通常の雨とは異質の、死者が出るほどの災害(土砂災害、河川氾濫)になる大雨は、固有の天気図パターンを示している(予報可能で実際気象庁は注意喚起していた)。
それは、普通の温帯低気圧の通過時ではなく、また熱帯低気圧(台風を含む)の上陸時でもない。
それらより雨量がケタ違いに多いのだ。
1個の台風を凌ぐ雨量になるのは、接近してそのまま去って行く台風(短時間の大雨)と異なり、積乱雲による強い雨域が停滞するためである。
そもそも雨域が停滞するのは、雨をもたらす気圧配置が固定状態になるためで、その原因となるのは、移動性の低気圧ではなく、停滞前線である。
日本は、1年に2回、停滞前線に停滞される時期がある。
梅雨(6-7月)と秋雨前線(9月)の時。
前線といえば、温暖前線と寒冷前線が有名だが、これら2つは移動性の温帯低気圧に付属するもの。
一方、停滞前線は、地球規模の南北気団の境目で、低気圧に付属するのではなく、むしろ低気圧を生むもの(停滞前線上に小さな低気圧がいくつも発生する)。
ただし、停滞前線だけなら、雨の時間は長いものの、水蒸気エネルギー(凝結によって熱エネルギーが発生しそれが運動エネルギーになって上昇気流をもたらす)が小さいため、雨量は多くならない(しとしと雨)。
つまり、降水を長時間化する停滞前線の他に、降水の量を供給する何かが加わる必要がある。
それが(温帯・熱帯)低気圧と太平洋高気圧とのペアだ。
まず停滞前線(梅雨前線または秋雨前線)が日本の上に横たわり、
同時に、東側に太平洋高気圧が横たわって、西側に台風などの低気圧がある状態。
東の高気圧は、高気圧性循環(時計回り)で、南東風を停滞前線に向って吹きつける。
西の低気圧は、低気圧性循環(反時計回り)で、南西風を同じ停滞前線に吹きつける。
すなわち、暖かく湿った南方の空気が、停滞前線の南で東西から合流して、 停滞前線に向って大規模に流入し続けるのだ(これを縁辺流という)。
太平洋高気圧も停滞性なので、流入は持続するが、圧(気圧差)が弱いので風量は弱い。
一方低気圧は圧が大きいので風量が強いが(台風ならなおさら)、移動あるいは衰弱するので、持続性がない。
つまり、東西の両方が合わさって初めて、充分な暖湿な(水蒸気エネルギーに満ちた)縁辺流を持続的に停滞前線に供給できるのだ。
この気圧配置が成立するのは、停滞前線の他に太平洋高気圧が充分強い時に限られる。
ということは梅雨末期の7月前半と秋雨前線初期の9月前半あたりになる。
その間の太平洋高気圧が一番強い盛夏は、台風が来ても停滞前線がない。
6月と9月後半は、停滞前線があっても太平洋高気圧が弱い。
ということは、大雨災害に気を付けなくてはならない時期は限定されている。
台風以上に怖いこの”魔のトライアングル※”、皆が認識しやすくするための、適した名称はないものか。
※ただし今回の大雨は、西の低気圧=台風が日本海に北上しながら南西の暖湿流を呼び込み、台風が消えた後も、停滞前線南の小さな低圧部(低気圧にまで成長しない)に向って南西の暖湿流の流入が続いた。
すなわち大雨災害時には西の低気圧は潜在化されていた点が典型とは異なる。