映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ランゴ

2012年08月11日 | 映画(ら行)
ランゴは思索する



                 * * * * * * * * * 

フルCGのアニメですが、主人公のカメレオン、ランゴは
ジョニー・デップの演技をモーションキャプチャーで捉えて再現したもの。
もちろん、声もジョニー・デップです。
だからみなさん、これはぜひ吹き替えでなく字幕でお楽しみください。
まあ、ジョニー・デップでも誰でもどうでもいいワ、という方ならこだわる必要は、ありません^^;
でもまあ、そんなわけで、このランゴ、
なんとなく似てますよね・・・、ジョニー・デップに。


さて、ランゴは元々は人に飼われていたペットのカメレオン。
ところがアクシデントで、砂漠の真ん中にほおり出されてしまいました。
水もなく死にそうになりながらダートタウン=土の町にたどり着きます。
ところがその町も、水が枯れ、残った水もあと僅か。
そんな町でランゴは口からでまかせ、
お尋ね者7人を一発の銃弾で倒したとホラを吹き、町の保安官となってしまいます。
そんな中で起きた銀行の盗難事件。
この町では貴重な水を銀行で管理しているのです。
さて、このインチキ保安官が事件を解決できるのでしょうか。



今作は、シュールなシーンもあったりして斬新です。
西部劇ですが、登場するのは動物たち。
ここがCGアニメの見せ所ですよね。
寓話的要素がいっそう強調されます。
「タンタンの冒険」で感じた違和感、それはやはり人物をCGアニメにしたから。
人物をCGアニメにするくらいなら実写のほうがいい。
こういうふうに動物などが服を着て歩いたりしゃべったり、
現実にはありえないところこそCGアニメの意義がある、と私には思えます。



ランゴは思索します。

「自分はどこへ行くのか」

「自分はナニモノなのか」

彼は次第に自分の果たすべき役割を自覚していきます。
また、町の水不足の原因についても、痛烈な皮肉となっていました。
まさに、大人が楽しめるアニメ。
大きなお目目がチャーミングな子ネズミのプリシラの声は、アビゲイル・ブレスリンでしたか。
なるほど。



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ランゴ おしゃべりカメレオンの不思議な冒険 [DVD]
(声の出演),ジョニー・デップ,アイラ・フィッシャー,アビゲイル・ブレスリン,ネッド・ビーティ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


「ランゴ」
2011年/アメリカ/107分
監督:ゴア・バービンスキー
脚本:ジョン・ローガン
出演(声):ジョニー・デップ、アイラ・フィッシャー、アビゲイル・ブレスリン


ブラザー・サン シスター・ムーン

2012年08月09日 | 映画(は行)
本当の富は天上にあり

                   * * * * * * * * * 

先日恩田陸さんの「ブラザー・サン、シスター・ムーン」を読んで、
妙にこの作品を見たくなってしまったのでした。
公開当時に見てはいなかったのですが、
このテーマソングにははっきり記憶がありました。
ドノヴァンの甘く優しい歌声。
当時結構ヒットしたのではないでしょうか。


今作はフランチェスコ会の創立者、聖フランチェスコの半生を描く物語。
1200年代イタリア、アッシジが舞台です。
裕福な商人の息子フランチェスコは、焦燥しきって戦争から帰ってきます。
しかしそののち呆けたように、野原でぼーっとしたり、小鳥を追いかけたり。
彼はある時、貧しい人々の苦しい生活を見て、天啓を受けるのです。
富など蓄えても何もならない。
人はみな平等で自由だ。
小鳥のように何も持たず清潔で自由に生きたい。
彼は家の宝物を窓からほおり投げ皆に分け与え、家を出ます。


それから彼は、山間に打ち捨てられた教会の修復をはじめますが、
そこへ彼の思想に同調した友人や若者たち、人々が集まり始めます。


これは宗教物語でありながら、私はその時代性を感じないでいられません。
いえ、中世のではなく、作品が作られた1970年代初めの頃。
全共闘による東大の安田講堂事件があったのが1969年。
今作の72年というのは、学生運動は挫折したとはいえ、
まだその熱気は心に残っているというくらいの時期でしょうか。
若者たちが純粋な理想にかられて、集まり、世に訴えかける。
富を分け与えよ。
我らはみな自由だ。
しかし、これは有力者にとっては危険な思想なのです。
自分たちの享受している富や地位が危険にさらされるから。
従って彼らは弾圧を受けることになります。
多分公開時にこの作品を見た人は、こうした図式を思い出さずには居られなかったでしょうし、
今、私もくっきりとそれを思います。
「出来上がった体制に反対するのは反逆だ」
いみじくも、登場人物がそう言っていました。


まあ、それはさておき、素朴で優しい歌声をバックに、
風に揺れる麦の穂、赤いけしの花。
丘に広がる花畑の映像が、なんと私達の心を穏やかにさせること。
こんな風景の中で、毎日を質素に暮らせたら、確かにそれが最上の幸せと思えます。
本当の富は天上にあり。

ブラザー・サン シスター・ムーン [DVD]
グラハム・フォークナー,リー・ローソン
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン


「ブラザー・サン シスター・ムーン」
1972年/イタリア・イギリス/121分
監督:フランコ・セフィレッリ
出演:グラハム・フォークナー、ジュディ・ボウカー、リー・ローソン、ケネス・クランハム

「おやすみラフマニノフ」 中山七里

2012年08月08日 | 本(ミステリ)
「音楽は職業じゃない。生き方だ。」

おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)
中山 七里
宝島社


                            * * * * * * * * * 

「さよならドビュッシー」でお馴染みの中山七里作品です。
題名でもわかる通り、音楽ミステリとなっていますが、
この音楽性が半端ではありません。
ミステリとしても楽しめますが、音楽ものとしてもより一層楽しめる一作です。


音大でヴァイオリンを学んでいる晶。
物心つくかつかないかという頃から母とともに練習してきたヴァイオリン。
しかし、プロになれるのはほんの一握りだし、
音楽関係の職に就こうにも、それも非常に難しい。
今はなき母との夢を果たしたくはあるけれど、
自分の力を信じ切れないし、将来も見えない・・・、そんなこの頃なのです。
それでも彼は、プロへの切符をつかむチャンスとなるコンサートのオーディションにパスし、
コンマスの座を得て、練習に励んでいました。
そんなある日、大学所有の時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれたのです。
更には、何者かが学長専用のピアノを破壊。
これは誰かがこの秋のコンサートを阻止しようとしているのでは?
との噂が囁かれるのですが・・・。


謎を解き明かすのは、この音大の講師、岬。
彼自身天才的ピアニストですがなんとも優しく物腰柔らか。
素敵ですよねー。


豪雨で洪水の危険が迫り、とある学校の体育館に避難し、
居合わせたこの二人、晶と岬。
不安にかられパニック状態寸前のこの体育館で、二人は演奏をはじめるのです。
「チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲 ニ長調」。
岬のピアノの後押しもあり、これまでに体験したことのない高揚感で、夢中になり弾き続ける晶。
それはこれまでろくにクラシック音楽などに触れたこともない町の人々を感動の渦に巻き込むのでした・・・。
このシーンが何とも迫力に満ちていて圧巻です。
実のところ、クラシックに詳しくない私にはよくわからないことがほとんどですが、
その凄さは伝わります。
もちろん、ラストのラフマニノフのピアノ協奏曲もまた然り。
巻末の解説に、この本にはCDを付録につけるべきとありますが、全く同感。
そのCDを聞きながら読む、これぞ正しい読み方でありましょう。

「音楽は職業じゃない。生き方だ。」
晶の出した結論が胸にしみます。

読み応えたっぷりの一冊でした。
「さよならドビュッシー」よりも、私はこちらのほうが気に入りました。

「おやすみラフマニノフ」中山七里 宝島社文庫
満足度★★★★☆

シェーン

2012年08月07日 | 映画(さ行)
真のヒーローは・・・?

               * * * * * * * * * 

「シェーン、カムバーック!!」
少年の懸命の呼びかけも振り切って、荒野の中へ去っていく男、シェーン。
あまりにも有名なそのシーンですが、
実はその作品をきちんと見たことがなかったので、この度拝見。


西部劇の定石ではあります。
慎ましく暮らしていた家族をならず者が襲います。
そこへふらりと通りがかりに登場するガンマン。
彼はこの家族を守るため、ならず者と戦う。
勝利した彼は、再びさすらいの旅に出る。


まあ、そこをどう肉付けするかで作品の価値が決まるわけです。
今作、ならず者といいますか、その土地の権力者の言い分もあながち無理なことではない。
彼はこの土地の開拓者なのです。
なにもないところを切り開き、襲ってくるインディアンと闘いながら、牛を増やしていった。
自分の目の届く限りのこの土地は自分のものだと思っているけれども、
実は法律的な裏付けはない。
そこへ後から移住してきた人々は、
ある程度の範囲に牛を囲い、豚を飼い、畑も耕す堅実な農業を目指している。
勝手に住み着いて、水を盗む目障りな奴ら。
先住者はそう思い、荒くれどもを雇って移住者に嫌がらせを図ります。
そうした確執の中へ、さすらいの男シェーンが巻き込まれていく。
たまたま、はじめに出会ったのが移住者のスターレット家で、
一宿一飯の義理を得ただけなのですが。


シェーンにすっかりなつき、憧れている息子のジョーイに母はいいます。
「あの人を好きになってはダメ」
やがて去ってしまうことがわかっている人を好きになっても、
後で悲しい思いをするだけ、と息子を諭しながら、
彼女は自分自身にもそれを言っているのです。
少年にとってのヒーロー。
彼は去ることでそのヒーロー像を永遠のものにします。

けれど、私は思うのですが、
今作で本当のヒーローはこの父親なのではないかと。
スターレット氏は、ならず者の度重なる嫌がらせにもめげず、家族とこの家を守ろうとします。
近所の同じ移住者たちが諦めてよそへ行こうとするのにも説得を試みる。
みんなでこの土地と家と家族を守ろう。
豊かな生活を作ろう。
地に足のついた、本当に強い男の姿ですねえ・・・。
銃なんかうまく扱えなくても、これが本当の強さだ。
こういう堅実な生き方にシェーンは実は憧れたのでしょう。
そしてまた、スターレット氏は妻が密かにシェーンに想いを寄せていることにも気づいているのですが、
そこも実に寛容なのです。
単身で実力者の元へ話をつけに行こうとするときに、
自分にもしものことがあっても、妻はきっと幸せになれるだろう、と語る。
ね、これこそ無骨で優しい、真の男の姿ですよねぇ。

時には古典もよし、としましょう。
少年と一緒に荒野を駆けるわんこもかわいかったな。

シェーン [DVD]
アラン・ラッド,ジーン・アーサー
ファーストトレーディング



「シェーン」
1953年/アメリカ/118分

監督:ジョージ・スティーブンス
出演:アラン・ラッド、ジーン・アーサー、ヴァン・ヘフリン、ブランドン・デ・ワイルド、ジャック・バランス

グッドモーニング・プレジデント

2012年08月05日 | 映画(か行)
200億ウォンが空から降ってきたらどうする?



                   * * * * * * * * * 

韓流にハマったわけではないのですが、チャン・ドンゴンは、いいですねえ~。
つい色々見たくなってしまいます。


今作は、韓国のホワイトハウスともいうべき青瓦台の料理人が見た、
3代の大統領の素顔をコミカルに語る物語。


始めは宝くじで多額の賞金を当てた任期終了間近の大統領。
思わぬ大金に気持ちは舞い上がるのですが、
しかしこの宝くじ、大統領自ら国民に向けてPRをしていたのです。
「もし私が宝くじを当てたら、国民に寄付をする」
と公言してしまっていました。
でもそれが非常に惜しくなってしまった彼は、
どうにか自分の正体がバレないようにお金を受け取る事はできないものか・・・などと悩んでみたり。
どうにもセコくて憎めない感じなんですが。
ある時彼は料理人に尋ねるのです。
「突然200億ウォンが空から降ってきたらどうする?」と。
料理人は言いました。
「200億ウォンと言ったらものすごい量ですよね。
そんなものが空から降ってきたら、
頭が割れるか首が折れるかして、死にます。」
セコセコ悩んでいた大統領は、それで目が覚める・・・というわけ。


こんな風にここに住む大統領は、何かに行き詰まると料理人と話をしにくる。
それは直接的な解答ではないのですが、
含蓄を含んだその言葉に触発され、大統領が答えを見つけるのですね。
素敵な趣向です。


チャン・ドンゴンはその跡を継ぐ若手大統領。
うわあ。
こんな方が国を率いるのなら、もう支持率はうなぎのぼりでしょうに。
原発を動かそうが、消費税を上げようが・・・。
う~ん、ところがここに出てくる日本のエピソードはちょっとありえないかな。
日本の自衛隊がそんなに強腰に出るなんてねえ。
まあ、それはともかく、この大統領、
「1人を幸せにできない大統領なんて、国民を幸せにもできない!!」と、
一大決心をします。
密かにある女性を思い続ける純情なところとか、
注射が大嫌いなところとか・・・
チャーミングでありつつ、しかも理想は高潔。
素敵です。
やはり本作は彼のためにある。


その後を継ぐのが女性大統領。
彼女のいかにも人のよさそうなのほほんとしたご主人がよかったですねえ。
しかし、彼は彼女の政治には何の役にも立たず、むしろ足を引っ張る・・・
ということで夫婦仲が怪しくなるのですが・・・。
まあ、楽しめる作品でした。

グッドモーニング・プレジデント [DVD]
チャン・ドンゴン,イ・スンジェ,コ・ドゥシム,ハン・チェヨン,パク・ヘイル
エスピーオー


2009年/韓国/132分
監督・脚本:チャン・ジン
出演:チャン・ドンゴン、イ・スンジェ、コ・ドウシム、イム・ハリョン、ハン・チェヨン

「つるかめ助産院」 小川糸

2012年08月04日 | 本(その他)
南の島で考える、命の物語。

つるかめ助産院 (集英社文庫)
小川 糸
集英社


                   * * * * * * * * * 
 
夫の突然の失踪のため、
何のあてもなく、以前夫と訪れた南の島にやってきてしまったまりあ。
その島で、助産院を開いている鶴田亀子と出会い、本人も気づいていなかった妊娠を告げられます。
家族の愛を知らずに育ったまりあは、
思わぬ妊娠に戸惑いますが、この島のこの助産院での出産を決意。
院長や共に働くベトナム人のパクチー嬢、産婆のエミリー、旅人のサミー。
個性豊かな仲間と美しい海に囲まれ、
孤独な彼女の心がほぐれていきます。


この助産院というのは、できるだけ自然に任せたお産をしようとするもので、
島の人達だけでなく、本土からわざわざここに来て出産をする人たちもいるのです。
出産に関してだけではなくて、そこでの生活も、いわゆるスローライフ。
美しい南の島で、古来の人々がそうして来たように自然とともに生きる。
憧れはあります。
でも多分自分なら一週間もしたら音を上げるのかも。


けれどまりあのように人生に行き詰って落ち込んでいるときに、
すっと自分を受け入れてくれる、こういう場所があったら素敵ですよね。
少しずつ少しずつ、お腹の赤ちゃんが大きくなるに連れ、
まりあはこれまでの自分を見つめ直していきます。
確かに不幸な生い立ちではある。
でも、多くの人が自分に関わってくれたからこそ今の自分がある・・・。
誰に諭されたわけでもないのに、彼女は自分で気づいていくのです。
これは命の物語ですね。
人はみなこのようにして、光に包まれて生まれてくる。
・・・そうではないのかもしれないけれど、そう信じたい。
そう信じられる気がしてきます。


小川糸さんの物語の中で、やはりどの食べ物も美味しそうです。
シンプルで、素材の味が生きていて。
土地の生命力を分けてもらえそうな。
作品中は「南の島」とあるだけなのですが、モデルは沖縄のようです。
あったかくてどっしりしていて、とても頼りになる院長は、
あの石垣島で有名なラー油を作っている方のイメージなのだそうですよ。
なるほど・・・、納得です。
ラストのエピソードは出来過ぎな気がしなくもないですが、
ここまで成長したまりあへのご褒美ということで、いいんじゃないでしょうか。


巻末には、著者と宮沢りえさんの特別対談あり。
ちょっと、お得です。

「つるかめ助産院」小川糸 集英社文庫
満足度★★★★☆

ローマ法王の休日

2012年08月03日 | 映画(ら行)
広場の階段でアイスは食べないけど



                * * * * * * * * * 

今作は予告編を見て、絶対見ようと思いました。
大観衆の前で話すのが嫌で逃げ出すローマ法王の話とは・・・! 
しかも、題名が「ローマの休日」をもじって、「ローマ法王の休日」。
なんて洒落ているんでしょう。
期待が高まります。


さて、というわけで勇んで見たわけですが・・・
あれあれ・・・? 
う~ん、なんだか満足感には欠けます。



ローマ法王が亡くなり、次の法王を決めるため、
各国の枢機卿がバチカンに集まり、コンクラーベという会議を開きます。
法王は投票で決まりますが、決まるまでそのメンバーは外に出ることもできず、
延々と会議が続くという過酷なきまりがあるわけです。

今作では、みな
「神様、一生のお願いです。どうか私が選ばれませんように・・・」
そんな風に祈っています。
地位や名誉よりも、様々な面倒に縛られたくないと、そういう実際的な心情が強い。
そんな訳もあってか、最後に選ばれたのは、誰も予想しなかったメルビル。
ところが、いざ、彼が就任の挨拶のためバルコニーで大観衆を前に演説をするという直前、
そのあまりの重責にたえかねて、メルビルはローマの街に逃げ出してしまいます。
メルビルは、ローマの街で人々と触れ合いながら、
人生で大切なものや、法王の存在意義を見つめなおしていきます・・・。



少なくとも私が映画に求めるのは、非日常と心の安息、そして爽快感。
まあ、重いメッセージ性のある作品も見ますが、
基本的にはエンタテイメントなのかな?
そんな私は、そもそもはじめから勘違いをしていたのかもしれません。
今作はもう少し軽くて、ありきたりな結末なのだろうと思っていました。
それで十分と思っていたのです。
そんなところで、期待と現実とのギャップが開きすぎました。


結局この作品のテーマは何だったのか。
神聖であるべきローマ法王も、一介の人間である・・・、と。
そのへんはおそらく、私はキリスト教徒ではないのでピンと来ないのかも知れません。
わざわざ言われなくても当たり前と思っている。
でも多分、キリスト教徒の認識はもっと崇高なものなのでしょうね。
・・・かな?
ただ、人は周りの期待に応えるために何かをなすのではなく、
自分の欲求に従ってこそ、何かをなすことができるのではないかと、そういうふうにも思えます。
そういえば、メダルを期待されたオリンピック選手が、思うような結果を出せなかったときに、
「ご期待に添えなくて、申し訳ありません」
というようなコメントをよく聞きます。
けれど、どうもそれは違うのではないかと、私は思うのです。
周りの人のためにこれまで頑張ってきたわけではない。
やはり自分のために頑張ったはずなので、
何も遠慮なく自分を主体とした気持ちを話せばいいのに、と思います。
悔しい。
自分が不甲斐ない。
早く帰って布団かぶって寝て忘れてしまいたい。(←私が何か失敗したときはこんなふうに思います。)


自分に正直になろう。
どうしても無理だと思うならやめたっていい。
まあ、たしかに、何が何でも頑張れ、負けるな、イケイケドンドン。
ともすると世の中の風潮はそんなふうだから・・・
そうでなくてもアリ。
そういう考えも大事ですね。
と、そういうお話だったことにしておきましょう。



     ↑
ところでこの精神科医の役が監督のナンニ・モレッティ氏なのでした。

ローマ法王の休日 [DVD]
ミシェル・ピッコリ,イエルジー・スチュエル,レナート・スカルパ,ナンニ・モレッティ,マルゲリータ・ブイ
Happinet(SB)(D)


「ローマ法王の休日」
2011年/イタリア・フランス/104分
監督・脚本:ナンニ・モレッティ
出演:ミシェル・ピッコリ、ナンニ・モレッティ、イエルジー・スチュエル、レナード・スカルパ、マルゲリータ・ブイ


海洋天堂

2012年08月01日 | 映画(か行)
相手を理解しようと思ったら、まず自分の“普通”を破壊しなければならない



                 * * * * * * * * * 

水族館で働くワン・シンチョンは、
妻との死別後、自閉症の息子ターフーを男手一つで育ててきました。
しかし、彼はガンで余命宣告を受けてしまいます。
自分亡き後、息子はどうなるのか・・・!?
それが気がかりで自分の療養など眼中にありません。
息子の生活の場を確保するのがまず非常に困難だったのですが、
その後も、彼は息子に伝えられることを精一杯伝え、残そうと努めるのでした・・・。



今作は、冒頭シーンでまずドッキリさせられます。
久石譲の明るく落ち着いた音楽の中、
足に重りをくくりつけた二人が、ボートから海に飛び込むのです。
もしかしてこれは最後に来るべきシーンなのか???と思ったのですが、
そうではありませんでした。
余命宣告を受けた父親は、息子の将来を悲観して心中を図ったのです。
まさにそのとおりでしたが、ターフーは実は泳ぎが大の得意なのです。
心中に失敗し、やはり今後息子が生きていくための具体策を練らなければならない。
父親がそういう覚悟を決めたところから物語が始まるわけです。



舞台がこの水族館という設定がとてもいいですね。
ターフーはいつも父親の仕事についてここに来ています。
そして水槽の中を魚と共に自在に泳ぎまわる。
彼はこちらの陸中では非常に不器用で生きにくそうですが、
水の中こそが本来のすみかであるかのように活き活きと泳ぎまわります。
ガラス越しの薄暗い水底の映像に、なんだか癒される感じがします。


父親は自分一人だけが息子を支えていると思っているのですが、
実は周りの人々も温かく二人を受け入れ、見守っている
・・・そういうところも良かったですね。



ただし、今作でたまたま見つかった施設の様なところが、なかなかないというのは、
日本も多分事情は変わらないのだろうと思います。
今作、WOWOWの録画で見ましたが、
「W座」の解説の中でこんなことを言っていました。

「相手を理解しようと思ったら、
まず自分の“普通”を破壊しなければならない」

誰もが自分の中では“普通”なんですよね。
でもその“普通”は人によって随分違う。
父が息子を施設に預けて帰るときに
「息子は寂しそうな顔もしていなかった」
と虚しく感じます。
けれどもその夜、ターフーはパニック状態に。
寂しさや悲しみを表現するすべを彼は知らなかったのですが、
本能的に、今までいつも一緒だった父を欲したのでしょう。
言葉では現さなくてもしっかりとそこにある絆。
とても重いテーマでありながら、なぜか癒されてしまう。
是非どなたにも一度は見ていただきたい作品と思います。
アクション俳優ジェット・リーがアクション無しの好演です。



海洋天堂
2010年/中国・香港/98分
監督・脚本:シュエ・シャオルー
出演:ジェット・リー、ウェン・ジャン、グイ・ルンメイ、ジュー・ユアンユアン、カオ・ユアンユアン