人類はなぜ右利きが多いのか。
発掘された石器などはすでに右手用なので、手が自由に使える状態になってから、すなわち直立してから後に右利きになったらしい。
ただ、なぜ右利きが主となったのかは不明だという※。
※:加藤俊徳『すごい左利き』ダイヤモンド社(この本は10分で読み終えた程度の内容だが、この記事のアイデアを思いつかせてくれた。ただし内容的に参考にしてはいない)。
そこで私なりに考えてみた。
私は世間の数多の説とは異なり、使う手ではなく、直立した身体そのものに原因を見出す。
そもそも、人体は基本的には左右均等・対称だ。
まず消化器官は、胃・腸を中心に口から肛門まで正中線に沿ってある。
膀胱や子宮も正中線。
それから二つある肺や腎臓、卵巣・精巣も正中線を軸に左右対称に位置する。
もちろん、目・耳、そして脳(左右脳)も正中線を軸に左右対称にある。
ところが、直立した場合、1つしかない内臓で正中線に配置できないものは非対称的な位置になった(といっても四足歩行の場合、それらの非対称性は、重量バランス的にあまり問題にならない)。
まず心臓は中心よりやや左側に位置している(完全に左側にあるのではない)。
本来は正中線上にあるべきだが、同じ場所にある胸骨が心臓の拍動の邪魔になる(それに食道とも位置が重なる)。
その脇の肋骨なら骨が動くし、しかも隙間があるので拍動の邪魔にならない。
そこでやや左にずれた(右にずれてもよかったし、ごくたまに右側に心臓がある人も支障はない)。
そしてそれを受けてかは知らないが、内臓で一番重い肝臓が右側に配置された(大きいので脾臓や膵臓のように胃の後ろとか胃腸の間には入れなかった)。
これが問題だ。
一番重い臓器なので、身体のバランスに影響する。
すなわち、右半身が重くなり、左半身が軽くなる。
となると、むしろ左半身の方が使いやすくなり、人類はむしろ左利きになっておかしくなかった。
ところが、身軽さにまかせて左利きになると、左右のアンバランスが増幅されて、
たとえば左足が右足よりアンバランスに優位になると、歩行が右回転気味になって、直進すら難しくなる。
骨格・筋肉はもともとは左右均等についているのだから、これでは資源の無駄になる。
そこで、重い側の右をあえて優位に使う事で、左右の運動的アンバランス化を抑えることができる。
つまり、人類の直立直後においては、左利きは自然な状態だったのだが、身体行動的には右利きの方がバランスがとれるので、長い目で右利きの人類が優位になった。
というのが私の仮説。
利き手は遺伝するため、世代を重ねるにつれて右利きが多くなった。
さらに、右利きがデフォとなると、大脳皮質も右利きに対応する左半球が優位になる。
その優位性によって、その後に人類が獲得した言語(さらには文字)は、すでに優位脳であった左脳に中枢が備わった。
それによって右利きの優位性はさらに強化されて、現代に至っている。
同時に骨格・筋肉が直立二足歩行に適応してきたため、アンバランスは事実上問題なくなった。
ただ本来的には左利きがありうるので、先祖返りの左利きも一定割合出現する。
その後、人類の文明は右利き優位でできあがったため、今では生活動作が右利き前提で、かえって左をアンバランスに使わなくなり(左脳偏重)、逆に少数派の左利きの方が右手を使うことを強要されるため、両脳のバランスを回復できるようになった。
私のような生まれ持っての左利きにとってはもちろん左半身の方が身軽なのだが、右利きの人にとっても身体の重心的には、左半身(特に足)の方が身軽なはずである。
人は本来は直立した状態では左利きであっておかしくなかったのだが、左右のバランスを確保するために、直立二足歩行の段階で右利きに傾いた、というのが私の仮説である。
直立直後は、足のバランスが重要で、手が自由に使えるようになるのはその後のこと。
以上、確たる証拠はなく、バランスが重要という価値観が論拠になっている。
あえてこのような仮説を提出するのは、既存の発想とは別の発想の選択肢を提示するため。