映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アスファルト

2016年12月16日 | 映画(あ行)
アスファルトの団地に咲く、ささやかな花



* * * * * * * * * *

フランスの寂れた団地に住む人々の群像劇です。
共用のエレベーター更新の費用もケチる、さえない中年男。
母親が留守がちのティーンエイジャー男子。
若い頃はそれなりだったけれど、今は落ちぶれた中年女優。
息子が服役中のアルジェリア系移民の女性。
こんな人達が住む団地に、ある日突然NASAの人工衛星が不時着し、
アメリカ人宇宙飛行士が密かに匿われたりすることになります。



さえない中年男は病院の看護師に恋をし、少年と女優は友情を結ぶ。

言葉の通じないアメリカ人は「お母さん」に癒される。

寂れて灰色で殺風景、アスファルトに覆われた町並み。
だけれどもそんな中でも人々は生活し、
こんな風に人と人との絆でささやかな花が開くこともある・・・と、
そう語りかけているようでした。



この3組のストーリーの登場人物たちの交わりがなかったのはちょっと残念。
何処かで、すれ違うだけでもいいから、そういうシーンがあると良かった。
まあ、そういうシーンは最後の最後にはあるわけですが。


そうそう、3者に共通する「音」はありました。
時折団地内に鳴り響く奇妙な音。
人によっては子供の鳴き声のような、
トラの吠え声のような・・・。
団地内に隠された何かの秘密???
いやいや、このストーリーの最大の奇跡的なできごとは宇宙飛行士が降ってきたことのみですね。
他のできごとは日常の延長でしかありません。
日常の中にもドラマは隠されている。
そういうことです。



ここに登場するシャルリという男の子が、ステキなのですわ・・・。
役柄も良かったのですが、イケメンで。
このジュール・ベンシェトリは、当作品監督の息子で、
かつジャン・ルイ・トランティニャンの息子さんだそうです・・・。
となれば今後も何かの作品でお目にかかれるかな?


「アスファルト」
2015年/フランス/100分
監督:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール、ギュスタブ・ケルバン、バレリア・ブルーニ・テデスキ、タサディット・マンディ、ジュール・ベンシェトリ
人生の喜び度★★★★☆
満足度★★★★☆

君がくれたグッドライフ

2016年12月15日 | 映画(か行)
一番幸せと思えるときに・・・



* * * * * * * * * *

先に見た「92歳のパリジェンヌ」同様、
尊厳死をテーマとした作品です。



年に一度、親しい仲間との自転車旅行を恒例としていたハンネスとキキ夫妻。
今年の行き先はベルギーということにしたのですが、
他の仲間達は「ベルギーなんてチョコくらいしかない」と、不満のようでしたが・・・。
実は、ハンネスはALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されていて、
日に日に筋力が衰えていたのです。
このままではまもなく歩くことができなくなり、寝たきりになって、
管につながれ衰えながら死んでいくことになる・・・。
ハンネスは安楽死が合法とされているベルギーへ行って、
そこで命を閉じることに決めていたのです。
そのことを聞いた友人たちはショックを受け、
この旅行も取りやめになりかけたのですが、
やがて本人の意志を尊重し、皆でベルギーを目指すことになります。



命と向き合う5日間。
空気は重くなりがちですが、そんな中で「課題ゲーム」が、気晴らしになります。
旅行中に実行しなければならない無茶な課題を出し合うのです。
「スカイ・ダイビングをすること」とか「女になる」とか・・・。



それでも次第にゴールが近づくと、また気分は沈んできます。
ハンネスはこの数日の間にも力が衰えていくし、
自分で決めたこととはいえ、最期には本音も漏らします。

「おしっこをチビリそうなくらい怖い・・・」

そんな彼の覚悟を決めさせたは、やはり仲間たちの存在。
良い仲間たちがいて、妻がいて、旅をして、
・・・これまでの人生が豊かであったことが実感されるのです。
確かに、例えば将来あるかもしれない仲間たちの、
金銭やら痴情のもつれによる修羅場(?)も見ないですむし、
地球温暖化やらエイリアンの侵略による地球の滅亡も見なくてすむ。
一番幸せと思えるときに生を終わることができるなら、
それは幸いなのかもしれません。

う~ん、「致死の病」でなくても安楽死はアリなのではないか
などと思ったりして・・・。



君がくれたグッドライフ [DVD]
アリアーネ・シュレーダー
アルバトロス


「君がくれたグッドライフ」
2014年/ドイツ/95分
監督:クリスティアン・チューベルト
出演:フロリアン・ダービト・フィッツ、コリア・コーシッツ、ユリゲン・フォーゲル、ミリアム・シュタイン、フォルカー・ブルッフ

命を考える度★★★★☆
満足度★★★.5


「職業としての小説家」 村上春樹

2016年12月14日 | 本(エッセイ)
村上春樹を知らなきゃ損!

職業としての小説家 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


* * * * * * * * * *

「村上春樹」は小説家としてどう歩んで来たか―
作家デビューから現在までの軌跡、長編小説の書き方や文章を書き続ける姿勢などを、
著者自身が豊富な具体例とエピソードを交えて語り尽くす。
文学賞についてオリジナリティーとは何か、学校について、
海外で翻訳されること、河合隼雄氏との出会い…
読者の心の壁に新しい窓を開け、新鮮な空気を吹き込んできた作家の稀有な一冊。


* * * * * * * * * *

文庫が出ていたので、すぐに買いました。
村上春樹ファン新参者の私にとっては、素晴らしく貴重な本でした。


村上氏は物語を語るということについて、次のように言っています。

「物語を語るというのは、言い換えれば、意識の下部に自ら下っていくことです。
心の闇の底に下降していくことです。
大きな物語を語ろうとすればするほど、
作家はより深いところまで降りていかなくてはなりません。」


ここのところが、村上氏も敬愛する河合隼雄先生の説く「物語」論と重なるところ。
そして、これこそが、世界中で村上春樹が愛されている理由なのだろうと思います。


つまり、村上作品には読んでいても説明の付かない部分が結構ありますよね。
けれど、村上氏が降りていった深い深い井戸の底って、
私たち自身の心の井戸の底とどこかでつながっているのではないでしょうか。
だから、共感というのではないけれども、何かが揺り動かされる感じ。
誰もが感じているのだと思います。
実際村上作品にはよく「井戸」が登場します。
本文中にも、執筆中に自分が
「深い井戸の底に一人で座っているような気持ちになります。」
とあります。
そのような孤独に打ち勝つためにも、強い心と体が必要、
ということで、毎日のランニングも欠かさないという。
私たちが「小説家」と聞いてイメージする姿とはかなり違いますね。


「文学賞について」という、私達には気になる章もあります。
毎年繰り返し10月には、多くのハルキストがヤキモキさせられるわけですが、
果たしてご本人の心境はいかに?
例えば芥川賞。
村上氏は「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞し、デビューしたわけですが、
芥川賞にも候補として上がりながら結局受賞することはありませんでした。
そのことについて、随分取り沙汰されたようで、ご本人はうんざりしているようです。
その後もいつも何度も繰り返される賞関連のインタビューには
こう答えることにしているそうです。

「何よりも大事なのは良き読者です。
どのような文学賞も、勲章も、好意的な書評も、
ぼくの本を身銭を切って買ってくれる読者に比べれば、実質的な意味を持ちません。」


はい、まことに、その通り。
ここは素直にそのまま受け止めることにしましょう。
でもやっぱり、ハルキストとしてはノーベル文学賞を受賞してほしいです。
そのことで村上作品がもっと沢山の人に読まれるようになるのは歓迎だから。
他に「学校について」の章も興味深いですし、
もちろん故河合隼雄先生に触れたところも嬉しい。
村上春樹をより知りたい方には、必読の書です。


私はこの頃つくづく思うのです。
今頃になって村上春樹の凄さを知ったけれども
(「1Q84」を読んだときにはまだよくわかっていなかった)、
でも遅すぎなくてよかった。
村上春樹を知らないで死んだら、人生すごく損してた・・・と。


「職業としての小説家」村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★★★(?)


マダム・フローレンス!夢見るふたり

2016年12月13日 | 映画(ま行)
ホロリと来る理由



* * * * * * * * * *

1944年、ニューヨークのカーネギーホールで、今も語り継がれるオンチのソプラノ歌手、
フローレンス・フォスターのコンサートが開かれました。
本作はその実話を映画化したものです。



フローレンス(メリル・ストリープ)は、
自分の歌唱力に致命的な欠陥があることに気づいていません。
けれども人前で歌うことに喜びを感じています。
夫シンクレア(ヒュー・グラント)は、なんとか妻を喜ばせてあげたいと思い
マスコミを買収し信奉者だけを集めて小規模なコンサートを度々開いていました。
しかしフローレンスの夢は更に広がり、
カーネギーホールで歌いたいと思うようになっていったのです。



通常ここまで来ると、なぜこの夫は妻をこんなにも甘やかすのだろう・・・
と疑問が湧いてきます。
しかもお金に糸目をつけないこのやり方はどうもね・・・とも思えてくる。
しかし、この物語で大切なのはそこのところ。
実はこの夫婦(というよりフローレンスに、というべきか)には大きな秘密があったのです。
それはホロリと来て、十分に納得できてしまう理由なのでした・・・。
馬鹿馬鹿しいくらいにも思えるけれど、これも一つの愛の形なのでしょう。



それにしても、カーネギーホールのコンサートは、実のところ爆笑ものだったかも知れないけれど、
でも、どこか人の胸を打つものがあったのだろうと思います。
招かれた退役軍人の青年たちは、
彼女のド素人同然の歌に故郷のお母さんを思い出したのではないでしょうか。
なんとか心を伝えようと一生懸命になっている人のことを
誰も笑う権利なんかありません。



ピアニスト役の青年が良かったですね。
この役のために、実際にピアノが堪能な俳優さんを充てたそうです。
ちょっと抜け目の無いところもありながら、実直で、
そしてフローレンスのファンでもある、いい感じです。
メリル・ストリープについてはミュージカル作品にも出ていますし、
歌の堪能さについては周知のところなのですが、
あえてオンチに歌う訓練も大変だったようです。
こんな役をこなせるのは、やはり彼女くらいかなあ・・・。



ところで全然話は変わるのですが、
このコンサートの翌日、酷評ののったニューヨーク・タイムズ紙を、
シンクレアが買い占めて捨てるシーンがあります。
その第一面に大きく「JAPAN・・・」とあるのが目に入りました。
カーネギーホールのコンサートが1944年10月25日。
太平洋戦争真っ最中ですね。
気になって調べてみたのですが、これはレイテ沖海戦があったときで、日本軍が大敗。
かの戦艦武蔵が撃沈しています。
日本では、物資も食料も不足して通常の生活もままならなくなってきていた頃。
同じ戦時中でもアメリカは豊かだったのですねえ・・・・。
日本の無謀さが身にしみます・・・。
ふう、余計なところに感慨が湧いてしまった作品でした。
(というか本作、そこまで事実を再現してあるというのが、ある意味すごい!)

「マダム・フローレンス!夢見るふたり」
2016年/イギリス/111分
監督:スティーブン・フリアーズ
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーク、レベッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ

夫婦のあり方度★★★★☆
満足度★★★★☆

「銀のほのおの国」 神沢利子

2016年12月12日 | 本(SF・ファンタジー)
生きていくために食べる

銀のほのおの国 (福音館文庫 物語)
堀内 誠一
福音館書店


* * * * * * * * * *

剥製のトナカイのガラスのひとみに炎がゆれて、たかしとゆうこの冒険がはじまった。
人はなぜ、他の生きものの命を奪わなければ生きられないのだろう。
重たい問いを抱きながらふたりは、
いにしえのトナカイ王国復興をめざし、動物たちの国の壮絶な戦いにたちあう。
日本で生まれた本格ファンタジーの傑作。


* * * * * * * * * *

たかしとゆうこの兄妹は、
家の壁にかけられていたトナカイの剥製に引きずられて、異界へ舞い込みます。
トナカイは二人を置き去りにして風のように去ってしまう。
家へ帰るすべさえない二人は、やむなくあのトナカイの後を追うことにし、
辛く厳しい旅が始まります。


う~ん、これを小学生が読むんですか、と言いたくなるような、
厳しい内容の物語です。
この時点でこの世界は、青イヌ(オオカミ)が支配しており、
他の動物たちは青イヌに襲われることに怯えながら細々と暮らしています。
その昔、トナカイと青イヌが覇権を争い、
トナカイは破れて、北の山で眠りについていたのです。
しかしこの度、蘇ったトナカイのはやてがトナカイたちの眠りを覚まし、
再び、青イヌとトナカイ、そしてそれぞれに加担する動物たちの
壮絶な戦いが幕を開けようとしています。
たかしとゆうこは、その戦いに立ち会うことに・・・。


この兄妹は、ふとしたことで心がすれ違ってしまいます。
ゆうこは弱ったライチョウを見つけ、必死に看病するのですが、
彼女が眠っているうちにそのまま死んでしまいます。
たかしは、これからの厳しい旅のために、この肉を食べなければいけないと判断し、
ゆうこにもそれを黙って食べさせてしまうのです。
しかし真実にきづいてしまったゆうこは言う。

「うそつき、うそつき! 
お兄ちゃんがあの鳥を殺したんなら、青イヌとおんなしだ。
お兄ちゃんはオオカミだ!」

正に、本作のテーマとも言うべきこの言葉。
彼女は本作の最後の方でまた、このように問いかけられます。

「ゆうこよ、青イヌが食う肉とおまえさまが食う肉と、どこがどう違うか、わかるかの。
そいつを家に帰ってからとっくり考えるのじゃな。」

そしてまた、続いて

「だが・・・忘れるかもしれぬ。
そうよ、おまえさまはまもなく忘れてしまうじゃろう。
しかし、わしのこの問は忘れられぬ。・・・」


確かに、「ゆきてかえりし物語」なのです。
遥かな異界を旅して帰った者は、具体的なことは忘れてしまう。
だけれども、魂の底で感じ、刻み込まれたものは一生消えることはない。


最近ファンタジーといえば、夢と魔法の世界・・・と思われがちなのですが、
本当はこんな風に、現実に立ち向かう何らかの力を、無意識の中に得るためのもの・・・。
たかしとゆうこは実際に剣を持って敵と戦いはしません。
(たかしには自己防衛的に青イヌを倒すシーンはありましたが)
二人はヒーローになるためにそこへ行ったのではない。
生きていくために食べること、戦うこと、そういう意味を知るための旅でした。
そこには、残酷な殺戮や裏切りがあります。
けれども、知恵や勇気や自己犠牲という大切なこともまた、示されるのです。
とすればやはり、小学校高学年くらいには是非読んでおくべき本なのかもしれません。
私も、その頃読んでみたかった・・・。
えーと、本作が本にまとめられたのは1972年ということなので・・・、
あ、少なくとも小学校の時に読むことはできなかったわけでした!!

「銀のほのおの国」神沢利子 福音館文庫
満足度★★★★★

ハロルドが笑う その日まで

2016年12月11日 | 映画(は行)
切なくもユーモラス



* * * * * * * * * *

ノルウェーの街で40年以上家具店を営み
クオリティの高い家具にこだわり続けてきたハロルド。
ある日、店の目の前にチェーンIKEAの店舗がオープンし、ハロルドの店は閉店に追い込まれてしまいます。
おまけに認知症の妻もあっけなく亡くなってしまい、
ハロルドはすべてがIKEAのせいのように思われ、怒りをつのらせます。
そこで、IKEA創業者カンプラードへの復讐を決意。
スウェーデンのエルムフルトへ行き、カンプラードを誘拐しようとします。



・・・といえば妙にシリアスな復讐物語のように思えるかもしれませんが、
そうではなく、とてもゆるい、切なくもユーモラスな作品なのです。
途中で、孤独な少女エバも計画に加わったりもしますが、結局は行き当たりばったり。
たまたまカンプラードの方からやって来るという展開には笑ってしまうほかありません。
そしてまた、ハロルドも本気で身代金が欲しいとか、殺してしまおうとか思っているわけでもなく、
あっさりカンプラードを誘拐してしまったことに、逆に戸惑ってもいる。


カンプラード自身も、大衆向けに安価な家具を手軽に買えるようにしたい、
そういう思いで、これまで頑張ってきたのでしょう。
そうして、大きなチェーン店となり莫大な財産を持つようにもなった。
しかし今、孤独で老いた姿を晒しているのです。
そんな彼といるうちに、次第にハロルドも憑き物が落ちたようになっていくのです。



なんとも味がありますねえ・・・。
エバの、老人二人との距離感がいいなあ・・・と思いました。
接近しすぎず、突き放しもせず、甘えるべきところでは甘える。
彼女自身の実は厳しい立場も、ハロルドを冷静にさせた要素の一つなのかもしれません。
でも、彼女はまだ若いから、きっとなんとかなるだろう、
そういう希望をもまた、ハロルドはもらったのでしょうね。
ノルウェーの、言葉少なでおかしみのある切ないストーリー。
好きです。


ハロルドが笑う その日まで [DVD]
ビョルン・スンクェスト,ビヨルン・グラナート,ファンニ・ケッテル,グレテ・セリウス,ヴィダル・マグヌッセン
TCエンタテインメント


「ハロルドが笑う その日まで」
2014年/ノルウェー/88分
監督・脚本:グンナル・ビケネ
出演:ビョルン・スンクェスト、ビョルン・グラナート、ファンニ・ケッテル
切ないおかしみ度★★★★★
満足度★★★★☆

ブルゴーニュで会いましょう

2016年12月10日 | 映画(は行)
雰囲気だけ・・・



* * * * * * * * * *

20歳でブルゴーニュの実家を離れたシャルリは、パリでワイン評論家として活躍しています。
そんな彼の元へ、実家のワイナリーが倒産の危機にあるとの知らせがあり、帰郷。
実は彼は父との折り合いが悪かったのですが、
それでもワイナリーの再建を決意し、事業を引き継ぐことにします。
しかも通常の方法ではなく、古来そのままのワイン製法を試みるということで、
また父とは意見が合いません・・・。


まあ、はじめから結末が見えているようなストーリーなのですが、
それにしても、なんだかストーリー展開のために、無理やり人物が動かされているような感じがして、
どうにも人のナマの情動が伝わってこないのです。



例えば、このお父さんはなんでワイン作りに情熱を失ったのか。
初めから船を作って海辺に暮らすつもりだったようなので、
別にワイナリーは閉じても良かったんじゃん、と思えてしまいます。


また、父と息子のもっと劇的な衝突の場がないと、「乗り越えた」という感じが全然しない。
ちゃぶ台ひっくり返せとはいいませんが、どうにもお互い遠慮しすぎ・・・。



また、隣家ワイナリーの娘は、婚約者がありながら、
なんでそう簡単にシャルリと関係を持ってしまうのだろうか、とか。


そして、一年目からこのワイン製法が成功してしまうというのは、ありなんでしょうかねえ・・・。
なんだかお手軽すぎる気がする。



ということで、納得行かない点ばかりが見えてしまいまして・・・。
「どうです、ロハスな生活。いいでしょう。」
と、言いたいだけのようでした。

「ブルゴーニュで会いましょう」
2015年/フランス/97分
監督:ジェローム・ル・メール
出演:ジェラール・ランバン、ジャリル・レスペール、アリス・タグリオーニ、ローラ・スメット、ラニック・ゴードリー
ブルゴーニュの風景★★★★☆
満足度★★☆☆☆

「迷子の王様 君たちに明日はない5」 垣根涼介

2016年12月09日 | 本(その他)
真介の明日は?

迷子の王様: 君たちに明日はない5 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社


* * * * * * * * * *

「会社を辞めて、これからどうするつもりなんですか?」
リストラ面接官として村上真介が今回対峙するのは―
鼻っ柱の強い美容部員、
台湾に身売りした家電メーカーのエース研究員、
ペースを狂わせる不思議ちゃん書店員。
そして最後にクビを切られるのは、なんと真介自身!?
変わりゆく時代を見据え、働くこと=生きることの意義を探す人々を応援する
人気シリーズ、旅立ちの全四話。


* * * * * * * * * *


大好きな「君たちに明日はない」シリーズの第5弾。
しかし本の帯には「人気シリーズ、ついに完結!」との文字が・・・。
えーっ、もう終わっちゃうの・・・と思いつつ。


最後には真介自身がクビ!という、意外な展開を見せます。
まあ、実際にはクビというよりも、
社長が会社をたたむことにする、ということなのですが・・・。
となると、その後真介はどういう方向へ進むのか、
というところがとても気になるところなのですが、
一応の方向性をもたせながらも、まだ含みがある、というような終わらせ方、
悪くはないですね。
このシリーズの方の初めの方は、真介と恋人の陽子さんのいちゃつくシーンが多かったような気がするのですが、
最近は、まあ、相変わらず仲はいいですが、ラブラブなシーンがなくなっているのがちょっとさみしい。


本巻の中で、私がいいなあ、と思ったのは「さざなみの王国」の、佐久間香織。
彼女は極度の人見知りで、真介との面談に現れたときも緊張しまくり。
ただただ、相手の言葉に頷くばかりで、ほとんど自分からは言葉を発しない。
けれども、何かすごく一生懸命なことは感じられて、憎めない。
こんな彼女は、書店に勤務しているのですが、この仕事が嫌ではない。
いえ、この仕事というよりも「本」が好きなんですね。
あ、だから私は余計に親しみを感じてしまうのかもしれませんが。
彼女は、仕事を「修行」だと考えているのです。
人付き合いが苦手な自分に対しての修行。
人を押しのけたりするのがキライな彼女は、
結局今勤めている書店を退職することになるのですが、
その後選んだ道は、なるほどと納得の行くものでした。


本当に、職業というのは結局その人の人生ですね。
「儲けることができる」ことよりも、「自分が誰かのために何かできる」ことが大事で、
収入は後からついてくる(そう、多くはないでしょうけれど)というような部分もありまして、
いいなあ・・・と思いました。
なんだか、一旦退職したからといって、ボケボケしていては申し訳ないような気がしてきた・・・。

「迷子の王様 君たちに明日はない5」垣根涼介 新潮文庫
満足度★★★★★

ちはやふる 下の句

2016年12月08日 | 映画(た行)
個人戦であってもなお、チームワークが必要



* * * * * * * * * *

お待ちかねの続きです。
上下モノは、続きは楽しみなのですが、
その世界観に新鮮味がなくなってしまって、少し物足りない気がするのですが・・・、
まあ、これは仕方ないことですね。



前作で、「かるたをやめる」と言った新が心配で、千早と太一は福井の新の元へ。
すると新の敬愛するかるた名人の祖父が亡くなっており、
そのため新は、かるたをする意味を見失っているのでした。
千早の言葉くらいでは新を説得できず、虚しく東京へ帰る二人。
さて、いよいよ全国大会を目指すある日、
千早はかるたクイーンと呼ばれる存在を耳にします。
若宮詩暢(松岡茉優)。
孤高の女かるた人。
彼女を破ることができるのは新だけだという・・・。
そこで千早は燃えてしまうのです。
自分がクイーンを倒せば、新も気持ちが変わるかもしれない・・・と。



競技かるた、前作では団体戦のことばかりでしたが、本作では個人戦のことも描かれます。
千早がクイーンに勝とうとすれば個人戦にも出場しなければならないのですが、
クイーンは左利き。
少し勝手が違うので特別な練習をしなければならないのだとか。
だから彼女がそちらに熱中するあまり、団体戦へ向けてのチームワークが崩れてくる・・・
そんな心配も出てくるのです。

だけれども・・・。
そこが青春モノの良いところなんですよねー。
チームの皆は千早の熱い思いを十分に理解しており、後押ししてくれます。
「個人戦であってもなお、チームワークが大切なのだ」
という先生の言葉が、本当に納得できてきました。



百人一首のかるたなど縁がない私ですが、
さすがに「ちはやふる」とくれば「からくれなゐ」というのは覚えてしまいましたね・・・。
「ちはやぶる」と「あらぶる」の違いもね。


ところで皆様、北海道の百人一首かるたをご存知ですか?
なんと、かるたは木の板でできていて、
下の句だけが読まれて、読まれたままに取ればよいのです。
だから、上の句なんか知らない、ということになる。
いかにも、ドサンコ、大雑把な人たちのための豪快なかるたなのです。
所変われば品変わる。
調べてみたら、ルーツは会津藩らしいです。

【Amazon.co.jp限定】ちはやふる -下の句- 豪華版 Blu-ray&DVDセット(特典Blu-ray付3枚組)(<上の句><下の句>豪華版連動購入特典:「オリジナルハンカチ」引換シリアルコード付)
広瀬すず,野村周平,真剣佑,上白石萌音,矢本悠馬
東宝


「ちはやふる 下の句」
2016年/日本/103分
監督・脚本:小泉徳宏
原作:末次由紀
出演:広瀬すず、野村周平、真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、松岡茉優

青春度★★★★★
満足度★★★★☆

ちはやふる 上の句

2016年12月07日 | 映画(た行)
青春ですなあ



* * * * * * * * * *

コミックの映画化、ロマコメというのは、あまり近寄らないジャンルですが、
「競技かるた」をテーマとした本作にはちょっと興味を惹かれていました。



幼なじみの3人、千早・太一、新は、競技かるたに夢中です。
でも新が地方へ転居してからは、互いに疎遠になっていました。
時は流れて、高校生となった千早(広瀬すず)は、
新(真剣佑)に会いたい一身で、かるた部を立ち上げようとします。
密かに千早に思いを寄せる太一(野村周平)も加わることになり、
クラブ発足に必要な残り3名もなんとか集まって、無事クラブ発足。
全国大会まで進めばきっと新に会える!
そう信じて、千早は練習に励みます。



しかしまずこの「上の句」編ではその前段階、東京大会までの話となります。
何といっても広瀬すずさんがキラキラしてて可愛くて、
もう文句なしに応援したくなってしまいます。
この起用だけで、ほとんど映画は成功したも同じではないかと思えるほど。
ちょいと陰りのある新も、気になるところではありますが、
もう一人、片思いに甘んじる太一がありのままの人間っぽくて、
私としては“よしよし”としてあげたくなります。
「うたの神様から見放されている」と自覚する太一は、
そうなってしまった理由もまたよくわかっているのです。
醜い自分。駄目な自分・・・。
「俺なんか青春をかけても新にかないっこない」と彼は言うのですが、
ある人は「かけてから言ってみろ!」と彼の背中を押します。
いいなあ・・・、そういうふうに言ってくれる人がいて、ほんとに良かった!!



かるた部のメンバー構成も絶妙です。
呉服屋の娘で古文大好きの奏(上白石萌音)。
彼女ために競技会では皆、はかま姿にならなければならなかったわけですが、
実のところあれでは動きにくいのではないかなあ・・・と、
老婆心ながら思ってしまいました。
せめて、たすきがけは必要なのでは? 
あの迅速な動きには、着物のたもとがいかにもジャマそうで・・・。
そして以前からかるた競技経験のある「肉まん」くん(矢本悠馬)。
実際に戦力になりそうなのが3人はいないと、やはり厳しいですもんね・・・。
最期の一人は、全く経験のない「机」くん(森永悠希)。
超ガリ勉の秀才。
学校の規則でどこかのクラブに所属しなくてはならないので、仕方なく入部したという・・・。
一番の不安材料ですが、しかし、この彼がどのようにチームに馴染んでいくか
というのがまた見どころになっていくわけで、正に、絶妙の配剤というわけです。
というわけで、たっぷり楽しんだ「上の句」。
続きが楽しみです。



【Amazon.co.jp限定】ちはやふる -上の句- 豪華版 Blu-ray&DVDセット(特典Blu-ray付3枚組)(<上の句><下の句>豪華版連動購入特典:「オリジナルハンカチ」引換シリアルコード付)
広瀬すず,野村周平,真剣佑,上白石萌音,矢本悠馬
東宝


「ちはやふる」上の句
2016年/日本/111分
監督・脚本:小泉徳宏
原作:末次由紀
出演:広瀬すず、野村周平、真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希

青春度★★★★★
満足度★★★★☆

ダゲレオタイプの女

2016年12月06日 | 映画(た行)
フランスを舞台に日本的センスで



* * * * * * * * * *

黒沢清監督がオール外人キャスト、全編フランス語で挑んだ初の海外作品。
ダゲレオタイプというのは170年ほど前の世界最古の写真撮影方法です。
それなので、私は本作はその時代のストーリーかと思っていたのですが、
そうではなく、現代の物語でした。



ジャン(タハール・ラヒム)という青年が
写真家ステファン(オリビエ・グルメ)の弟子として働き始めることになります。
ステファンは今はもう失われたダゲレオタイプの技術を復活させ、
芸術作品として完成させようと目指しているのです。
なんと等身大の写真を撮る巨大な写真機で、
娘のマリー(コンスタンス・ルソー)をモデルとして、大きな銀板にその像を焼き付けます。
写真を撮り終えるまでに1時間~2時間。
その間身動きしないように、拘束器具を使うのですが、
とはいえ、いかにも大変ですよねえ・・・。

ステファンは以前妻をモデルとしていたのですが、妻は首を吊って自殺しています。
ジャンは次第にマリーに心惹かれ、屋敷の外へ連れ出そうとしますが・・・。



ミステリアスなホラー作品なんですが、
古めかしい写真機と何やら不気味な気配さえ漂う拘束具、陰気な屋敷、
しっかり舞台は整っています。
その、写すのに長大な時間を要する写真機は、
「写すと魂を吸い取られる」みたいな迷信めいた噂があって、
明治初期の人たちは写真に写りたがらなかったというような話を聞いたことがあります。
本作、まさしくこのダゲレオタイプの写真機で、
ステファンの妻と娘は少しずつ魂が抜け出ていくようです。
(実は実際的な理由があったことも、あとでわかります。)
そうして抜け出た魂が、本人の体が「生きること」を止めてもなお、
あたりをさまよい歩くのでしょう・・・。



マリーが登場するはじめのうちからすでに、生きているのやらいないのやら、
まるですけて見えそうな存在感のなさ・・・、これが凄い!
本作では生も死も、境がなくあいまいなのです。
フランスを舞台としながら、さすが日本人監督作品、どこか日本的な感じがします。
日本的といえばもう一つ。
このストーリーは芥川の「地獄変」に着想があるのかもしれません。
絵師が己の芸術の完成のため、
我が娘が牛車の中で燃え上がるところを異様な高揚のうちに描きとったという・・・。
その絵師とステファンが重なります。



黒沢清監督が日本人的センスを持ちつつもあえてフランスを舞台にした
成功作といえると思います。

「ダゲレオタイプの女」
2016年/フランス・ベルギー・日本/131分
監督・脚本:黒沢清
出演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリビエ・グルメ、マチュー・アマルリック、マリック・ジディ

ミステリアス度★★★★☆
満足度★★★★☆

「物語を生きる 今は昔、昔は今」 河合隼雄

2016年12月05日 | 本(解説)
散る花のはかなさと美

物語を生きる――今は昔、昔は今〈〈物語と日本人の心〉コレクションII〉 (岩波現代文庫)
河合 俊雄
岩波書店


* * * * * * * * * *

心理療法とは、来談者が自分にふさわしい物語をつくりあげるのを援助する仕事だ、と河合隼雄はいう。
日本古典の物語には、現代人が自分の人生の物語をつくるうえで参考になる知恵がたくさん詰まっている。
うつろう美、殺人なき争い、継子の幸福。夢の重要性…。
『竹取物語』『宇津保物語』『落窪物語』『浜松中納言物語』『平中物語』など、
九世紀から十一世紀までの日本の王朝物語に現われる様々な物語パターンが、
心理療法家独特の目を通して分析される。


* * * * * * * * * *

前回の「源氏物語」でさえもまともに読んでいないのに、
本巻は「竹取物語」「宇津保物語」「落窪物語」・・・?
非常に無謀な気がするのですが、とりあえず読んでみました。


竹取物語は、およそのストーリーは知っているつもりでも、
まともに読んだことはないですねえ・・・。
ただ、河合隼雄先生が、まずこれを取り上げたというのには大きな意味があります。
紫式部は竹取物語を「物語のいできはじめの祖」と呼んだそうですが、
ここで語られるテーマ「絶世の美女が、男性と結ばれることなく立ち去っていく」
ということが、その後の王朝物語や日本の文学全体に渡っても通底しているというのです。
日本人が感じる、散る花のはかなさと美・・・
それを一番初めに物語として表したものがこの「竹取物語」ということなんですね。


また、日本の物語には「殺人」が起こりません。
どうしてもここでは争いが起こるだろうというような場面でも、
直接的な争いをなるだけ避けているように見受けられるといいます。
勝つ努力をするよりも、負けたときに世間に笑われないように出家の準備を整えるというように、
これも、亡びの美なのでしょう。


また、「落窪物語」は、娘が継母に虐められるという部分がある話なのですが、
これについて、先生は興味深い話を展開しています。
娘は自立しようとするときに、母親が自分の自由を束縛するものとして感じることがある。
母親のすること全てに拒否感を感じたりするし、
実際母性はこのような二面性を持っている。
そう考えると物語の中の「継母」と言うのは、実際の継母をさしているのではなくて、
母性の否定的側面、
あるいは自立しようとする娘から見た母親像をわかりやすくするための方策として
示されているのではないか、というのです。
あの、「白雪姫」も、最初は実母の話だったものをグリム兄弟が後に「継母」と書きかえたのだとか。
素晴らしく示唆に富んだ話です・・・。
なかなか興味が尽きません。

「物語を生きる 今は昔、昔は今」<物語と人の心>コレクションⅡ 河合隼雄 岩波現代文庫

図書館蔵書にて

満足度★★★★☆

ブログ記事の在庫がだぶついてきたので、
しばらく毎日更新しまーす!!

エンド・オブ・キングダム

2016年12月04日 | 映画(あ行)
シークレットサービスと言うよりは・・・



* * * * * * * * * *

「エンド・オブ・ホワイトハウス」の続編ということで、今度はロンドンが舞台です。
ホワイトハウスの事件から、2年後。
イギリス首相が不可解な死を遂げ、
ロンドンで行われる葬儀に各国の首脳が出席することになりました。
米大統領ベンジャミン・アッシャー(アーロン・エッカート)に、
専属のシークレットサービスを務めるマイク・バニング(ジェラルド・バトラー)が同行します。
史上まれな厳戒態勢の中、それでもやはりテロは起こってしまいます。
警官の中にもテロ組織のものが多く入り込んでしまっていたのです。
集まり始めた各国首脳が次々に標的になり、命を落とします。
日本の首相もあっけなく爆破された橋から車ごと落ちて亡くなりました・・・(T_T)
しかし、そんな中しぶとく逃げ延びるのが米大統領とマイク。
最終的には二人のみで徒歩での逃亡を余儀なくされます。
まあ、ここから先は言わずともお定まりなので・・・。



それにしても、墜落したヘリコプターに乗りながら命が助かったというのは、
いくらなんでも出来過ぎのように思いましたが・・・。
ここまで来るとこれはもうテロではなくて戦争で、正に、ロンドンの陥落。
マイクはシークレットサービスというよりもすでに殺人鬼。



やれやれ・・・、私は、コミック原作のヒーロー物だけでなく、
ハリウッドのいわゆるアクション大作についても、次第にのめり込めなくなってきました・・・。
本作も映画館で見なくて正解。
けれどまあ、家での暇つぶしにはなります・・・。



「エンド・オブ・キングダム」

2016年/イギリス・アメリカ・ブルガリア/99分
監督:ババク・ナジャフィ
出演:ジェラルド・バトラー、アーロン・エッカート、モーガン・フリーマン、アロン・アブトゥブール、アンジェラ・バセット

殺戮度★★★★☆
満足度★★.5

聖の青春

2016年12月03日 | 映画(さ行)
短くも輝いた人生



* * * * * * * * * *

難病と闘いながら将棋に人生をかけ、
29歳で亡くなった村山聖(さとし)その人の実話です。



幼い頃から腎ネフローゼで入退院を繰り返していた聖(松山ケンイチ)は、
父から勧められた将棋に心を奪われていきます。
命を削りながら将棋の道を極め、東の羽生、西の村山と並び称されるまでになった。
しかし、なおも聖は打倒羽生を目指して、上京することにします。
でもその時すでに、聖はなおも厳しい病に体を犯されつつあった・・・。



体重を20キロ増量したという、
松山ケンイチさんの膨らんだ体に、役者魂を見ますね。
しかしなんですね、村山氏は少女漫画に入れ込み、ゴミか何かで覆われ尽くした部屋、
将棋がなければ、どう見てもただのオタクなのですが、不思議な人物です。
それでも、あんなに長時間の対局で、
座っているだけでもかなりしんどそうなのにあの集中力はすごいです。
正に命を削っている感じ。
決して人柄が良いわけでもなく、言いたい放題、お酒にもだらしない・・・
そんな人なのに、何故か周りの人たちがお世話したくなっちゃうというか、
しないでいられなくなってしまうというのも不思議です。



さて一方、羽生(東出昌大)は、スマートでいかにもインテリ風。
健康で、美人の妻もいて・・・。
だからこそ、こいつにだけは負けたくないという思いもあったのだろうなあ・・・
たった一度、二人で飲むシーンがありまして、
趣味も共通するところはなく話は全く合わない。
だけれども、羽生は言います。

「一体自分たちはどこまで行くのだろう。
あちらへ行ったきり、戻ってこられなくなるような気がすることがある・・・」

将棋への思いだけは全く同じ。
ライバル二人の心の重なりが強く美しく響きます。



29歳といえば、本来なら将棋の世界ではまだまだ活躍できたはず。
さぞかし無念であったことでしょう。
けれども、その短い輝きだからこそ、私達の胸を打つのですねえ・・・

「聖の青春」
2016年日本/124分
監督:森義隆
原作:大崎善生
出演:松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、安田顕、柄本時生、筒井道隆、リリー・フランキー
命の燃焼度★★★★★
満足度★★★★☆

「大きな鳥にさらわれないよう」 川上弘美

2016年12月02日 | 本(その他)
亡びゆく世界で、それでも人々は生きる

大きな鳥にさらわれないよう
川上 弘美
講談社


* * * * * * * * * *

何人もの子供を育てる女たち。
回転木馬のそばでは係員が静かに佇む。
少女たちは日が暮れるまで緑の庭で戯れ、
数字を名にもつ者たちがみずうみのほとりで暮らす。
遙か遠い未来、人々は小さな集団に分かれ、密やかに暮らしていた。
生きながらえるために、ある祈りを胸に秘め―。
滅びゆく世界の、かすかな光を求めて
―傑作長篇小説


* * * * * * * * * *

遥かに遠い未来。
人々は衰退し、滅亡の道を歩んでいます。
それは映画などにあるように、大きな災害やらエイリアンの襲撃やらで一気に、
というわけではなく、徐々に人口が減って行き、文明社会が保てない、
正に滅びゆく世界。
だけれども、ある人が考えたわけです。
なんとか、人類滅亡への歩みを食い止められないかと。
そこで考えられたプランは、そこからまた気の遠くなる年月をかけて、
受け継がれ、実行されていく。
ほとんどその意味を知る者もないままに・・・。


ということで、本作にはこの遠い未来に、
定められた道筋にしたがって細々と生きる人々のことを切り取って描写されています。
SF? 
ファンタジー?
いえ、この際ジャンルはどうでもいいですね。
ここで規定される舞台背景も驚くべきものですが、
それ以上に、登場する人々の心情どれもが、しんみりと心に染み込んでいくものばかり。


人々は、大抵小さな集団で生活しています。
そんなところから来る印象なのかもしれませんが、なんだか妙に懐かしい感じがするのです。
滅びの美・・・というのは日本的思考でしょうか。
多くの人々は運命に抗わず、けれども、できる範囲では生きていこうとする。
また、この世界では「子どもを生む」ことは重要なので、
男と女の関係は様々なバリエーションを持って現れます。
けれど、形はどうあれ、「愛」のあり様はやはり不変なのだろうなあ・・・


様々な疑問を抱えながら読み進んでいくと、少しずつ現れてくる全貌。
かなりしっかりした構想を持っていないと書けない本ですよね。
なにやら呆然とさせられました。

「大きな鳥にさらわれないよう」川上弘美 講談社
図書館蔵書にて
満足度★★★★☆