自然治癒力セラピー協会=Spontaneous Healing Therapy Japan

自然治癒力を発揮させるために、心と体の関係を考えます。

母と娘 ~ 墓参りの編

2013年05月11日 | 介護と自然治癒力

認知症と向き合いながら・・・平成25年5月11日

 彼岸花

9月9日重陽の節句   9月14日(金)

この日、わたしは母を誘って、父の墓参りに出かけた。 

少なくても ひと月に一度は母と訪れている父の墓だが、今日の母は 

”特別、心にしみる。 何故だか悲しい” といって、墓前で涙をためていた。

 

次の話は レンガ色の父の墓石を見ながら、何回聞いただろう? 

”この墓石を買うときはね、~俺が変人だから色も一般的でないほうがいい~”

ってお父さんが言っていてね。”

 

その墓は、父の生前、後に残された者たち、娘達に 経済的負担がないよう

前もって買い求めた墓だったが、墓石の色がインドからの岩らしくて、

お酒に酔ったように、赤みを帯びている色で、一風、変わっていた。

 

その思い出深い墓を目の前にして、”だんだん、お父さんの顔が

思い出せなくなってくる・・・” 

と 再び涙ぐむ母。

まだまだ、残暑が厳しく、昼前とはいえ、かなり気温は上がって来ている。

それから、近場のファミレスで、昼食。母は空腹なのだろう。

”いろいろ、食べたいから”といって、見るもの見るもの、あれこれと、

注文しようとする。 

ランチメニューのセットがきて、その他に頼んだ品も目の前に運ばれて、

満足気な母。 

美味しくいただけるのは、幸せだね、母さん。

 

          

食べている途中で、急に 想いだしたように、母はハンドバッグを

引っ掻き回し始めた。

”一万円札をいれてきたのに、どこにしまったのかしら? 

ナイナイ, おかしいな、どこかしら?” 

と 楽しみにしていたケーキにさえ手をつけず、探し始めること5分。 

 

その時には、何を探していたのか 忘れているらしい。

硬貨の入っているビニール袋を見つけたようだ。

”あったあった。ここに、500円玉ばかり 入れてあるビニール袋があったわ。

とりあえず、ここから、食べた分、お金出してね” 

 

と 律儀な母の性格から、割り勘で行きましょうというばかりに、

渡された 小さな袋には、10円玉が一杯詰まっていた。 

”この袋、10円玉ばかりはいっているけど・・・”と 戸惑い気味に言う私。

母は、聞いているのか、知らんぷりで、私の言葉に、とりあわない。

思い込み とはこういうことを言うのだろう。 

’500円玉の入っている袋’だと言い切る本人に、私は、袋を返す。

すると、袋に詰まっている10円玉を取り出して、不思議そうにつぶやいた。

 

”おかしいわね。確かに500円玉だったのに。どこで入れ替わったのだろう? ” 

などと 独り言を繰り返している。

 

幸い、料理に満足して、ご機嫌もよかったので、それ以上の追及はなかった。 

ほっとした。

今まで 母が電話口で突然、大声をあげたり、思い立ったように、

”娘に~を取られた!”と、

興奮して、最終的に、警察に110番して、盗難届を出す発端も 

きっかけは、母の、こうした思い込み

しかも、お金に関してのトラブルが多かった。

 

ケーキを食べながら、母の愚痴が続く。

”Oさん主宰のデーケア―はもう、辞めるから。

Sさん主宰のほうに移りたい” という話題にうつる。

Oさんと Sさん主宰の 二つの施設に週3回、お世話になっている。

OさんからSさんの方へ、移りたいという話は 数か月前から、

何度か話題に出ている。

そして、人気の高い、Sさん主催の施設は”待ち”状態であることは、

母からその話題が出るたびに説明している。 

今日は再びその話の繰り返しだ。 同様の説明。納得する母。

しかし、5分もしないうちに、再び、その話題に 後戻りだ。

 

どうやら、何か 他に、原因があるようだ。

新しい思い込みが生まれて、心の中で”移りたい”という願望が

今まで以上に、大きくなっているようだ。

母の話を聞くことにする。

”主催者のOさんと行きつけの散髪屋さんのKさんと、同郷でね。

仲良しだということがわかったのよ。 

きっと、亡くなった父さんの話(悪口)を床屋のKさんは、

Oさんに話しているに違いない。”

 

要するに、施設のOさんは、床屋のKさんから わが家の悪口をいろいろ 

聞かされているはずだから、

もう、自分はOさんの施設に行きたくない ということだった。

 

二つの真実とはかけ離れた思い込み;

1~床屋のKさんと 施設のOさんは仲良しだ

2~床屋のKさんは 自分の主人の悪口をOさんに話している

 

しかも、それを信じる母の心持は、大きく大きく膨張していた。

二つの思い込みを、思い込みだと説明するのは難しい。説明しても、

わかってもらえるとは思えない。

思い込みが詰まった 母のの頭のなかには、他者の考えをなかなか

受け付ける余地はない。 

 

母は、一応、こちらの話を”ふんふん” と聞く。その”ふんふん

返事が曲者(くせもの)だ。

こちらは、母が、話しを理解して聞いているものと思い、

渾身(こんしん)の体(てい)で 

状況を説明する。

すると、2分もしないうちに、今聞いたことを忘れて、同じ質問を

繰り返して聞いてくる。

 

母のこうした、思い込み話しに 長年、お付き合いしていると、

こちらも、自分の心の平和を保つこと、それから母を満足させるという 

二つの両立しそうもない、心のバランスの取り方がわかってきた。

 

煩わしくないよう、聞き流したり、 トイレに立って間をとったり、

出された料理の話に話題を変えたりして、その場の雰囲気を変えることが 

自然にできるようになった。

ただし、こちらが、少しでも、母の思い込みに対し、真剣に対処しようとすると、

えらく骨がおれる結果になる。

 

さて、理髪店の話が出たところで、母の髪の伸び具合が気になったので、

ランチ食後、美容院へ行った。 

母は若い美容師と楽しげに会話している、

時々鏡を見る表情が若返ってみえる。 

神妙に、気持ち良さそうに、鏡の前で、ナルシストの世界に

一瞬入り込んだかのよう・・・・

 

待ち席にすわって、鏡の前のお客さん達を観察していた。

一様に、女性たちは、鏡の前にすわると、このナルシストの世界に入っていくようだ。

美しくなる前兆を期待して、どこかうっとりと、リラックスしている。

さらに、鏡に その表情が映らないよう、顔の筋肉のどこかを 緊張させている。 

母も同様だった。

年を経ても 女性は女性であることを、その母の表情から見て取った。 

 

私がまだ、高校生のころ、母は、毎朝、大島彫りの鏡台の前で薄化粧をしていた。

立膝をついて、眉墨(まゆずみ)を持って、鏡に映る自分に気合いで

化粧を施そうとしている、母の息をつめた表情を想いだす。

息を押し殺し、資生堂と書かれたまゆずみを肌にあて、数秒間で、さっと、ひく。 

その時に、覗き見る母の 緊張感のある横顔。

女性らしい意識を垣間見ながら、おぼろげに 母がいつもの母とはちがう人に見えた、

 

数十年たった今、再び、その表情が 今日の鏡の前の母の顔つきと交叉した。

 

その後、夕飯用の買い物をして、母は帰宅した。

”楽しかった。幸せだ。” と 送る車の中で感想をもらして。

認知症といえども、現役時代と同様 身近な社会で働く人と話したり、

女心を満足させたり、買い物をしたり、おしゃれ心を刺激したり、健常者と同じ、

当たり前の時間が必要だ。 

お金を二重に支払いそうになったり、10円玉を5百円玉だと主張しても、いいのだ。

大声で気に入らないことを罵倒しはじめても、許していただきたい。

周囲の方の笑顔と、やさしい口調に 母の頭の切り替えができて、表情が落ち着く。 

皆様の優しいヴァイブレーションに、母は同調して、柔らかい心持ちになれるようだ。

だから、私も、最近はゆっくりと、落ち着いた低音を意識して母と話す。

興奮していても、冷めていく様子がわかる。

周囲のかたの優しさ、それが、母にとっての、一番の薬であり、

癒しであることは間違いない。

 

 

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1 コメント

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Unknown (姫バラ)
2012-09-14 23:19:02
現在、私は介護ヘルパーとしてデイサービスで働いています。(まだヘルパーの仕事を始めてから日が浅いのですが・・・) 
会話が通じない認知症の方もいらっしゃいます。その人の人格を尊重して、どのように話をしていいのか勉強中です。人其々生きてきた背景が違うのでどのように対応していったらよいのか・・・・・

誰も認知症になりたくてなったわけではありません。
意に反して認知症になってしまったのです。

介護関係の本に書いてあったのですが
認知症にならない人は、次のことを経験し実践してきています。

・人生の挑戦にも失望にも立ち向かうこと
・希望をもって毎日の問題に取り組むこと
・自分自身や他人の間違いや失敗を許すこと
・目標を達成できない時は妥協すること
・失敗やミスをおかしたり、夢がかなえられなくても自尊心をもち続けること
・社会的そして身体的に衰えても生き続けること
・身体の衰え、愛する者の死、そして避けることのできない自分の死をも受け入れること
・生きることへの情熱をもち続けること
・過去をくよくよ思いわずらわず、思い出として楽しむこと
・新しい人間関係をつくること
・愛する人たちと仲よく暮らし、死に備えること

私も、これらの事を実践し、死を迎える最後まで言葉を介してのコミュニケーション能力を保ち、時間や場所の認識ができ、正しい判断ができるようにしたいと思っています。

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