高校演劇地区大会、見た。って言っても置賜農業高校だけ。午後からは別の予定が入っていて、残念だったけどパス。少ない観客にちょっとショックを受けつつ、元顧問Nの作『Stay』を見る。自身の勉強のため、一時現場を離れているN、部員たちの声に押されて新作執筆を引き受けたのだろう。多分、彼女のことだから、部活にも顔を出し、指導もしていたに違いない。その責任感、とても敵わんな。
舞台は農業高校のコモンホール、って言うより、もろ置農!生徒にとっても、昼食を取ったり、友達とおしゃべりに興じたり、迎え待ちのひと時を過ごしたり、何かと思いの濃い空間だ。演劇部員にとっては、さらに、ダンス披露の場としても部室とともに掛け替えのない場所だ。卒業式終了後先輩と一緒に踊り、新入生の歓迎に踊り、新学期着任の先生たちを前に踊った。
そのコモンホールでのダンスで幕開けだ。シルエットの中でのダンス、人数が多い分、なかなかの迫力だ。でも、終わってすぐ、そのまま明かりが点き、日常になってしまうのは、ちょっとつや消しかな。それと、選曲が後展開する劇の雰囲気と合っていないてのもちょっと気になった。なんか、おどろおどろしいイントロ!
内容は農業クラブ役員と生徒会役員の対立と和解のお話し。普通高校出身の人たちにはわからないことだが、農業高校には全国すべての農業高校に農業クラブてものがある。教科とは別に、農業への自主的活動を後押しする。生徒会が学園祭やボランティアを企画運営するのに対して、プロジェクト発表大会や農業鑑定、意見発表など農業にかかわる様々な大会の運営に携わる。どちらにも10名前後の役員がいて、彼らの献身的活動で超忙しい農業高校の行事が回っている。
厳密なものではないが、農業クラブは将来就農する者や、農業=愛!って生徒が役員になり、農業?まっ、授業だけでいんじゃね?それより、学校生活さ、という生徒たちが生徒会役員に入る。そんな事情もあって、両者は敵対とは言わないが、競争意識満々、一所懸命、仕事に熱中していいる。どちらも自身の貴重な余暇時間を差し出して活動する意欲的な生徒たちだ。学校としても、自主的に活動し、一般生徒?たちをリードしてくれる集団が二つもあるってことに教育的価値を見出している。だから、大変でも二つの組織を別立てすることにこだわってきた。
だが、さすがに生徒数の減少には逆らえず、生徒会と農業クラブを一緒にするという方策を取らざるを得ない学校が出てきている。そんな境遇に突き当たった生徒たちの不安、苛立ち、疑心暗鬼が中心の作品だ。たしかに、農業高校生としちゃ、身近な話題、避けて通れぬ問題で、ここに目を付け、積極果敢に舞台に押し上げたその意欲は大いに評価する。
でもな、大変なんだよ、農業クラブを語るってことは!ここま800文字近く使ってるだろ、それでも、多分ぼんやりとしか伝わりゃしない。プロジェクト発表大会や農業鑑定、意見発表、なんてまったく説明していないし。これら農業高校の独自性を、説明としてでなく、生徒たちの生きた会話として成立させるにはかなりの技量が必要になるんだよ。なんたって、農業高校生以外にはとんと馴染みのない、つまり切実性のない話題なんだから。しかも、そこから高校生全般に通じる課題を抽出するとなると、これまたかなりの厄介ごとなんだ。この作品では、その普遍化って部分をデマツィートとその炎上、デマを流した生徒の孤立と孤独に頼っていた。どうだろう?成功と言えるんだろうか?唐突感と言い、題材のひねりの足りなさと言い、僕は素直には満足できなかったな。
生徒に寄り添う。しかも今いる生徒たちの場にこだわる姿勢、高校演劇部の顧問してはとても真っ当なあり方だ。そこで必死に書き上げようとあがいている顧問Nの頑張り、ちなみに彼女は菜の花座で役者として照明プランナーとして同時進行の超多忙を抱えている、は、ほとん称賛に値する。
振り返って、僕が高校生に書いた作品と言ったら、限界集落に一人固執する婆さんだったり、民族浄化に飲み込まれる人形たちだったり、臓器移植用に飼育されるクローン人間だったり、廃船で大海を漂流する津波被害の霊たちだったり、駅に降り立つ戦没兵士や足抜け女郎だったり、疫病患者を社会から締め出す壁の話しだったり、およそ、高校生の生活とは縁遠い世界ばかり書いて来た。勝手なもんだ。時々の部員たち、よくぞ、こんな顧問の気まぐれに付き合ってくれたもんだ、と今になって赤面しつつ悔いに捕らわれる。
王道を行く、顧問N、王道ゆえの難しさは山ほどある。その苦難を超えて、多くの人々にも直に伝わる作品を作り上げて欲しいもんだ。そう、生徒たちと一緒にね。そんな努力をコツコツと積み上げている演劇部顧問が、全国にはたくさんいる。そんな顧問たちの地道な意欲と生徒たちの熱意に支えられて高校演劇は引き継がれている。その懸けているものは、甲子園を目指す野球部員たちにも遜色はないんだけどね。
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