ステージおきたま

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付箋貼りに貼った!『歴史修正主義』著:武井彩佳(中公新書)

2022-02-06 11:51:07 | 本と雑誌

 なんせトランプが未だに大統領選に不正があった、結果を認めない、ってほざき続けて、それをかなり多くのアメリカ国民が支持してる!?って時代だからねぇ、世界中で事実なんて知るもんかい、俺様の言ったことが真実だって言い張るフェイク社会が広がっている。これヤバイだろ。ヤバヤバだぜ!せめて、あったこと自体、事実だけでも認めろよ、そこから議論しようじゃねえか、なんてまともな意見が通用しないんだから。

 今一躍問題になってる佐渡の歴史遺産、ユネスコ申請。安倍、高市から強烈なプッシュでごり押しすることになった。「歴史戦」に打ち勝て、って政府、外務省の尻を鞭を打ち続けてるんだってよ。おいおい、歴史は戦いいじゃないぜ、事実の積み上げだ。勝った負けだじゃねえだろ。朝鮮人労働者が酷使されてたってことは、すでに日本の歴史学者もはっきりさせてる事実だ。県民史にだって述べられてるって言うじゃないか。それを今さら、そんなもんなかった、それが日本国の認識だ、って言い張るのは、ものの見事に歴史修正主義ってもんだぜ。

 なんだって、否定したがるのかねぇ、人間だって、国家だって、過去を探れば失敗や過ちなんてあって当たり前だろ。完全無謬、真っさらな純白、なんてあるわけないだろ。それが美しい国だなんて、ディズニーアニメなんかよりよっぽど他愛無い、って言うより荒唐無稽の作り話だぜ。何も今犯罪実行中って責められてるわけじゃないんだ、素直に踏み違えた過去を認めて先々の指針とすりゃいいのさ。

 どうも、この歴史を改ざんするって流れ、日本だけの話しじゃないみたいだ。なんと、ホロコーストでさえなかったって主張が横行しているんだ。直接かかわりの少ない日本じゃ、えっ?ウソに決まってんじゃん!って、そんな主張が信じられる素地は小さいが、ユダヤ人虐殺に、直接、間接に関わった国や地域にあっては、この歴史修正が結構共感を得ていたりしているんだ。

 過去の一大汚点を消し去ってしまいたいって思う人間はそこら中にいるだろうからね。600万人のユダヤ人虐殺なんて、ドイツにしても、ナチスやヒトラーは責めても、ドイツ国軍は立派な行い、つまり通常の戦闘行為を続けただけって神話が戦後かなり長い間、通用していたくらいだ。実際は、親衛隊やゲシュタポ以外にも虐殺に手を貸していたし、軍人や兵士、市民たちの多くが反ユダヤ主義に熱狂してあの大戦を戦った。当時のニュース映像とかでさえはっきりしてる。

 いや、ホロコーストに手を貸したのはドイツ人だけじゃない。占領され強制されたとは言え、ポーランドはじめ周辺国にはナチスに迎合して虐殺に関わった人たちがいた。レジスタンスで有名なフランスだって、親ナチスのヴィシー政権下、ユダヤ人の駆り立てを担った人たちもいる。

 人間、過去の失態は覆い隠したい、その欲求は強固なものだ。ホロコースト以外でも、ソ連にとってのスターリン粛清、これも犠牲者は数百万人、やポーランド軍人数万人の処刑、オスマントルコによるアルメニア人の迫害、国を挙げての闘いが地球上のあちこちで行われた近現代、虐殺や迫害は上げればきりがない。そして、その多くが歴史事実の否定の圧力に晒されている。自国、自国民の非道な行為は認めない、自分たちは正義の闘いをしたまでだ、こう信じ続けることが国家としてのアイデンティティーを保つことにつながるんだ。

 そんな歴史修正の衝動、あるいは執拗な攻撃に対して、熾烈にあるいは地道に対峙し続けてきた人たちもいた。誠実な歴史学者であったり、ホロコーストの生存者や被害者側の追及組織であったり。それらアンチの抵抗の過程を詳しく追ってたのがこの『歴史修正主義』著:武田彩佳、刊:中公新書だ。

 もちろん戦う相手のホロコースト否定論についても時代の流れと参照しつつ詳しく述べられている。著者の筆力も優れていて、逐一、論破されて行った経過は手に汗握るミステリー小説のような面白さ?で伝わってくる。

 映画『否定と肯定』(Amazonプライムで視聴可)に描かれた、歴史修正主義ライター・アーヴィングとホロコースト研究学者リップシュタットとの裁判経過など、まさしく法廷ミステリーの趣だ。

 これら貴重な戦いによって、「歴史否定の禁止」がヨーロッパの国々で法制化されてきている。その実態についても触れられている。法律で罰することの問題点についても。ホロコーストの否定論は、公けの場で駆逐されたように見えても、そんなことは無視して差別やヘイトの発言、行動を繰り返す人たち、団体は跡を絶たない。ネオナチやファシスト、差別主義者の勢力は徐々に力を増しつつあるようにも思える。

 これらの流れとどう向き合うのか、この本に正解はない。が、戦うにあたって知っておかねばならぬことは数多く示唆されている。ウソでも繰り返せば本当になるとか、彼らは論証するつもりはないとか、一部の資料で全体を覆す手法とか。彼らは学術論争を装うが、事実を元に論証を積み上げて行く気持ちはない。だから、まともな学者は関わりたくない。で、野放しになる。

 彼ら、歴史修正主義者が狙うのは、学説を揺さぶり、事実を曖昧の渦に巻き込み、かもしれない、有り得る話だ、と自分たちの真実を民衆の心の中に広げて行くことだ。日本人は常に公明正大に生き延びてきた、虐殺も虐待も迫害もなかった、そんな考えが通用するようになればよい。

 それはつまり、「歴史戦」そのものなんだ。まずは、安倍や高市が歴史修正主義者だと認識するところから始めよう。

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