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悪の教典(上・下) 貴志祐介

本書のように分厚くて重い上下巻の本は、読むタイミングが難しい。上下巻を両方持って歩くのは大変なので避けたいが、移動中や出張中に上巻を読み終わる可能性を考えると、両方持っていたい。そのため、どうしても移動や出張のない週末にならないと読めないということになる。そうしたタイミングを計っていて、今週になってようやく読むことができた。読んでいると、まず最初にかなりの数の人物が登場。それなりの長さの長編小説なので、そのあたりはしょうがないと思いながら、登場人物を何となく良い人間と悪い人間に分類しながら読み進めていくと、途中ですこし違和感を覚える。そこでようやく、様々な登場人物の視点で書かれた地の文章には、登場人物それぞれの主観が入っていることに気づく。それに気づいた時の恐ろしさは格別だ。最後のストーリー展開のどんでん返しの仕掛けはすぐに判ってしまうが、もう1つの犯罪の証拠の方は完全に意表をつかれた。下巻後半の分刻みのサスペンスの映画をみているようなリアリティが著者の真骨頂なのだろう。なお、読んでいる途中で、京都大学のインターネットを使ったカンニング事件が報道された。この手口はこの本にでてくる事件とよく似ている。実際の犯罪はこの小説をヒントにしたものではないかもしれないが、こうしたリアリティがまた怖い。(「悪の教典(上・下)」 貴志祐介、文藝春秋社)

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