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食べる西洋美術史 宮下記久朗

西洋美術史を食事風景や食糧を主題にした作品にスポットをあてて解説してくれる本書。読んでみて、両者には予想以上に強い繋がりがあるということがわかった。第1章の、宗教画のモチーフとして「最後の晩餐」が頻繁に描かれている背景とか、それらの時代を経るごとの変遷などは、まあ想像の範囲内であったが、第2章以降の食事風景や食糧をモチーフにした西洋絵画の変遷の記述には本当に驚かされた。宗教画においては、描かれた食事風景や食品は宗教的な意味合いを持ったものとして描かれていたが、やがてそれらが主役となり、近景に食事風景などの風俗画、遠景に宗教的なモチーフを描くいわゆる「二重構造の絵」が登場、そしてさらにその近景部分だけが独立した静物画に発展していったという。こうした静物画の西洋における発展は、表意文字を持つ中国や日本とは異なるものだったという。この辺りの記述はミステリー要素もたっぷりの面白さだ。また、本書では、カラーの口絵が21枚、白黒の写真がちょうど100枚も収録されていて、自分の目で著者の主張や解説を存分に確認することができる。内容、体裁共に満点の一冊だった。(「食べる西洋美術史」 宮下記久朗、光文社新書)

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