goo blog サービス終了のお知らせ 

映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ウェディングベア

2014年03月11日 | 工房『たんぽぽ』
ウェディングベア



* * * * * * * * * *

過日、長女が東京で結婚式を挙げました。
一応、プレゼントということでこれを作ってみました。
お気づきかどうかわかりませんが、
女の子の方が持っている花束は、
当ブログの私のプロフィール写真のネコちゃん(ネコだったのか?!)が持っているもの。
これは実は昨年の母の日に、娘がくれた紅茶のセットについていたものなのです。
ちょうどいいので、こちらのクマさんに持たせて完成。


札幌に住んでいた娘が何故か東京の彼と不思議な縁で結ばれ、嫁いでいきました。
彼の方の実家は神戸。
西と北から飛んでいった種が
新たな土地に根を下ろし芽吹いていく・・・
梨木香歩さんの「渡りの足跡」ではないけれど、
新たな生きる地を求めて自分の生まれ育った土地を遠く離れていく。
悠久の昔から、人々はこのようにして命をつないできたのかも知れません。


ということで、双方の親族ともアウェイの地、東京での挙式。
これもまた悪くありません。


式の後に感じたのは、安堵感とともに言いようのない寂しさ。
実のところ3ヶ月ほど前から娘は既に家を出て彼と暮らしていたのですが、
この式でいよいよ「うちの娘」ではなくなってしまうわけで・・・。
「花嫁の父」のみならず、「母」も十分寂しいものだったのです・・・。
こんな風に「儀式」というのは人の気持にケリをつけるために必要なものなのかも知れません。
おそらく娘も、
これからは彼とともに新しい家庭を築いていこうとの思いを新たにしたに違いありません。
(ということにしておこう・・・)


誓のキッス・・・双方の顔が見えない写真がこれだけだったもので・・・


まだ暖かいとまでは言えない東京でしたが、
北海道に戻ってみれば相変わらず真っ白な冬一色。
がっかりです。
もしかして、このメランコリーな気分はこのためか・・・?
ひたすら春を待ち焦がれる私であります。




「こめぐら」倉知淳

2014年03月10日 | 本(ミステリ)
とびきりユニークな作品群

こめぐら (創元推理文庫)
倉知 淳
東京創元社


* * * * * * * * * *

必要か不必要かはどうでもいいのだ。
したいからする。これは信念なのだ
―密やかなオフ会でとんでもない事態が発生、
一本の鍵を必死に探す男たちを描く「Aカップの男たち」、
うそつきキツネ殺害事件の犯人を巡り
どうぶつたちが推理を繰り広げる非本格推理童話「どうぶつの森殺人(獣?)事件」など
ノンシリーズ作品に、猫丸先輩探偵譚「毒と饗宴の殺人」を特別収録した全六編。


* * * * * * * * * *


倉知淳さんの短篇集。
とびきりユニークな作品が収められています。
まずは冒頭「Aカップの男たち」で度肝を抜かれるというか、笑ってしまう。
「Aカップ」で皆さんは何を連想しますか?
そう、まさしくソレなんですが。
主人公東堂は会社でもあの『ゴルゴ13』に似ていると噂される
ゴツくて渋い苦みばしった男。
それが何故にAカップ? 
悪いのですがミステリの謎解きよりも設定に魅了され(?)ました。


「さむらい探偵血風録」は、まさに時代劇。
いえ、ある人物が古いマイナーなTVドラマをレンタルで見ているのです。
これがやけに紋切り型でオーバーアクションの時代劇。
しかしはじめに提示される謎がいかにも本格ミステリ風なので、
その解答を楽しみに見続けるのですが・・・
とんでもない結末に導かれる。
それにしても、いかにも時代劇。
倉知淳さんの遊び心満載という感じです。


一応ノンシリーズという触れ込みなのですが、
ラストの「毒と饗宴の殺人」は猫丸先輩が登場します。
これはいわばボーナス・トラックで、
通常「猫丸先輩」のシリーズでは殺人は起きないのですが、ここでは起きてしまう。
他の短編も十分に面白いのですが、
やはり見知ったキャラクターが登場すると安心感があったりして、お得な一冊です。


本作と同時発売の「なぎなた」も同様の短篇集で、
本来なら一冊で出してもいいのだけれど、
短篇集としてはボリュームが出過ぎるので2冊に分けたということのようです。
やっぱりそちらも読まなくては・・・。


ところで「こめぐら」も「なぎなた」も収録作品の題名ではなく、
内容とも関係なし。
ただなんとなくつけた題名だそうで・・・。
そんなんでいいのか・・・? 
ま、いっか。


「こめぐら」倉知淳 創元推理文庫
満足度★★★★☆

家路

2014年03月09日 | 映画(あ行)
土がかわいそうだ



* * * * * * * * * *

東日本大震災後の福島に暮らす家族を描きます。
監督はこれまでドキュメンタリーを手がけてきた久保田直。
オール福島ロケ。
したがって本当に今の福島の姿が描かれているわけで、
私達にとって、大切な作品です。


先祖代々の土地を守って暮らしていた聡一(内野聖陽)一家。
震災による原発事故のため、故郷を離れざるを得なくなり、
仮設住宅でやり場のない怒りを抱えながら、先の見えない毎日を過ごしています。
一方、20年前ある事件のため故郷を出た弟・次郎(松山ケンイチ)は、
警戒区域で立ち入り禁止となっている生家に戻り、
たった一人自給自足の生活をしながら苗を育てていました。
そのことを聡一が知り、20年ぶりに二人が対峙します。
実はこの二人は異母兄弟。
家長たる父親をめぐり、二人には複雑なしがらみがあったようなのです・・・。



警戒区域のこの地、
たった一人の次郎の表情は思いの外明るいですね。
たまたまここへやってきた中学の頃の友人北村(山中崇)は、
「これはゆっくりした自殺じゃないのか」というのですが。
でも、次郎は本当は帰りたくて帰れなかったこの地に戻れたことが
嬉しくてしかたがないのです。
この故郷の山や田んぼが「帰って来い、帰って来い」と呼んでいた、と彼はいう。
そして幸いだったのは、この北村が彼を理解し友人となってくれたこと。
いかに好きであっても、誰にも知られず孤独な生活を送るのはあまりにも寂しい。
やはり、どこか人とつながっているということが大事なのではないかな?
と思いました。



さて、聡一とともに仮設住宅に住む次郎の実の母・登美子(田中裕子)は、
畑仕事を離れ、生きがいをなくして、認知症が始まっています。
彼女にも故郷の山や田んぼの呼び声が聞こえていたのでしょうけれど、戻るのは無理。
人は衣食住だけで生きられるのではない。
生きていく意味と人とつながっている実感がなければ、
ほんとうの意味で生きているとは言えないのではないでしょうか。
その大事なものを奪われてしまった人々の
無念の気持ちがしっかりと描かれていたと思います。
天災ではなく、明らかに人災というところが腹立たしく、
でも実際その怒りを持っていく先がないのがまた虚しいですね。



放射能を帯びた田んぼの土を東京へばら撒きに行く
というその発想もよくわかりますが、
それを押しとどめた男の思い、そして次郎の思いは、
私の心の奥で芽生えた思いと同じだったので、
一瞬はっとしました。
本作をずっと見ていたら、そんな気持ちになる。
そういうふうにできている作品なのだなあ・・・。
恐るべし。



2014年/日本/118分
監督:久保田直
脚本:青木研次
出演:松山ケンイチ、内野聖陽、田中裕子、安藤サクラ、山中崇

故郷への郷愁度★★★★★
人々の無念度★★★★☆
満足度★★★★☆

パシフィック・リム

2014年03月07日 | 映画(は行)
超高空から深海の更なる地底まで



* * * * * * * * * *


巨大ロボットもの・・・となれば私の守備範囲の外ではありますが、
本作はやはり菊地凛子さん、芦田愛菜ちゃんが出演ということで、
興味はありました。


太平洋深海の裂け目からKAIJUが出現。
環太平洋沿岸諸国は英知を結集して人型巨大兵器イェーガーを開発。

一旦は鎮圧したかのように思えたのですが、
彼らもどんどん進化し、より強力になっていく。
かつてのKAIJUとの戦いで兄を亡くしたローリーは、
失意の底で暮らしていましたが、
最後の賭けに出たペントコスト司令官に招聘され、
日本人森マコ(菊地凛子)とコンビを組むことに。





ここに登場するKAIJUたちは、昔の「ウルトラマン」に出た怪獣を彷彿とさせます。
それもそのはず、本作はギレルモ・デル・トロ監督が、
自らの子供の頃に慣れ親しみ憧れた日本のTVアニメやウルトラマンなどの特撮ドラマに
オマージュを捧げた作品。
それは私的にも懐かしく親しみがあります。
(何しろ私はウルトラマンの怪獣図鑑も持っていた!!)
イェーガーは、鉄人28号っぽいところもありましたね。
そんなわけで、ヒロインにも日本人の菊地凛子さん起用ということになったのでしょう。
芦田愛菜ちゃんはさすがの演技力で、
森マコの回想ということで、ほんの少しの出演シーンでありながら、
やっぱり泣かされてしまいました。



また、ただKAIJUとの戦闘シーンでドッカン・ガッチャンがあるだけではなく、
裏で、オタクめいた変人科学者二人が奮闘し、
パイロットたちを支援するというサイドストーリーも効いています。
ペントコストとマコの父娘のような情感もいいですね。


大気圏外の超高空から深海の更に奥深い地中まで、縦横無尽。
大画面・3Dで見ればそこのところはもっと面白かったのかもしれませんが、
まあ、私はさほどそういうシーンには興味が有るわけではないので・・・。
香港のいかにも怪しげで混沌とした雰囲気をも良かったですし、
あのハンニバル氏の転んでもただでは起き上がらないというしたたかさも、ナイス!
意外と楽しめた作品なのでした。

パシフィック・リム ブルーレイ&DVDセット (3枚組)(初回限定生産) [Blu-ray]
チャーリー・ハナム,イドリス・エルバ,菊地凛子,チャーリー・デイ,ロブ・カジンスキー
ワーナー・ホーム・ビデオ


「パシフィック・リム」
2013年/アメリカ/131分
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:チャーリー・ハナム、イドリス・エルバ、菊地凛子、チャーリー・デイ、ロブ・カジンスキー、芦田愛菜
親日度★★★★☆
満足度★★★★☆

「ホテルローヤル」 桜木紫乃

2014年03月06日 | 本(その他)
北の果て、冴えない男女による寂れたラブホの情事

ホテルローヤル (集英社文芸単行本)
桜木紫乃
集英社


* * * * * * * * * *

恋人から投稿ヌード写真撮影に誘われた女性店員、
「人格者だが不能」の貧乏寺住職の妻、
舅との同居で夫と肌を合わせる時間がない専業主婦、
親に家出された女子高生と、妻の浮気に耐える高校教師、
働かない十歳年下の夫を持つホテルの清掃係の女性、
ホテル経営者も複雑な事情を抱え…。


* * * * * * * * * *

前回、第149回直木賞受賞作です。
桜木紫乃さんは北海道釧路市出身で、
現在も北海道在住の方なので、
是非読んでみたかった作品、やっとたどり着きました。


本作は短篇集となっていますが、
どの作品にも通じるのは「ホテルローヤル」。
釧路市郊外にあるラブホテルです。
ラブホテルとなれば当然そこを訪れる男女の情愛が描かれているわけですが、
意外に濃密な感じはなく、
さすがに北の果て、どこかもの寂しさを誘うストーリーの数々です。


何しろ冒頭「シャッターチャンス」では、
ホテルを閉鎖してから更にまた時を経て、すっかり廃墟となったホテルが舞台。
男はここを背景に女の写真を撮ろうと、この場所を訪れるのです。
まさに、本作のイメージを代表するかのような光景ではあります。
そして、今は廃墟となったこのホテルがまだ息づいていた頃のストーリーが
これから展開されるであろうことが予想されて、
なかなかシャレた滑り出し。
これが最後の話でないところがいいですね。


特別にステキな美男美女のラブロマンスなどではありません。
どちらかと言えば冴えない男と女、
いや、ぶっちゃけオジサンとオバサンというべきかもしれませんが、
そういうありふれた生活の中で、
どこか特別な場所でもあるラブホテルに絡んだ出来事を描写しています。


私が好きだったのは「せんせぇ」
単身赴任していた高校教師・野島が、
親に家出された教え子の女子高生・佐倉と、何故か一緒に旅をすることになってしまいます。
佐倉のスタイルを見て野島は思う。

「首にはマフラーを巻き上半身はガッチリ防寒しているのに、
短いスカートの下は素足にムートンブーツ。
相変わらず馬鹿な服装だ。」

いやいや、わかります。
よくいるんですよね、こういう子。
この描写だけでなんとなくこの少女の性格やおつむの程度などが想像できちゃいます。
ちなみにこれは「春分の日」を含む3連休の前の夜。
北海道はまだ冬の服装が当たり前の時期であります。
佐倉は野島が嫌な顔をするのも構わず、ベタベタ擦り寄ってきます。
というのも、本人はあっけらかんとした風ですが、
両親とも家を出てしまい、戻る気配がない。
お金もないし、実は非常に悲惨な状況。
それをまた、教師のくせにその少女を案じるでもないこの男も、どうかとは思うのですが、
実は野島の側にも抱えている大きな問題がある。
この二人の関係が、息の合わない教師と生徒から、
次第に変化していくさまが劇的ですが、
また、それが非常に説得力もあるのです。
通常、高校教師と女生徒の関係なんて「けしからん」としか思えないのに、
妙に納得できてしまう。
そしてまた、本作に「ホテルローヤル」は登場しません。
しかし、ラストで二人が買ったのは釧路行きの列車の乗車券。
その行き先は・・・、想像できますね。


「ホテルローヤル」桜木紫乃 集英社
(Kindleにて)
満足度★★★★☆


ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

2014年03月05日 | 映画(な行)
父親の人生を知る旅



* * * * * * * * * *


アメリカの田舎町が舞台のこの作品、
全編モノクロでひなびた味があって、
これもまたなかなかよいものです。


モンタナ州に住む頑固な老人ウディ(ブルース・ダーン)は、
100万ドルを進呈するという明らかに宣伝目的のインチキな手紙を信じ、
歩いてでもネブラスカのリンカーンへ行くと言ってききません。
しかしもう既に老いて、一人で歩くのもおぼつかないのです。
やむなく、息子のデイビッドが父を車に乗せて旅をすることに。



これまでウディは、家族思いであったことなどなく、大酒飲みで、
父と息子の関係も疎遠だったのです。
けれども、父がとにかく自分で納得する他ないだろうと
デイビッドは思ったのでしょうね。


さてところでネブラスカ州は父母の故郷であったのです。
せっかくなので故郷の街によって、親族と集まることに。
あまり口数が多くないウッディの兄弟たちも
皆、口が重くて、
全員集まってもじっと皆でテレビを見ているシーンなど、妙に可笑しみがありました。
そしてまた、街では旧友たちと出会ったりもします。
デイビッドは初めてここで父の若いころの話を耳にします。
ただ頑固で気むずかしくて付き合い難いと思っていた父親の人生を
ほんの少し垣間見るわけですが、
そこで彼はようやく父親を一人の人間として理解するのですね。


それにしても、ウディの100万ドルの話を本気にして
意地汚くたかろうとする親族・友人たち。
なんとあさましいこと・・・! 
お金は人格と人間関係を破壊します。
インチキでよかった~!!


ウディがあんなにも100万ドルにこだわったのは、
それがネブラスカだったからなのかもしれません。
もう老い先そう長くないことを自分ではわかっていて、
一度故郷に戻りたかった。
潜在的にそんな心理があったのかも、などと想像します。
そして、ここのお母さんはたくましくて好きです! 
夫を罵ることも多いのですが、
そこはソレで、やはり長年共に生活してきた阿吽の呼吸というものがある。


「少なくとも初めのうちだけでも、愛していたのでしょう?」

とデイビッドは父に聞くのですが、
父は「さあね」と、つれない。
いやいや、若いころのこの二人には、それなりのロマンスもあったはずなんですけどね。
それともやっぱり単なる成り行きなのか・・・?
それにしても、この息子デイビッドはちょっと出来過ぎなくらいにやさしい。
こんな人となら、結婚したほうがいいと思うんですけどねー、
出て行ってしまった、太めの彼女さん。


本作は例によって、父親と息子の確執の物語かといえば
ちょっと違う感じです。
通常は息子が父親の期待にそぐわずに、反発したり萎縮したりというパターンが多いですね。
こういう場合は、父親が本当の息子を知ることで歩み寄っていく。
でも本作は、大酒飲みで心を開こうとしない父親を
息子が理解し、受容していくのです。
遅すぎですが、でも間に合ってよかった・・・。
ピカピカのトラックを運転するお父さん、
カッコ良かったですね!!



「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」
2013年/アメリカ/115分
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキップ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク
鄙びた度★★★★★
満足度★★★★★

シュガーマン 奇跡に愛された男

2014年03月03日 | 映画(さ行)
アンビリバボーな話



* * * * * * * * * *

本作はドキュメンタリーなのですが、
まさに「アンビリバボー」な話で、圧倒されてしまいました。


1970年、アメリカで2枚のアルバムを出しデビューしたものの、
全く売れなかったメキシコ系のシンガーソングライター・ロドリゲス。
彼はそのまま音楽シーンから姿を消してしまいます。
ところが、70年代後半、アパルトヘイト時代の南アフリカ。
ここで、彼のアルバムが大ヒットとなる。
体制への抵抗運動を続けていたリベラル派の若者たちから熱狂的に支持されたのです。
その後も彼の曲は放送禁止などを受けながらも南アフリカの人々に愛され続け、
大人から子供までロドリゲスの名を知らぬものはいない、アイドル的存在となったのです。
ところが、そもそも南アフリカで売りだされたこのアルバムというのが、海賊版だったのですね。
だから、歌っている本人の情報も何もなく、
「ロドリゲスは、ステージで演奏中に拳銃自殺した」などという話が
伝説のように伝わって信じられていた・・・。

 

さて一方、アメリカの人々はもちろん、当の本人までもが、
南アフリカで彼の曲がこんなにヒットしているということを少しも知らなかった。


90年代になって、南アフリカで本気でロドリゲスの消息をあたってみようという人が居て、
それでようやく、ミシガン州デトロイトで本人を探し出します。



本作で驚かされるのは、ロドリゲスが本人の全く知らないところで、スーパースターになっていたということ。
そして、死んでいると思われていたこと。

でも実は生きていた!!

当人は何も知らず、ミュージシャンへの夢破れ、
家の解体や清掃など肉体労働をして、ほそぼそと暮らしていたのです。
いや、そしてまたその先が驚きなのです。
消息がわかった後、
南アフリカへ何度も招かれたロドリゲスのコンサートは、すべてソウルドアウト。
熱狂的に迎えられたロドリゲスは、淡々と曲をこなし自国へ帰っていく。
これまでのアルバムの売上は何も彼の手には渡っていないのは仕方ないとして、
ここではある程度稼げたはず・・・ですよね。
けれど彼はそのお金を家族などに分けてしまって、自らは以前と同じく実に質素な生活。
う~ん、私はここの部分にもかなりやられました。
信じがたい話が世の中にはあるものです。
下手な小説や映画よりもグンと胸に響く。
70年代の曲というので、私の青春時代でもあり、
するりと耳に入ってくるギターの弾き語り。
歌詞は過激ですが、曲調はやさしい。
確かにいい曲です。
なぜにアメリカではやらなかったのか。
当時彼を見出したレコード会社のプロデューサーが
絶対はやると太鼓判を押したというのに。
まあ、世の中というのは皮肉でミラクル。
だから面白い。



ちょっと勘違いしてしまいそうですが、「シュガーマン」は彼の曲の名前で、
“麻薬の売人”の意味です。
あくまでもミュージシャンの名前はロドリゲス。
もしかして、この名前が良くなかった・・・?



彼の娘が語ったエピソードが胸に残りました。
初めて南アフリカに招かれた時。

「飛行機を降りて、重い荷物を引いてとぼとぼ歩いていたら、
立派なリムジンが私達のそばに来て止まった。
私達は、誰かVIPのじゃまになると思って、どけようと思いそのまま通り過ぎた。
でも違った。
それは私達のための車だった。」


シュガーマン 奇跡に愛された男 DVD
ロドリゲス
角川書店


「シュガーマン 奇跡に愛された男」
2012年/スウェーデン・イギリス/85分
監督:マリク・ベンジェルール

ミラクル度★★★★★
満足度★★★★★

「幸福な生活」 百田尚樹

2014年03月02日 | 本(その他)
ラスト一行のミラクル

幸福な生活 (祥伝社文庫)
百田 尚樹
祥伝社


* * * * * * * * * *

『永遠の0』『海賊とよばれた男』
国民的ベストセラー作家が魅せる超技巧!
衝撃のラスト1行!
そのページをめくる勇気はありますか?

宮藤官九郎さん「嫉妬する面白さ――」

単行本未掲載「賭けられた女」を新たに収録


* * * * * * * * * *

百田尚樹さんといえば、「永遠の0」。
何しろ私はまだこれしか読んだことがなかったのですが、
本作を読んで、ちょっと著者の印象が変わりました。
短篇集となっていますがこれがまた、ブラックなユーモアに満ちた面白さ。
つい病みつきになりそうです。
紹介文にもある通り、ラスト一行がなんとも効いているのです。
たいていのストーリーは主人公の心情が淡々と描写されていきます。
どこにでもありそうで、納得しながら読み進みますが、
驚きのラスト一行。
これは実は主人公にとっては悲惨な結末なのですが、
読んでいる私は、悪いとは思いつつ、ついプッと吹き出すように笑ってしまう。
ははあ・・・なるほどね・・・という感じ。
このミラクル、一読の価値ありです。


私が好きだったのは「ママの魅力」。
珍しく語り手は少年で、お母さんのことを描写しています。
お菓子作りが得意でお父さんともとても仲がいい。
けれど少年はお母さんがすごく大きくて太っているのがちょっと不満。
そして、お父さんは逆に痩せているので、「ノミの夫婦」なんていわれている。
ある日、少年が獰猛な土佐犬に噛まれそうになった時・・・。
お母さんの正体がミソなんですけどね、考えもつかなかった。
虚を突かれましたが、これは別に、あってもおかしくないオハナシ。
他の作品と違って、ラスト一行を読んでも
ちょっとほんわか暖かみがあるので、好きです。

文庫の解説は宮藤官九郎氏!

「幸福な生活」百田尚樹 祥伝社文庫
満足度★★★★★

さよなら、アドルフ

2014年03月01日 | 映画(さ行)
少女のアイデンティティの崩壊



* * * * * * * * * *

1945年。
第二次世界大戦直後のドイツです。
14歳の少女ローレの父は、ナチス高官。
裕福な生活を送っていました。
しかし、ナチス軍の戦局は悪化し、ヒットラーは自殺。
ローレの父と母は連合軍に連行されてしまいます。
こうなると世間は旧ナチスには冷たく、
ローレは住む家も追い出されてしまいます。
まだ14歳の少女が、幼い妹や弟4人(うち一人は赤ん坊!)を引き連れ、
遠く離れて暮らしている祖母の所まで旅をする物語です。



たった14才の少女にのしかかる重責。
ろくにお金もなく、あるのは家から持ちだしたわずかばかりの貴金属類。
それも僅かな食料と引き換えにするうちに
あっという間になくなってしまいます。
そんな過酷な旅の中で、
彼女は初めてナチスがユダヤ人にしてきた残虐な行為を知り、衝撃を受けます。
尊敬していた父が、そんなことに加担していたなんて・・・。
そしてこれまでの自身の裕福な生活も
そのようなことの上に成り立っていた・・・。



彼女自身、ユダヤ人は差別すべき劣った民族と思い込んでいたようです。
それはこういう家庭に育ったのだから致し方ないことなのですが。
ところが、皮肉なことに、
彼女の困難な旅を助けてくれたのが、そのユダヤ人の青年トーマス。
連合軍は多分にユダヤ人に同情的なので、
ユダヤ人のパスポートを持ったトーマスの存在は何かと心強かった・・・。
これまで軽蔑していたユダヤ人に助けられ、また彼女の心は揺れる・・・。



しかし、旅の最中はまず生きることが最優先だったのでしょう。
そこではまだ彼女は自分をつなぎとめている。
彼女のアイデンティティの崩壊と価値観の転換は、
旅の後に起こるのですね。
また、観客である私達にも提示される一つの意外な事実に、
私達まで信じるべきものの所在がわからなくなり、
放り出されたような感覚になってしまいます。
ずっしりと、見応えのある作品でした。



それにしても乳飲み子を抱えて、あまりにも困難な旅・・・。
彼女が赤ん坊を手放さなかったのは愛情というよりも
「赤ん坊がいると食べ物をわけてもらえるから」ということのようでした。
実際こんな様子では栄養失調で命をなくしても不思議ではなかった。
私はこの赤ちゃんの存在だけで、絶望的な気持ちになってしまったのですが、
ローレたちは思った以上にしたたかでした。


「さよなら、アドルフ」
2012年/オーストラリア・ドイツ・イギリス/109分
監督:ケイト・ショートランド
原作:レイチェル・シェイファー「暗闇のなかで」
出演:サスキア・ローゼンタール、カイ・マリーナ、ネレ・トゥレープス、ウルシーナ・ラルディ、ハンス・ヨッヘンバーグナー

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆