goo

どれほど似ているか キム・ボヨン

書評誌で紹介されていた初めて読む韓国のSF作家の作品。量子論や宇宙科学などをベースにした近未来の出来事を描いた短編が並んでいるが、どの作品も科学的知見と社会のあり方に対する問題提起の融合の凄さに圧倒された。解説に「可能性の文学」と書いてあったが、まさにその通りの内容だ。時間旅行のパラドクスや不確実性原理になぞらえて世代間の不信を描いた物語、人体の義体が現実化し男女比が極端に歪んでしまった社会、脳波信号をそのままネットにアップできる技術の開発が選挙や政治にもたらした影響、人体の義体に埋め込まれたAIなど、物語の発端となるアイデアもすごいが、本書の真骨頂はそこから始まる緻密な思考によるストーリー展開と、その物語がいずれも過酷な受験競争や性差別問題などの現代社会とりわけ韓国社会の問題点を厳しく糾弾していることだ。巻末の訳者あとがきや広告ページを見ると、韓国では本書のような世代や属性による社会の分断、競争社会の歪みなどを扱った小説が色々なジャンルで書かれていることが分かる。日本では、そうした社会の分断や生きにくさを個人の問題として描く小説が多いと感じているが、彼我の違いを認識しつつ両方に目を向ける必要があると感じた。(「どれほど似ているか」 キム・ボヨン、川出書房新社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )