また、新型コロナの話題に戻る。
「日本の感染者数が少ないのは、検査数が少ないからだ」と、内外から突つかれている。
確かにそれは事実で、あの数字(感染率:1053/18963×100=5.55%、3/22現在の数値、以下同)は”国民の感染率”の参考にはならない。
正確な感染率を知りたいので、もっと大規模な検査を、という気持ちはわかるが(実態調査なら抗体検査で充分という)、
感染対策としては、どれほど意味があるのか疑問だ(無症状感染者が市中に大勢いるという前提で対策をとるべき)。
そんな折り、 WHOの事務局長が「検査、検査、検査!」と叫んだが、幸い彼に対する信頼性がダダ下りなので、日本があわてて検査を強化する方向転換をしている様子はない。
検査をどんどんやれば、それだけ陽性の感染者が判明するのだから、価値があるのではないか、と単純に結論するのは待ってほしい。
文春オンラインに医師の監修による「なぜワイドショーは解説しないのか? 「PCR検査をどんどん増やせ」という主張が軽率すぎる理由」という記事(→リンク)が21日に掲載された。
これこそ公衆衛生の立場での統計的(客観的)視点によるもので、一読の価値がある。
言い換えれば、テレビに専門家として登場する医療関係者(必ずしも医師ではない)がこの視点に立たないことにやきもきしている医師たちも多いはず(素人コメンテーターが「どんどんやれ」と言うのは仕方ないか…)。
読者には上のリンク先の記事を読んでもらえればいいが、あえて記事の主張を私が自分なりにかみ砕いて説明したい。
まず、知ってほしいのは、検査をした場合、数が出てくるのは「陽性の感染者」だけではない、ということ。
学校数学で習った「確率」に、「場合の数」というものがあったことを思い出してほしい。
ここでは、検査結果の”場合”(陽性、陰性)と実際の感染の”場合”(感染、非感染)を掛け合わせた4通りの場合、すなわちa(陽性・感染)、b(陽性・非感染)、c(陰性・感染)、d(陰性・非感染)が出現することを念頭においてほしい。
この4つの「場合の数」を算出するシミュレーションをしてみよう。
まず、感染確率が0.1%(1000人に1人。日本人1億人のうち、感染者が10万人)、
PCR検査は、感度が(良くて)70%、
非感染者を正しく陰性と判定できる確率(これは推定するしかない)「特異度」を99%として(以上の値は元記事に従う)、
今、どんどん検査して100万人に達した場合(元記事では1000万人を例にしているが、多すぎる気がしたので、この値にした)、
感染者数は1000人(=100万×感染率0.001)いるはずで、
そのうち、検査で真の陽性者(a)となるのは700人となる(=感染者数×感度0.7)。
700名もの陽性感染者がわかったのだから、やってよかった、と結論づけるのはまだ早い。
同時に、残りの3つの「場合の数」が出てくる。
まずは非感染者999000名(=100万-1000)の内、正しく陰性と判断されて帰される人(d)が989010名(=999000×特異度0.99)。
この人たちはいくら多くても問題ない。
次いで、非感染者のうち、なぜか帰れずに残らされた9990人(=999000-989010)は、特異度99%の取りこぼしの1%の人たちで、陽性と判断された不運な人(b:疑陽性)。
この約1万人は、有無を言わさず病院に隔離されて無駄な医療資源を費やされるか(医療崩壊への道)、良くても2週間の自宅待機を命じられて、仕事や学校の社会生活を犠牲にさせられる。
いずれにせよ社会的資源の損失が発生する人数。
そして残り3つめの”場合”である、感染しているのに陰性と判断されるcの疑陰性者は300人(=1000-700)。
この300人は、感染しているのに陰性と判断されるのだから、頼んでも治療してもらえず、あるいは本人も”お墨付きをもらえた”と安心しきって市中に出回る。
つまり、検査によって、700人の真の陽性者を得る以外に、9990人の疑陽性者(社会的資源の損失)と300人の疑陰性者(治療拒否か新たな感染元)が出ることを頭に入れてほしい。
幅広く検査をするとは、それだけ疑陽性や疑陰性も出すことになるのだ。
もちろん、検査自体が無駄だといっているのではない。
検査する価値がぐっとあがるのは、実際に感染が拡がったクラスター(ジムなど)の周辺への実施。
そこでは感染確率がぐっと上がるので(たとえば30%)、疑陽性者はぐっと減り、疑陰性者は率は変らないが、検査数が大幅に減るので(たとえば200人)、出現数はそれに応じて減る。
すなわち結果の誤判断による損害のリスクが大幅に減る。
あるいは日本政府が実施している、重症者に重点をおく検査も、感染確率がさらにぐっと上がるので、疑陽性や疑陰性の出現はさらに減る。
このやり方だと、生命の危険のある感染者を取り逃すミスを抑えられる。
重症者に重みのかかった検査数なので、感染者の致死率こそ高くなる(3.23%)が、死者数自体は少なく抑えられる(35人)。
まさにそれが日本の感染者統計値の特徴として表現されている。
だから感染率が高そうな対象集団にある程度絞った検査こそが、損失が抑えられて効率的だということ。
検査は、特定の関心に限定された”単視点”ではなく、すべての「場合の数」と社会的影響を視野に入れた”多視点”で最適な判断をした方がいい(ただしそれ以外の余計な忖度は不要)。
興味がある人は、Excelで表を作って、感染確率や検査数をいろいろいじってシミュレートしてみよう。