シニア4期生公演『シェアハウス ブルース』、3回目の本読みに入った。最初はさらっと流し、2回目はみっちりと、ねっとりと、直しを入れながら読んで、ようやく最後の本読みだ。2回目に役柄やら場面設定やら情感の入れ方やら、うんざりするくらいしつこくやったから、最初の棒読みからは格段の進歩、6人ともそれらしくなってきたし、声も見違えるように出るようになった。ラスト、年老いたワルたちが、生命保険を目当てに死を志願して争うシーンなど、なかなかの迫力に仕上がってきている。
3回目はここまでに獲得してきたものをさらにレベルアップするとともに、スムーズに筋を追っていけるようにすることが目標だ。これが済めば、本読みラストとして通して読んで録音、いよいよせりふの暗記、そして立ち稽古となる。
時折チェックは入るものの、まっ、ちょろちょろ小川程度には流れて、淀むことはあるまいって思っていたら、なんのなんの、アクセント・イントネーションで立ち往生!前回、何十回と言い直しても、音の高低を台本に書き込んでも、どうしても治らず、次回回しにして、とりあえず通過したところだ。
問題のせりふは「化粧には、自分のティッシュ使ってください」。どこだかわかる?「使ってください」、部分なんだ。これは平板に読んでどこも高くなったり低くなったりはしない。ところが、このせりふの持ち主は、「つかって」、の「か」の音がどうしても!高く上がってしまうんだ。これはいかにも不自然だ。目をつぶれるレベルを超えている。前回に引き続き何度も何度も繰り返し、何度も何度も、治らぬままの発音が続いた。
どうしたもんか?知らんぷりして聞き流す、笑って誤魔化す、ことも考えた。しかし、こうまで調子外れだと、舞台全体への不信感も兆してきそうだ。始まって5分くらいの場面なので、できれば、ああ、シニアじゃね、っと冷笑とともに、しらーっとした空気が流れるのを食い止めたい。生徒たちは、お互いに教え合い、訂正し合って、なんとか正しいアクセントをものにさせようと頑張っている。が、改善の徴候は見られない。うーん、どうしたもんか?
そうか、こうなったら非常手段だ!アクセントの間違いもギャグにしてしまおう。体つきや顔立ち、身ごなしを笑いの槍玉にあげることがあるんだから、どうしても治らない重病のアクセント患者も笑ってしまえ。笑われる当人は辛いかもしれないが、欠点を隠さず表に押し出すことで、一発逆転と行こうじゃないか。
考えた策略はこうだ。下っ端ヤクザのおかしなアクセント「使ってください」を話しかけられた詐欺師が「使ってください」と正しく言い直す。これを2回繰り返すが、結局治らずそのまま通過するってシナリオの書き換えだ。アクセント直しの稽古場風景を本番の舞台に持ち出しちまおうって魂胆だ。そう、開き直りだよ。これで、見ているお客さんも、ああ、きっとものすごく苦労したんだって、笑いながらも許す気分になるんじゃないか。普通は絶対認められない邪道だけど、シニアの初舞台なら、許されると見込んだ。
さて、本番でどんな裁定が下されるのか、それはやってみなけりゃわからない。ともかく、シニアが舞台を仕切り通すにゃ、あの手この手に奥の手、秘策、隠し球から必殺技まで動員して乗り切るしかないんだよ。