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開かせていただき光栄です 皆川博子

多分19世紀だと思うが、解剖学の知識や物的証拠といったものが犯罪捜査の道具となっていった黎明期の頃のロンドンを舞台にしたミステリー。まだまだ犯罪捜査にあたる人や組織への信頼が確立していない時期でもあり、科学的捜査と賄賂や思惑に左右される前近代的な裁判が拮抗する複雑な時代が描かれている。町には強盗・追いはぎ・酔っ払いが横行していて、微妙に犯罪捜査に影響を与える。こうした状況で進む犯罪とその捜査がやや衒学的な文体で描かれているのが、たまらなく面白い。当時のロンドンという町の様子が克明に描かれているので、本当に日本人が書いたものなのだろうかと不思議にさえ感じてしまう。日本人がこうした設定で小説を書くには大変な下調べとか時代考証が必要だと思うのだが、どうしてこの著者は、こんな複雑な状況の作品をわざわざ書いたのだろうか、と不思議になる。さらに著者は御年81歳、本当に信じられないことだと思う。ミステリーということを忘れて読みふけってしまったので、最後に用意された大どんでん返しなど、途中で気づく余裕もなかった。気持ちよく「完敗」した。(「開かせていただき光栄です」 皆川博子、早川書房)

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