今から30数年前、私が小学生だった頃、切手集めが流行ったことがある。
何故流行り出したのか。
そしてその流行は全国的なものだったのか。
今となればどれもこれも覚えていないのだが、確かにご近所の「ホビーショップ」にはプラモデルや憧れのラジコンに混じって、切手や古銭、外国コインのコレクションが並べられていたことは、今も記憶に残っている。
かくいう私も切手集めに奔走し、切手アルバムなんかも所持していて、
「それ、消印押してるからアカンやんけ」
などと友達のコレクションをくさしたりしていたのだ。
何も知らないくせに。
ヘレン・モーガン著「世界最高額の切手“ブルーモーリシャス”を探せ」はそんな切手収集の歴史をたどり、「ブルーモーリシャス」という世界でたった26枚しか現存していない希少切手をめぐるコレクター達の人間模様を描いている。
少しく退屈さの漂う一冊であった。
この「退屈さ」。
もしかすると切手収集という趣味は退屈さの中に存在するのかも知れないと読んでいるうちに思うようになってきた。
考えてみれば切手のような有価証券を使わずに「コレクション」しておける人はお金持ちのように生活にゆとりがある人か、子供のように生活に困らず、ただお勉強か遊んでいれば済む存在でないとできないのかもわかない。
そう思えてきたのだ。
高くて、貴重すぎて、展示することも使うこともできないものを所持しているという、陰気な趣味。
コレクションを眺めては”にんまり”しているというのは、あまりにも趣味が悪いような気がするのだが、切手収集はそういう“にんまり“的な欲望を満たす格好の題材なのだろう。
本書で紹介されているひとつのエピソードがなんとなく、そんな雰囲気を伝えていて面白い。
以下そのエピソードの概略。
19世紀の終わりごろ、ブルーモーリシャスが高額で落札されたというニュースを新聞で読んだ英国王室の侍従はジョージ5世(エリザベス女王の祖父)に話しかけた。
「王子、世の中かわったもんですね。一枚の切手に何千ポンドも出す”バカ”がいるとは。」
するとジョージ5世は言った。
「......そのバカは私だ.....。」
~「世界最高額の切手”ブルーモーリシャス”を探せ!」ヘレン・モーガン著 藤井留美訳 光文社刊~
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