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アリス 中井拓志
「本の雑誌」の300号記念号に創刊号から300号までの書評(の断片)が掲載されており、そこで紹介されている面白そうな本をいくつか読んでみる。本書もそうして見つけた本だ。言い換えると「今では名作と言われているがこれまでに読み逃した本」というコンセプトになると思う。本書は、角川文庫では「ホラー小説」に分類されているが、内容はSF小説に近い。但し、ホラー小説に分類したくなる気持ちも良く判る。ある研究所で突然50名以上の研究者が極度の精神障害にような症状で死亡するという事件が起きる。そしてその7年後に再び同じような事件が起きる。一部の研究者はその原因を既に突き止めているのだが、あまりにも信じがたい理由であるため、世の中に発表することができない。本書の大半は、その「信じがたい理由」の説明なのだが、丁寧な描写を読んでいるうちに「本当にあるかも」と思わされてしまう。信じられない理由を信じさせるその文章力には脱帽だ。本書の主人公はアリスという少女だが、主人公の言葉は一言も書かれていないし、その胸の内すら全く描写されていない。それは話の設定上当然なのだが、そういう意味で稀有な小説かもしれない。本書のアイデアの根源となっているのはかの「サヴァン能力」だが、究極の「サヴァン能力」は世界に何をもたらすのか、1つのことを突き詰めていくと面白い小説が出来上がるということが良くわかる。最後の終わり方は、続編を期待させる。(「アリス」中井拓志、角川文庫)
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