明日から嵐になるんだそうだ。二つの低気圧が抱き合って台風並みになるって。一昨日は天気予報を簡単に裏切ってどしゃ降りの雨、干してあるイネもさぞかしずぶぬれになったことだろう。一日くらい晴れたからって乾きはしないよな、掛け替えは延期か?と、いつもの”明日があるさ”でぐうたらに流れようとしたところで、強風豪雨情報、こりゃいかんわ、掛け替えやっちまわないと。
天日干しの米は美味い、そりゃそうだ、手間ひま掛かってるもの。実る側からコンバインで刈り取り・脱穀、ライスセンターに運んで乾燥・貯蔵、その日の中にえいやっと出荷準備を整えちまう機械乾燥とは大違いさ、稲刈り後から、一手間、二手間、三手間も掛けて、お日さんの恵みもたっぷり吸い込んで、茎や葉に蓄えられた養分もすべて吸い上げて、育ち育って米になるのが天日干し米だ。美味くて当然、栄養あって当たり前だ。
で、その一手間、いや二手間目かな、刈り取り直後の杭掛け作業も考えると、一回目の掛け替え作業に急遽かかることにした。黒米とコシヒカリとヒトメボレ、3枚の田、2反5畝分の掛け替えだ。杭の数は80本強、果たして午後半日で終わらせることができるか?
刈り取り後の杭掛けは、まだ茎葉もだっぷり水分も養分も蓄えているのでしこたま重い。田んぼ全面に散らばった稲束を集めるのも、それを杭に掛けるのも力仕事だ。それに比べれば、二回目は、かなり乾燥も進み束の重さはおそらく2割方減っているから、その点は楽だ。ほんじゃ、気楽な作業か?って言うと、これはまた繊細なバランス感覚と忍耐力が要求される、なかなか骨の折れる仕事なのだ。乾いた稲束の表面は抵抗を失ってともかく滑り安い。たった一本の横木の上にそっと掛けて、その上に細心の注意を払いつつ乗せていくのだが、これがやたら滑る。横木を2本にして十字にすれば解決だろうが、農家はそんな無駄な手間を掛けたりしない。あくまで己の手技で困難を乗り越える。
その奥義に達しない者は、 そっと!そっと!あっ、落ちた!やり直し。ああ、またダメだ、もういい加減にしろ!などと悪態をつきながらの作業となる。やっとのことで初期の難関を突破すれば、今度は表裏ひっくり返して重ねるという難題が待ちかまえている。わざわざひっくり返すのは、十分に乾燥させるための知恵だ。1週間日にさらした稲束は、重ねた癖がついてくの字になり、裏返しにするとすこぶる座りが悪い。ここでも、やさしくそっと置いては手を合わせ、落ちるなよ、そのまんまそのまんま!と祈りつつ身体を横に伸ばして次ぎ束を手に取る。まったく、力は使わぬが、気を遣う作業なのだ。
この作業を一本につき、48回、それを80本分、繰り返すわけだ。これはだれがどう見ても、忍耐力との勝負だってわかるだろう。最後の方に行くと、注意力も散漫になり、何度掛けてもずるずるとずり落ちて、性悪イネめ!などと悪罵の限りを尽くすことにもなる。さらに、もう裏返さなくたっていいや、ともかく掛け替えちまえ、ってなるとヤバイ!のだが、だいたいそうなる直前か直後に作業が完了することになる。
夕方、せわしなく行き来する雲に追われながら、ようやく80本強、の掛け替えを終えることができた。さあ、雨でも嵐でも来やがれ!ってもんだ。