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武士道シックスティーン 誉田哲也

この1週間は震災の影響で読書どころではなかったが、計画停電でいつ電気が消えるか判らない状況のなか、読書を再開した。少し元気になるような本が読めると有り難い。3、4年前に「一瞬の風になれ」「風が強く吹いている」といったスポーツ小説の名作が立て続けに出版され、ブームのようになったことがあった。その後の「サクリファイス」などの作品も含めて何冊か読んだが、いずれも大変面白かった。本書もそういう流れのなかで出た本だということは知っていたが、エンターテインメント色の強そうな題名なので何となく敬遠していたのだが、少し元気になれる本を読みたいという気分に合いそうなので読んでみた。題名の印象通り、主人公の個性を強調したユーモアのある文章と内容だが、剣道を知らなくてもその奥深さが伝わる描写はとても面白い。また、対照的な2人の視点からの描写が交互に現れ、物語が立体的に描かれているのがうまいと思う。最後に主人公2人が再会するエンディングもしゃれている。すでに続編の2冊も入手済み。すぐにも読みたい感じだ。(「武士道シックスティーン」 誉田哲也、文春文庫)

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われわれは何故死ぬのか 柳澤洋子

一般向けに書かれた生物学に関する解説書なのだが、激しく心を揺さぶられる本だ。書評でその衝撃的な書き出しについて言及されていたので心構えは出来ていたつもりだったが、実際に最初の3ページを読んでみて、とにかく単なる生物学の解説書ではないことが伝わってきた。書かれている内容は、どうして生物というのは「死」というメカニズムを会得したのか、すなわちなぜ生物は「死ぬ」のかということを、進化に関する知見や発生学などから解き明かすというものだ。様々な生物の多様な「死」のあり方が紹介され、そこに通低している生物学的な意味合いの考察などは本当に驚くべきものだ。例えば、人間の胎児において指が形成される時、指と指の間の細胞が「自爆」して指が形作られるという。その他にも、細胞単位での「自死」という現象は生物界のいたるところにあるという。著者のあとがきに、「このテーマを書くにあたって、哲学的色彩をどの程度織り込むか悩んだ」とあるが、この本のすごいところは、哲学的な色彩を極力排して生命科学的記述に徹したところにあると思う。(「われわれは何故死ぬのか」 柳澤洋子、ちくま文庫)

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