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生態系は誰のため? 花里孝幸

題名にインパクトがないので、ごくありふれた環境に関する解説本だと思って読んだら、単なる解説書とは異なる予想以上に面白い本だった。著者は湖沼の動物プランクトンの生態研究が専門ということで、食物連鎖の底辺とも言うべきプランクトンに向けるまなざしがとても温かく、それが普通の環境の解説本とは一線を隔する面白さの要因になっているようだ。湖いっぱいに繁殖するプランクトンと人間の体積の比率と、地球と湖の体積の比率を比較して、「人間という存在だけが特別、生態系に大きなダメージを与えている」という考え方そのものが人間のおごりだというくだりなど、なるほどと感心してしまった。人間という生物が過去の化石燃料である石油を発見してから、世界が変わってしまったという話も面白い。また「ヘドロの中できれいな花を咲かせるハス」という中国古来から日本にいたるまでの考え方について、「ヘドロのなかにもかかわらず」ではなく「ヘドロのなかだからこそ」なのだという話も、いかに人間が自己中心的かということを考えさせられる。「魚の住めるきれいな川に」「川にアユを呼び戻そう」といった環境スローガンの間違い、子供への環境教育への疑問、それらは皆、「可愛い動物」「目立つ動物」だけにしか関心を示さない人間のエゴに由来するという。なるほど小さくて地味ともいえるプランクトンの研究家ならではの視点だ。随所随所でハッとさせられる本だが、もう少しインパクトのある題名にすると良いのにもったいないと思う。(「生態系は誰のため?」 花里孝幸、ちくまプリマー新書)

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