水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

42

2013年11月09日 | 演奏会・映画など

  先日、「佐藤治彦のモーニングリポート」(NACK5)で「ホームレス入店お断り問題」が話題になっていた。
 八王子のあるマクドナルド店にそういう主旨の張り紙があって、「差別ではないのか」と問題になり、表現が変えられたという。
 実際の貼り紙は「当店の利用にそぐわない(不衛生、ホームレス等)と判断した方の利用をお断りさせて頂きます」との文言だったそうだが、これは差別なのだろうか。
 長時間聴いたわけではないが、番組にはやはり二方面の意見があったようだ。「ホームレス差別はいけない」派も、「飲食店に不衛生な人が来たら断るのはあたりまえ」派も。ホームレスを生み出す社会に問題があるという変化球もあった。
 不衛生でなくても迷惑なお客さんはいると自分は思うけど、じゃどこで線引きするのか言われたらと難しい。
 ホームレスでも清潔ならいいのかとか、きれいなお姉さんでも香水のきついのは迷惑だろうとか、各論を言い出すときりがない。そうなると、問題の本質はホームレスかどうかではなくなる。
 現実問題として、マックでグラコロバーガーをおいしく食べていたときに、ふと気が付いたら隣の席にいかにもホームレス風の方が座り、においも気になってきたという状況におかれたなら自分はどうするか、どう思うかという、当事者として考えてみないといけないだろう。
 おれなら、帰る。それって差別ですか? ちがうんじゃないかな。
 で、こうやって正直に書くのも大丈夫かなという思いはあるけど、多くの人がたぶんこういう問題は慎重に語るであろうこと自体も問題で、慎重すぎるゆえにまた問題の本質から離れていく場合があるのがやっかいだ。
 放送での佐藤さんの発言がそうなっていると思えた。
 佐藤さんは、繰り返し「ホームレスの方」はと言う。
 だいたいね、「浮浪者」という言い方が差別的だという判断で、カタカナで表現されるようになったのだ。
 使われていくうちに「ホームレス」自体になんらかの差別性をみんなが感じ始めるようになってしまった。
 だから自分は差別心はありませんとアピールしながら語るには「ホームレスの方」と言わざるを得ない。
 自分もインタビューされたら、立場上、仕事上、かなり慎重に同じような物言いになってしまうだろう。
 そしてみんなが慎重になりすぎたり、もしくは批判を恐れて語ること自体をやめてしまうと、差別は潜在化し、しかし決してなくならないという状況になる。
 今の日本は、この問題にかぎらず、そういう状況ではないだろうか。

 先日見た「42」という映画は、大リーグのチームで初めてプレーした黒人選手を描いていた。
 わずか数十年前のアメリカの話だけど、人種差別が公然と存在し、野球場では黒人と白人では観客の入り口も観戦する場所も分けられている。
 だから当然、ジャッキー・ロビンソンがフィールド内に現れたとき、大ブーイングが起こる。
 それ以前に、チームの選手達が「あいつとはやれない」という嘆願書を出す。
 それを断固としてはねのけ、世間の荒波からできるかぎりの防波堤になったのが、オーナーのリッキー(ハリソン・フォード)だった。 
 リッキーのもとにも、「あいつを使ったら殺す」という脅迫状が山のように届く。
 このオーナーの存在がなかったら、メジャーリーグの様子はずいぶん、ひょっとしたら今でもちがっていたかもしれない。
 そして、ジャッキーには実力があった。
 ヤジにもビーンボールにも、本来味方であるはずのチームメイトからの嫌がらせにも耐える不屈の闘志があった。
 ジャッキーのふるまいに、チームメイトも変わっていく。
 何より、道なき道を強い意志で歩み続けるジャッキーの姿に心動かされたのだろう。

 しかし、相手チームの監督が発する差別的なヤジは、日本人の自分が聞いてても、それが映画上の役だとわかっててもムカついた。
 ジャッキーはよく耐えた。おれには無理だ。
 そんな彼だったからこそ、人々の偏見を少しずつかえていき、球史に名を残す存在となれたのだ。
 今も、年に一度、彼の功績を称え、全メジャーリーガーが背番号「42」をつけて試合をするという話は、知らなかったし、知ってから泣けた。

 単純といえば単純なんだけど、差別している人ははっきりわかる。
 差別されている人もはっきりしている。
 それはよくないという人と、それでかまわんという人がはっきりわかれて対峙しているのだ。
 だから差別している側に「おまえはよくない」と言うことができる。
 乗り越えるべき困難が顕在化している。
 「まあ、そのへんは大人の感覚で」とか「よけいなことは言わない方がいい」とか「いや、差別だなんて、そんな気はさらさらないですよ」と言い合ってる我が国とは、風土がちがうと思った。

コメント
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