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失われた30年を取り戻す 雨宮処凛 白井聡
知人に勧められた一冊。就職氷河期世代いわゆるロスジェネ世代の2人が対談形式で自分を含む同世代の人々の現状や展望を解説してくれる内容。一人は政治学の研究者、もう一人は社会活動家で、それぞれが自分の研究成果や活動成果を持ち寄って分かりやすく教えてくれるのだが、とにかく知らなかったことが満載で非常に為になった。就職氷河期世代の状況について語られた言葉として「年越派遣村」とか「ネットカフェ難民」という言葉は知っていたが、正直その後の彼らがどうしているのかどうなっているのかについては関心が薄れていたし、メディアによる報道も断片的だったように思える。この本を読むと、思ったような就職ができず、低収入のため結婚や子どもを諦めざるを得ず、それに追い打ちをかけるような福祉切捨て政策、SNSによる相互監視、自己責任論の強まりなどによって困窮や孤立の度合いを強めていく彼らの実情が見えてくる。彼らに関する言葉として紹介されている「ミソジニー」「インセル」「高齢者ヘイト」「フェミサイド」などは、どれも初耳で知らないことばかりだった。かつての「カウンターカルチャー」が彼らの世代になって過去の世代と対峙すらしない「サブカルチャー」へと変わっていったという指摘も印象的だ。そうした状況は現在進行形で悪化しており、その次の世代はさらに悪化しているという。彼らの親世代が高齢化して親からの支援も期待できないし逆にその介護の負担が彼らにのしかかってきている。また彼らが団結して社会を動かす可能性についても、同世代で破局を免れた者とそうでない者が自己責任論や妬みで分断されているため悲観的にならざるを得ない。そうした状況下、中国の「寝そべり主義者宣言」、韓国の「ペクス(ニート)連帯」、シンガポールの「BBA」、日本の「NO LIMIT」といったアジア各国の動きが少しずつ連帯をしつつあるとのこと。ある政党の宣伝のような部分が少し気になったが、全体として非常に多くのことを教えられた一冊だった。(「失われた30年を取り戻す」 雨宮処凛&白井聡、ビジネス社)
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