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ツアー1989 中島京子

とても不思議な本だ。謎があって、それが一応解決しているようなのだが、なにも解決していないようにも思える。少し読みだしてから、題名の1989を思い出し、そもそも1989年というのはどんな年だったかを自問してみる。まず平成が始まった年だというのはすぐに判るが、その後がよく思い出せない。バブルの真っ最中ということは判るが、それ以上はなかなか具体的なイメージが思い浮かばない。読み終わってから解説をみると、リクルート事件のあった年、ソニーがコロンビアを買収した年とある。いずれもバブル期の象徴的な出来事だ。それ以外にも、宮崎勤事件のあった年、手塚治虫、美空ひばり、松田優作が亡くなった年だそうだ。言われてみればそうなのかもしれないが、記憶とは案外いい加減なものだと思い知らされる。本書のテーマは「あいまいな記憶」だ。読んでいて最後までつきまとう「騙されているような」感覚こそこの「あいまいな記憶」によるものだと気づく。読む本に翻弄されてしまったような気分が、不思議な感覚の正体なのだろう。(「ツアー1989」 中島京子、集英社文庫)

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