王子といえば何一つ不自由なく誰にも愛される
・・・そんな生活を想像しますが、
彼にとっては決してそうではなかった。
これで普通に成長する方がおかしいとすら思えてきます。
でも、このようなことを人に「語る」ことが、
実は彼には一番大事なことだったのだと思います。
どんな場合であっても、人の生きる力を支えるのはやはり人の心。
友人や家族間の信頼関係、愛情、励まし。



さて、順当に行けば彼は次男なので長男が次の王です。
確かに兄が一度王座に就いたのですが、彼は何とも自由奔放。
離婚歴のある女性との愛のために王座を捨てる。
これもまたドラマチックな話ではあります。
こちらを主役にして、もう一本映画が出来そう。
やむなく、次男のヨーク候が王位を継がなければならなくなってしまった。
折しも第二次世界大戦。
開戦に当たり、王として国民を勇気づけるスピーチをしなければならない。
いよいよラジオの生放送・・・というときには、
まるで自分がスピーチするかのように緊張してしまいました。



固唾を呑んで、彼のスピーチを待ち受ける家族、放送局の人々、王宮の人々、国民たち・・・。
緊張の後に続く感動のラストは、やはり映画の王道。
アカデミー賞の頂点にふさわしいといえましょう。
札幌では1館でしか上映がなく、先日も混雑していましたが、
この後はもっと込みそうです・・・。
狙った上映時間より早めにお出かけください。
・・・あるいは、混雑が落ち着く頃まで待つのも手ですね。
いずれにしても一見の価値ありです。

「英国王のスピーチ」
2010年/イギリス・オーストラリア/118分
監督:トム・クーパー
出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム・カーター、ガイ・ピアーズ、デレク・ジャコビ